第8話 VSスカルゴースト
こちらのパーティは『遊び人、Lv.4』、『魔法使い、Lv.13』、『僧侶、Lv.19』
対するはベテラン冒険者も恐れる死の上位種アンデッド『スカルゴースト』
肝試し感覚で来た低報酬のアンデッド討伐の初心者向けクエスト。
そこに居ては行けないモンスターが現れたのだ。
全身が赤く透き通っていて中心には巨大な髑髏、左右には巨大な骨の手をこちらを威嚇するように上げている。
うっすら纏った赤い霧が不気味さを増している。
見た目からして打撃は全く効きそうにない。
恐らく何もしなければ殺される。
「……ッ! 戦闘開始だ!! シオン、アレの弱点とかないのか?」
「高レベルの強力な聖属性魔法持ちが5人は集まらないと倒せない強敵だよ! アイツに触ってるだけで一気に生命力を奪われる! もちろん物理攻撃は効かないし…」
「でもヤらなきゃヤられるんでしょ? こっちから行ってやるわよっ! 『ファイアボール』ッッ!!」
いつもより魔力を込めたのだろう大きな火の玉はスカルゴーストの中心に当たって爆発したが相手は何ともなさそうだ。
「もっと強力な魔法を使うんだ! 次の戦闘を考えて魔力をセーブしてる暇はないよ!」
シオンが叫んだ。
確かに今までレイラは『ファイアボール』の魔法しか使ったのを見たことがないがレベル10を超えてる魔法使いならもっと強い魔法を…
「……ごめんなさい。知らないの。私まだ一つしか魔法使えないの!」
使えなかった。
『ファイアボール』って名前的にも魔法使いが一番初めに覚えるような基本魔法じゃないの?
「仕方ない! 金治、聖水剣で攻撃だ! 僕は回復魔法で行く。レイナはもうその魔法を打ちまくって!」
シオンの指示に従って聖水付きの短剣で切りかかった。
確かに当たったはずなのに空中を切ったように空ぶった!
「なっ、聖水剣が当たらない!?」
次にシオンが回復魔法を唱える。
「行くぞ悪霊! 『セイン・ヒール』!!」
恐らく『ヒール』の上位魔法だろう。強い緑色の光がシオンの手から放たれスカルゴーストを包み込んだ。
バチバチと体中から火花が散って、明らかに顔をしかめている。
これは効いてる……、けど倒れるそぶりを見せない。
「私だってもっと魔法覚えたいわよ! でも覚えないのよ! 何故か! レベルが上がっても! 『ファイアボール』ッ!!」
レイナは涙ぐみながら魔法を放った。
レベルはそれなりにあるのに魔法を覚えれてないことを気にしてたのかもしれない。
……しかし、その思いの籠った魔法も効いてる様子がない。
「……ダマレ、雑魚ドモメ…!」
そうスカルゴーストは言うと赤く輝き出した。
「……!! みんな伏せろ!」
明らかにヤバそうな雰囲気にとっさに叫んだ。
レイナもシオンも倒れた棚や机の陰に飛び退いた。
次の瞬間、猛スピードでスカルゴーストは階段に向かって飛んでいき地下室から出て行った。
恐る恐る頭を上げ、周りを確認する。
「みんな無事か?」
「ええ、何ともないわ」
レイラはほっとした様子で答えた。
一方シオンは青ざめている。
「……マズいよ…。ゴースト系のモンスターは人間の生気を吸い取るモンスターなんだ。きっとこの教会から出たらフロントの街が見えるよね…」
……あ、察しがついたぞ。ヤバいな、かなり。
「そりゃそうでしょうね、ここちょうど丘の上だし。でもアイツどっかいったしいいでしょ?」
こんな楽観的なレイラにシオンは怒鳴った。
「弱くて生気も少ない僕たちをアイツは無視したんだ! もしこのまま野放しにしといたら間違いなく人間がたくさんいるフロントの街に行く! そしたら初心者冒険者ばっかりのフロントなんてあっという間に全滅だぞ!!」
状況が分かるとレイナも青ざめる。
「急げ! 追いかけるんだよ!」
シオンの掛け声につられてドタバタと階段を駆け上がった。
階段からそっと礼拝堂を覗き込んだ。
奥の祭壇のあたりでスカルゴーストはウロウロしている。
「ねぇ、まさか戦う気? こっちの攻撃、一つもきかないのよ。居なくなるまで隠れてましょうよ」
目を血走らせてるシオンの袖を引っ張りながらレイラは言った。
「恐らくアイツが目覚めたのは僕らが派手に暴れたからだと思う。それに居なくなるまで待ってもフロントの街が全滅するか、外に出ないとしたらこの地下室にきっと戻って来るぞ」
それを聞いたレイラはもう泣き出しそうだ。
「取りあえず地下室に戻らないか? 作戦を立て直そう」
俺は無難そうな意見を提案してみる。
俺たちは音を立てないように地下室に逆戻りした。
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取りあえずレイラもシオンも落ち着いたみたいだが絶望は変わらない。
ああだこうだ言ってみても解決案なんて出てこない。
レイラは自分のカードで魔法が出ないか確認しだして、シオンは何かないか背負っていたリュックをひっくり返して探している。
確かに絶望的な状況だが不思議と俺は怖くなった。
ただ無知なだけなのか第六感的なものなのか全くわからないけれど。
俺も取りあえずカードを出したがやっぱりスキル欄は空っぽだ。
特にアイテムも持ってない。
『ダイスの腕輪』を思い出したがこれで自分を強化したところでは物理攻撃が効かないゴーストには無意味だろう。
考えるのもアホらしくなってきて地下室をウロウロしていると倒れた棚の周りにいろいろと見慣れないものが落ちているのに気付いた。
不思議な形の瓶や宝石付きのアクセサリーや見たことない文字の本など様々だ。
「なぁ、シオン。ここって昔は魔法アイテムの保管場所だったんだよな。何か強力なアイテムとか残ってないかな?」
シオンは周りを見回して少し悩んで答えた。
「確かにここは危険な魔法道具や封印されたものを保管しておく秘密の地下室だったって聞いたよ。でも見た感じほとんどのものは風化して壊れてるし動くものが残っててもロクなものはないと思うよ」
うーん、結構いいアイデアだと思ったけどな。
やることがない、もといなんとなく諦めきれない俺は読めない本をペラペラめくってみたり、落ちて割れた不思議な形の瓶をいじったりしてみた。
部屋の一番奥の机の上に2つの箱が置かれていた。
片方は雑に黒い包み紙が破られて開けられている。
もう片方は白い紙と黄色いリボンでラッピングしてあり、まるでプレゼントの様だ。
「シオン、この箱はなんだろ? いいもの入ってそうだけど開けていい?」
万策つきたらしいシオンがふらふらとこちらにやって来た。
……見た目は小学生なのにとてもやつれている。
「ええっと……、『災厄の霊魂』…こっちの開いてるほうにはあのスカルゴーストが封印されてたみたいだね。やっぱり最近開いたものみたいだ。もう片方は……、なんだろう? 『神様の箱』って書いてあるけど…」
シオンが辞書のような本と見比べながら箱のラベルを呼んでくれた。
「『神様の箱』ねぇ……、聞いたことないわね」
いつの間にかレイラも会話に参加している。
「もしかしたら本当に神様が入ってるんじゃないの? 開けてみようぜ。あのモンスターをやっつけてくれるかもよ!」
「おい、止めなよ金治。神様なんて封印できるわけないし、封印されるなんてろくなものじゃないぞ」
シオンが冷静に止めてきた。
「確かにスカルゴーストと同じような箱に入れられて並べて置いてあるのよね。同じくらい強力なモンスターじゃないかしら? それをぶつけたら相打ちになったりするかも!」
レイラが明るく言った。
シオンはそれを聞いてうなっている。
「そうかもしれないけどそのモンスター2匹がセットで襲ってきたらお終いだよ」
二人ともそれっぽいこと言ってるけどどれが正解かなんてわからないよな。
それならば…
「よし! こっちの『神様の箱』をスカルゴーストの前で開けてみよう!」
そう言って白いラッピングがされた箱を俺は徐につかんだ!
慌てるシオン、不安そうなレイラ。
ここにいてもどっち道、モンスターに殺されるか街が襲われてしまうだろう。
どうせ弱っちい遊び人なんだ。
俺の唯一の『取柄』に全てをベットするとしよう。
その平均以下のステータスの中、唯一人並以上である『取柄』、運に!