第72話 氷の中のフロント
「起きてよ、起きてったらみんな! 何か変だよ!」
シオンの叫び声で俺たちは目を覚ます。
「何よシオン……、まだ眠いわ。フロントに着いたら起こしてよね」
樽気なレイラに首を探してフラフラしてるローレンス。
列車は揺れ、無事進んでいるようだし違和感はないな。
フェアリーテーブルを出発してから3日目。
今日の昼にはフロントに着くはずだ。
「とにかく外を見てよ! もうここはフロントの近く、こんな事はありえない…」
俺たち三人は窓へ近寄る。
「何よ、真っ白で何も見えないじゃない。開けるわよ……、な、何よこれ!?」
「うぉっ、何だと!? まさかこの時期に…」
窓を開けると冷たい風と共に吹き込んでくる白いもの。
外は一面真っ白に染まっていた。
「へぇ、この世界でも雪って降るんだな。今は冬なのか?」
「なに呑気な事言ってるんだよ! この辺りの気候は年間を通してあんまり変化が無い筈なんだ。フロントに雪が降る何ておかしい、それに雪があると危険なモンスターも発生するんだよ」
つまり異常事態って訳か。
大変だなぁ、この異世界も。
「ちょっと、あれってフロントよね? 雪が積もって真っ白よ! それに何か正門辺りで戦ってる?」
確かに門の辺りで爆発が起こったな。
「ま~た面倒事の予感だなぁ。魔王軍か? しつこいな」
「ただの異常気象って可能性もあるけど心配だね。早くついてくれよ…」
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キャラバンがフロントの前に到着すると戦闘は既に終わっていた。
俺たちは荷物を持って馬車から降りる。
「ううぅ~、寒い、寒いわ。早くギルドに戻りましょうよ…」
ガタガタ震えるレイラ。
「そりゃそうだろうな、雪降ってんのにその格好だし。その露出多いの以外に服は持ってないのかよ?」
踊り子みたいな服を着てるレイラは常時水着みたいなものだ。
寒そう。
「そんなに寒いか? 俺は何ともないぞ」
そう言うローレンスの足元を見ると雪が解けている。
もしやと思い彼の鎧に手を当てると暖かい。
「そうか、ローレンスの鎧はキングダイト製だったよね。キングダイトは熱を発する魔法金属なんだ。その炎の魔剣も相まって暖かいんだろうね」
「そりゃいいな、おいちょっと肩組もうぜ! ……あったけぇ」
「ズルいわ金治! 私も……、ああ、生き返るわ」
俺たちがローレンスの巨体に抱き着いてると見覚えのある顔が近寄って来た。
「何やってんだよお前ら……。まあいいか、今日の便で帰って来たんだな」
「久しぶりだなバルド! 流石のお前もこう寒いと服着るのか」
いつも半裸だったバルドがちゃんと防寒着を着ている。
一瞬隣にいるほぼ半裸の魔法使いを見たが残念な気持ちになるな。
「おいおい金治、人の事を露出狂見たいに言わないでくれよな。お前の仲間のがよっぽど……、い、いや何でもねぇ。それより見ての通り突然雪が降って大変なんだぜ! 強いモンスターも現れる様になっちまったし。とにかくギルドに来てくれよな!」
俺たちはバルドと共に雪の積もった商店街を抜けて行く。
毎日にぎわってた通りにも屋台は出ていなくただ寒いだけだ。
何が起こっているんだ?
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ギルドに入るとそこはいつも通りのにぎやかさ。
暇そうな冒険者が燻り、馬鹿な話をして大笑いしている。
俺たちが通ると「帰ったのか」とか「よう久しぶり」とか声を掛けて来る何時もの奴ら。
そして俺たちはお馴染みのカウンター席に座った。
「ねえマスター、フロントで何があったの? 明らかに変なんだけど」
マスターは俺たちの前に暖かいミルクを置きながら答える。
「1週間くらい前だったか、突然空が暗くなって雪が降り始めてな。街に行商が来れなくなったり、近くに今まで居なかったモンスターが現れちまってるんだ。長年このギルドのマスターをして来たがこんなのは初めてだ」
「それはやっぱり不自然だね。最近おかしなことはなかった? もしかしたら魔王軍の侵略行為かもしれないし…」
「それはないと思うぜ……、ハッ、ブワァックショイッ!」
シオンの疑問に答えたのは近くに座っていたリックだった。
何故か彼はお湯の入ったタライに足を突っ込んで毛布を被って震えている。
「何でお前が分かるんだ? ……あと何があった?」
震えるリックに代わってバードが答える。
「さっきバルドさんと一緒に近辺のモンスター退治クエストに行ったっす。そしたらリックがモンスターのブレスをモロに受けて氷の塊に……、しかも固まった時のポーズがマヌケと言ったらもう、哀れでしかたないっすよ!」
「緊急事態でも相変わらずドジやってるのねぇ。で、何でこんな寒くなってるのよ?」
何気なくリックの心を抉るレイラ。
「あ、ああ、ちょうどこの変な天気になる前、1週間前だな。ギルドにエルフの女の子が訪ねて来たんだ。シオンを探してたけど居ないって言ったらブチ切れてな。『この街を凍らせてやる、シオンが戻ってきたら私は氷の城に居るって伝えろ』って怒鳴り散らしてギルドを出て行ったんだ。その数時間後から雪が降り出したんだよ」
俺たちは黙り込む。
シオンに恨みを持つエルフか?
それにしては話が飛んでるような…。
「ねえ、僕を探してるっていうソイツは恐らく心当たりがあるよ。でも君、その子に何かしたでしょ?」
ソッポを向くリック。
「分かったわ! リックあなた、ま~たナンパして怒らせたんでしょ? 前にもあったわよねぇ、リックが女の人怒らせて一緒に謝りに行ってあげた事」
そんな事があったんかい。
「と、言う事はこの異常天候はリックのせいになるのか? いや、でも流石のリックでもここまで天候を操れる大魔導士を怒らせるなんてないか。すまないなリック、疑ってしまった」
冗談っぽく笑うローレンスに対し深刻そうに顔を背けるリック。
まさか…。
「はい……、ナンパしました。それで完全に怒らせちゃいました。……いや、セクハラはしてない! あれは事故だったんだ! 信じてくれ!」
何をやらかしたのか知らないが必死に弁解するリック。
「もういいよ。それより僕が知ってる中でも天気を操る高難度の魔法を使える奴は限られる。それで女の子となると思い当たるのは一人だけだ。金治、みんな、今すぐ彼女を止めに行かないとめんどくさい事になるだけだ。手伝ってくれ!」
何時になく苛立って叫ぶシオン。
これはリックがやらかしたからじゃない、その女の子と言うのが相当めんどくさいんだろうな。
「でも私寒いのは…」
「頼むから手伝ってくれ。早いうちに制裁しないとフロントが本当に氷漬けにされちゃうよ。……それで、『氷の城』ってのはどこなの?」
小さいながらも鋭い眼光でリックを睨み付ける。
「街の裏にある山、そこの洞窟を氷で城っぽくしてるらしい。実際、ギルドの裏から見れば氷の建造物が見えるぞ。でも氷系のモンスターが大量に…」
「ありがとうリック。それじゃあみんな、悪女に制裁しに行くよ!」
シオンは俺とレイラの腕を引っ張って歩き出す。
ローレンスも慌ててついて来る。
「ちょっとシオン、氷のモンスターって聞こえたんだけど…」
「大丈夫、僕らに倒せない敵じゃない。さあ、急ぐよ!」
何時になく強引なシオンに引きずられて吹雪の街へと歩き出す。
嫌な予感しかしねぇな。




