第71話 英雄のいない街
俺たちはローブで顔を隠して正門を抜ける。
朝焼けが眩しい、少し肌寒い早朝。
街の前ではキャラバン隊の列車が出発の準備をしていた。
魔王軍との戦いは昨日の話。
妖精魔法を発動して街を守った俺たちは徹夜での戦いという事もあり夜まで爆睡していた。
起きたら勝利の宴が街中で行われている。
祝福されながら飲みまくってる内に朝になっていたという訳だ。
俺たちはこのフロントに立ち寄るキャラバンに乗ってフェアリーテーブルを後にする。
……誰にも気づかれない内に。
「待てよそこの怪しい奴ら! 俺様にあいさつ無しとはいい度胸じゃねぇーか!」
その声に振り返ると正門の上にレザー系の派手な服を来た金髪野郎が。
ソイツはカッコつけてそこから俺たちの前へと飛び降りた。
「ギンガ……、悪いな、俺たちはフロントに帰るぜ」
「おいおい、街の奴らはまだお前らに感謝したりねぇみたいだぜ? ここでデカい態度しとけば英雄なんだ、それに金治にもファンがいっぱい付いたみてぇじゃねーか!」
グラサンを外して踏み込んでくるギンガ。
「そりゃ嬉しいな。でも俺たちは名声には興味ないんだ」
「へっ、何でだ?」
予想外の答えなのかギンガは驚いているな。
「分かってないわねぇ、ここにいても褒め称えられるだけじゃないのよ。私たちはお金にしか興味ないの! それに有名になったって面倒なだけだしね」
隣で自慢げに言うレイラは生き生きしてるな。
「僕らはやるべきことを終えたからね。フェアリーテーブルの悪い魔女の噂は優しい嘘だった。魔王軍を追い払ったし、妖精魔法の秘密も解いた。この街はもう大丈夫だよ」
「うむ、我らの最初の目的はシオンの故郷を守ること。街の観光もしたし用事は全て終わってるのだ。……変に長居しても注目されるのはめんどくさいしな」
シオンとローレンスも大きく頷く。
こっそりと街を去るって言うのは俺たちパーティの総意だ。
「それになギンガ、俺たちは『英雄』って言われた。平和な街にヒーローは必要ないんだ。俺たちの出番はこれでお終いさ」
清々しい気分だ。
俺は自分たちで守った平和を見て帰れるんだからな。
「そ、そんなの寂しいじゃねぇか! もっと俺様の歌でも…」
シュパァァァン……。
「そうだよ、寂しいよ! 僕たちだって一緒に戦った仲間でしょ!? 一言くらい言ってくれても良かったんじゃないの?」
「良いカッコしといて黙って去るなんてヘタレローレンスの癖に生意気よ! この私から見てもあなたたちは恩人なんだからね!」
転移魔法でギンガの前に突如現れた派手な格好の二人組。
ワカバとダニエラは涙ぐんでいた。
「悪かったって……、ってワカバたちは転移魔法があるんだからフロントにでもどこにでも行けるんじゃないの?」
「あなた知らないの? 転移魔法は一度言って覚えてる場所にしか飛べないのよ。私もワカバもフロントには行ったことないわ」
なるほど、この世界の転移魔法は自由に飛べるわけじゃないのか。
ゲームっぽいよくある感じだな。
「でも俺たちはもう必要ないだろ? フェアリーテーブルは悪い魔女たちが支配する街。これからもお前らが『悪さ』をするんだろ!」
俺がニッと笑いかけるとワカバは涙を拭いて笑って見せる。
「もちろんよ! このワカバ様がこの街を支配するのよ、僕の街は誰にも壊させないし渡す気もないよ!」
「だったら安心だね。僕の一番大切な街も友達も魔女様が守ってくれる訳だ」
シオンも満足そうに頷く。
「じゃあ行きましょうか。早く行っていい席取らないと……、何かしら!?」
突然周りに黒い霧が立ち込める。
この感じ、アイツだな。
「フフフフフッ、私に気が付くとはやはりやりますねぇ金治は。あなた方の奇跡、この目に焼き付けさせて頂きましたよ」
黒いオーラを纏って現れた半身鱗の悪魔。
「おいテメェ、魔王軍の四天王様が何の用だよ!? まさかまたやろうってのか!」
「魔王軍? 妖精魔法の秘密が解明した今、あんなブラック企業に用はありませんよ。退職届を魔王のデスクに置いて来てやりましたとも」
いろいろ言いたいことがあるけど無茶苦茶だな。
「ま、魔王軍ってブラックだったのね。そんな簡単に四天王が退職しちゃうなんてどんな物語でも僕は聞いたことがないよ」
「信じていいのかこれは? 俺が四天王と戦った時は魔王に忠誠を誓うって感じだったしなぁ」
そりゃ不安にもなるよな。
……ってかローレンス四天王と戦ってたんだ。
「まあこれで魔王軍の四天王が一人いなくなったって事だよね。人間側が少し有利になるんじゃないかな」
シオンは半分呆れながら呟いた。
いや、待てよ…。
「って事は俺たちが実質四天王を一人倒した事になるんじゃないのか!?」
「そりゃいいな! 実際俺様たちの妖精魔法でアイツの最強モンスターを倒したんだからな、これは手柄だろ!」
「賛成よ! これはもう私たちの手柄にしちゃいましょう」
一部が猛烈にはしゃいでいるがみんな唖然としてるな。
「フフッ、面白いですねぇ。私は遊び人に倒された四天王って訳ですか。……いいでしょう、そのアイデア頂きです!」
ヴァイロンは俺の前に進み出ると肩に手を置く。
「私は魔界に帰らせて頂きますが是非遊びに来て下さいよ。魔界は案外いいところです。……破産でもして住む場所が無くなったら部屋くらいは貸しますよ?」
俺はその手を掴んで…。
「残念ながら俺の運だけはいいからそれはないぜ? でも絶対遊びに行くからな、魔界なんて面白そうじゃねぇか!」
ガァーンッ、ガァーンッ……‼
ヴァイロンと握手をしたその時、キャラバンの列車から鐘の音が響いた。
もうすぐ出発みたいだな。
「さあ急いで乗り込もう! ほら金治も、置いてくよ?」
シオンに促されて駆け出そうとした時、誰かに腕を掴まれた。
「行っちまうんだな……。なあ最後に礼を言わせてくれよ、お前のお陰で俺は逃げ出さなかった。今回は後悔しないで済んだんだ。……ありがとな。俺様、最高の勇者になってやるぜ! そして世界一モテるヤツになってやる! だから金治、お前を俺様のライバルにしてやる、喜べ!」
ぶっきら棒に叫び、片手を差し出すギンガ。
コイツも会った時と何か変わったな。
「へぇ~、お前が最高の勇者ねぇ。まっ、ほど遠いけど応援してやるよ! せいぜい俺なんかに負けないよう頑張ることだな。頑張れよ!」
ギンガはワタルとは正反対のチャラくて軽い男。
そして俺が大っ嫌いなタイプだ。
でもそんな奴と俺は固い握手を交わした。
……ギンガは馬鹿だけど嫌いじゃないぜ。
「何やってるのよ金治! 早く乗らないとキャラバン出発しちゃうわよ!」
「分かってるって、今行くぜ!」
レイラに呼ばれて俺は一台の馬車に飛び乗る。
窓から振り返ると街の中から警備兵の部隊が出て来るところだった。
先頭はデニスだけどどうしたんだ?
「全体止まれっ! この街を守った英雄に敬礼ッ!」
「「「ハッ‼」」」
整列した軍隊が馬車の中の俺たちに向かって敬礼をする。
……何か照れちまうじゃねーか!
「英雄の旅立ちにはファンファーレが必要だよな! 鳴り響け、『グランドテンポ』ッ!」
空に手を掲げたギンガが叫ぶと光の玉が空へ浮遊し、盛大な音楽が爆音で流れ始めた。
粋な事するなぁ。
ピーッ……‼
車掌の笛が響くとキャラバンの列車はゆっくりと走り出す。
外には騒ぎに集まって来た街の人々、敬礼する笑顔の騎士たち、そして一緒に戦った仲間たち。
大勢の声援に押される様に俺たちは進む。
「じゃーなぁみんな! また会おうぜっ!」
キャラバンはトンネルを潜り、山道を登り、ついに街は見えなくなった。
━━魔法都市『フェアリーテーブル』
最新の魔法を研究する、美しい大都会。
そんな街に隠された秘密は古の時代に妖精が残した大魔法。
不思議な魔法陣の上、街は今日も魔法の光で輝いている。
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「そう言えばシオンはエルフの里に顔出さなくても良かったの?」
屋台で買っておいた饅頭を頬張りながらレイラが問いかける。
「まあね、僕はエルフの里から家出したようなものだから。それに僕、親が居ないんだよね。生まれたばかりの頃、長老のところに引き取られたんだ」
その呟きに思わず饅頭を落とすレイラ。
「ご、ごめんなさいそんな事聞いちゃって。嫌な思い出よね…」
シュンとするレイラにシオンは笑顔で答えた。
「ううん、大丈夫だよ。長老は僕の事を理解してくれてた。顔を見て分かったよ。ピンチの時はきっと見ていてくれる、それが長老……、いや、僕のお爺ちゃんだからね!」
力強く言い切って笑顔を見せるシオン。
「強いんだなお前。……いや、何でもないぜ。そんな事より景気づけに一杯やろうぜ! 街でこっそり買っといたんだぜコレ、旨そうだろ!」
俺は内緒で買った高めのお酒を取り出す。
「それフェアリーテ-ブルの地酒だよ! 僕も買おうと思ってたけど忘れてたんだ、すっごく美味しいんだよ!」
「やるな金治! じゃあ俺はつまみになりそうな物を出そう。俺たちではまだ乾杯してなかったよな、勝利を祝って」
俺たちは木製のジョッキにそのお酒を注ぐと構える。
「ゴホン! それじゃあ、防衛成功を祝しまして…」
「「「「乾杯ッッ‼」」」」
レイラの音頭で列車の個室に声が響いた。
太陽を浴びて爆走するキャラバンで俺たちパーティの勝利の宴が始まったのだ。
何時もの面子、こうじゃないとな。
暗いのも嫌だし、有名人になってキチンとしなきゃいけないのも嫌だ。
冒険は楽しくないとな!




