第17話 星が降る時
響き渡ったミラさんの魔法発射宣言に冒険者は一斉に街の方へと走り出した。
「ゲッ! 何かマズそうだッチェ! …おい、ダースドラゴン! 起きるッチェ! 早く飛び立つッチェ! ここは危険な予感がするッチェ!」
固定砲台となって火球をたまに放っていたドラゴンの上で悪魔のチップが飛び跳ねている。
だがもう手遅れだ!
「天に輝く星々よ! 邪悪なる竜に流星の裁きを! 『シューティングスター』っ!」
拡声メガホンを持ったまま詠唱したのかミラさんの声が響く。
次の瞬間、フロントの街上空がカッと光ったと思ったら白い光線が赤い炎を纏いながら高速で飛んでくる。
その流星はダースドラゴンの真上から突き刺さり、激しい閃光と共に大爆発を起こした!
「やったのか!?」
爆発で巻き起こった砂煙も収まると倒れたドラゴンを中心にクレーターが出来ていて、残っていたモンスターも殆ど吹き飛んだようだ。
……やった、これでフロントの街はドラゴンという驚異から守られた。
みんながそう思ったのだろう、これまでに無いほど大歓声が上がった!
俺も思わず力が抜けて膝を地面についた。
「駄目です油断しちゃ! まだドラゴンは生きています!」
……え?
そう叫んだミラさんが階段を駆け下りて正門を駆け抜けてやって来る。
その時、ドラゴンの死体がある筈の方向から巨大な火炎弾が飛んできてそれは街の城壁に当たって大爆発を起こした。
振り返るとそこには体中ボロボロになり、翼も破けたダースドラゴンがこちらを鋭い眼光で睨み付けているではないか。
冒険者たちの悲鳴があちこちで上がった。
……あの隕石みたいな魔法食らって生きてるの…?
絶望して立ち尽くしてるとミラさんが隣に来て、レイラとシオンも駆け寄って来た。
「ごめんなさい! 確かに『シューティングスター』の一撃であのドラゴンに止めを刺せるはずでした。……でも、あのドラゴンの上で跳ねていた悪魔が威力を軽減させてしまったようなのです」
そう言う大魔法使いが指さす方を見るとドラゴンの隣で真っ黒に焦げたチップが転がっていた。
「そんな! ここまで来てダースドラゴンが生き残ってしまうなんて…。こんなの想定外ですよ!」
「あのクソ悪魔、最後の最後に死んでまで私たちの邪魔をしてくるなんて! ……どうするのよ! ドラゴンこっちに向かって歩き出してるわよ!」
レイラもシオンも絶望のどん底だ。
「何か手はないんですかミラさん? …そうだ、もう一度さっきの隕石魔法を打ち込めばいいんじゃないか?」
もう一度、ドラゴンに最強魔法を。
……しかし、ミラさんは首を横にふって。
「それは無理よ……。さっきの魔法はもの凄く魔力を使うの。今日はもう初級魔法を数発撃てればいいレベルよ」
確かに疲れ切っている様子だ。
「クソッ! 僕も回復魔法を打ちすぎました。魔力を他人に分け与える魔法はあるけれどあんな大魔法は僕の魔力を全部渡しても無理です…」
「どうするの…。私の魔力もあと少ししかないわ。他の冒険者も満身創痍よ」
確かに見回してもみんな疲れ果てている。
回復魔法の助けもあり大怪我を負った冒険者こそいないようだが十分に戦えないだろう。
そう考察していると近づいて来ているドラゴンが火炎弾を放った。
今度は上にそれて壁に当たる……、というコースではなく真っ直ぐこちらに飛んで来ているじゃないか!
「危ない! みんな伏せてっ!」
そう叫んで前に飛び出したのはシオンだ!
火炎弾を食らったシオンの体が一瞬輝いて砕けた光のバリアが炎を吹き飛ばしたがシオンは衝撃で吹き飛んで地面を転がった。
「…! 大丈夫かシオンっ!」
咄嗟に大声で呼びながら引っ張り起こすと、
「平気さ。バリアを貼ってもらってたからね。転んだだけさ」
眼鏡をかけなおしながらそういうがもうフラフラだ。
一応、チップが来る前に自分とレイラとシオンには『ワン・モア』の魔法をかけておいたのだが、この魔法、他人にかけるのは多く魔力を使うようで自分たちにかけたところで俺の魔力は切れてしまっている。
つまりもうかけなおしは出来ない。
「ミラさん! 何かアイツを倒す方法はないの?」
レイラがミラさんの袖を引っ張って聞く。
「…ええ、あのドラゴンは確かに私の魔法を耐えましたが大きなダメージは負っています。…それに表面の鱗もボロボロになっているため防御力も下がってる筈です。この状態なら強い武器があれば大きなダメージを与えられるでしょう!」
周りを見回すがそんな特別な武器を持ってる人はいない。
それに近づいて火炎弾を吐かれたらお終いだ。
やっぱりもう手はな…。
……あ、うん、何も思いつかなかった、俺は何も考えてないぞ。
いやだってあんなのに近づくの怖いじゃん!
おい、レイラなんだその視線は。
俺の短剣を見るな。
おい、何も言うなよ、おいっ!
「金治のその短剣ってミラさんにもらった魔法の剣よね? それならドラゴンにも効くんじゃない?」
…………。
「そうですね! その『ミリオンスター』は素早く切りつけるほど魔法の威力が高くなる魔法剣です。そのマントで思い切り助走をつけて切りかかればきっと一撃であのドラゴンは倒れると思います。金治君、お願いできますか?」
…………ミラさんまで…。
ああ、周りの冒険者の期待の籠った目が痛い。
マントで素早くなっているならもう走って逃げ出したい。
でも……。
……仕方ない、か。
「……分かったよ。やればいいんだろ、やればっ! ほら、レイラ行くぞ。まだバリア付いてるんだから援護してくれよな」
そう叫んでドラゴンの方を向いた。
……仕方ないじゃねーか。
俺は正義の主人公なんてがらじゃねーし、怠け者で卑怯で横着で我儘で、嫌なヤツの筈だ。
でも、一回好きになったものは無くしたくねぇよ。
……街も、仲間も。
ハァ…、もう腹括るっきゃないかぁ!
俺は力一杯地面を蹴飛ばしてゆっくりこちらに前進しているボロボロのドラゴンに向かって全力で駆け出した!
マントを意識すると自分とは思えないほどスピードが出る。
ドラゴンはそんな俺に火炎弾を吐こうと赤く輝く口を開けていた。
「さあ、レイラちゃん。私たちも魔力の限り魔法であの勇者を援護するわよ。…それが魔法使いの役割なのよ! 『ファイアボール』!」
ミラさんが唱えたのはまさかのレイラと同じ初級魔法。
しかし、その威力は桁違いだ。
俺は横に飛び退いた。
マントのおかげか体が軽い。
さっき俺がいたところをミラさんが放った『ファイアボール』が飛んで行き、ドラゴンの吐き出した巨大な火炎弾にぶつかると相殺したのかどちらも弾けて消えた。
また俺は走り出した。
もう少しでドラゴンに届くぞ。
ドラゴンはまた火炎弾を放ったが今度は俺を狙わず、ミラさんたちが立っている方に飛んでいく。
ミラさんがまた相殺魔法でしてくれるだろうと思い、振り返るとなんとミラさんが膝を地面について倒れているのだ!
「……どうやら歳を見くびってたみたい。…もう魔力がないわ。レイラちゃんも逃げて!」
慌てて止まった。
火炎弾を追いかけて走ろうとしたその時…、
「金治は走って! こっちは大丈夫だから! …ドラゴンを倒して!」
倒れたミラさんの前で仁王立ちをしたレイラに火炎弾は直撃した。
『ワン・モア』が割れたようだから命は大丈夫だろうけど後ろに吹き飛ばされたようだ。
……何でこんなにいつもアホな仲間たちがかっこいいんだよっ!
俺は左手の腕輪を叩きサイコロを出現させる。
放り投げると結果も見ないで俺はスパートをかけて走りだした。
体が一瞬青く光り加速する。
…どうやら1以外の目が出てくれたようだ。
あと数歩で手が届く、という時にドラゴンは特大の火炎弾を発射した!
火炎弾にぶつかり爆炎に包まれた。
ガラスが割れるような音を立てて俺を包んでいた『ワン・モア』が崩れる。
しかし、加速しまくっていた俺は爆発の衝撃にも負けず前へと進む。
俺はここで地面を蹴って力の限りジャンプした。
魔法のマントのおかげか、『ダイスの腕輪』のパワーアップか、俺は爆発の煙を突き抜けて遥か高く飛び上がった!
太陽が近い。
後ろからは冒険者たちの声援が聞こえてくる。
下では俺を見失ったドラゴンが動きを止めた。
……いまだっ!
「いっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼」
俺は叫び声を上げながら、そのまま短剣を突き出すようにドラゴンの頭めがけて落下して行く。
流星のように一直線に突っ込む!
『ミリオンスター』が突き刺さると走って落下した分だけ強くなっているのか、凄まじい白い閃光が刀身から発せられた!
「グギャァァァァァァァァッッ‼」
ドラゴンの断末魔が響き渡った。
動かなくなったドラゴンから短剣を抜き取る。
「……おい、そこのお前…。一つ聞かせるッチェ。」
黒焦げになったチップが話しかけてきた。
……コイツ、生きてやがったか!
「そう身構えるなッチェ。…どうして3日間猶予を与えたのに逃げなかったッチェか? あんなに強い魔法を使う作戦まで立ててッチェよ。他の冒険者みたく近くの洞窟にでも隠れて俺たちが街を襲い終わるのを待っても良かったはずッチェ。…まあ、その冒険者たちも前日に街に戻ってったッチェけどね」
あいつらだから前夜まで街で見もしなかったのか。
「……勝てる気がしたからこの作戦に賭けただけだよ」
「納得いかないッチェ! 何で戦ったッチェ? 何で逃げないッチェ? 怖いはずッチェ。最強のモンスタードラゴンだッチェよ。知らないはずないッチェ! 何で命を賭けれるッチェ?」
何で賭けるのか。
戦った訳なんて俺も分からない、……成り行きとしか答えられない。
でもこれには答えられる。
「戦う理由も逃げない理由もよくわからないな。…逃げる勇気も戦う勇気もなかったからかなぁ? ……でも、賭けた理由は欲しいものがあったからだ! ギャンブルでも何でも欲しいものがあるから賭けるんだぜっ!」
「……欲しいものがあるから…、ッチェか。……俺様も同じッチェ! 金治とか呼ばれてたッチェね。次は負けないッチェ!」
そう言ってチップは後ろにジャンプして下がると、
「今日のところは勘弁してやるッチェ! 『テレポーテーション』ッチェ!」
呪文を唱えると黒い光で包まれたチップは一瞬で空の彼方に消えていった。
どうやらこのモンスター対冒険者の戦いは俺たちの勝ちらしい。
「「金治っ!!」」
レイラとシオンがこっちに走って来る。
その後ろにはたくさんの冒険者が追いかけるように走って来る。
手を振ろうとした時、体が一瞬青く光った。
……ああ、腕輪のタイムリミットか。
ただでさえ疲れ果てていた体にさらに疲労が降って来た。
人間とモンスター、悪魔、そして魔法。
まだまだこの異世界にはまだ知らない不思議が溢れているらしい。
今は悪魔との賭けで見事勝ち、欲しかったものを手に入れた喜びを感じよう。
街と仲間、俺が大好きになってしまったものだ。
走って来る仲間たちを薄い意識で見たのを最後に今回も目の前は暗くなった。
……宴、出たかったなぁ…。




