第12話 侵略者
2日前に表彰式で特別報酬をもらったり、宴をしたようだがあまり記憶にない。
結局、昨日の朝方まで宴は続き、その日1日はこのフロントの街の殆どの冒険者が二日酔いでダウンしていたためギルドが出張版医務室のようになっていた。
まだ数人、壁に寄りかかるように項垂れてる酔っ払いがいるが今日になって冒険者の活動が再開されたようでギルドもまた賑わっている。
俺たちは大金を手に入れたが不自然にやたらやる気を出しているレイラが「まだまだよ! 一人金貨1000枚が最初の目標ね!」と言う。
だが金はあっても困らない、やることが特にないということで本日もまたギルドで他のパーティからの誘われ待ちをしている。
昼飯を食べ終えたのだが今のところ誰も誘いに来ない。
……おかしくないか?
例によって他の待機してた他のパーティらは誘われてクエストに出発していった。
俺たちはつい最近上級モンスターの討伐で表彰されたパーティだぞ?
「なんで誰も誘いにこないのよ! もうすぐ朝一で簡単なクエストに行ったパーティは帰ってくる時間よ! 私たち表彰されたのよ、MVPパーティでしょ! みんなお金払ってでもパーティを組みたがるものじゃないの?」
ついにレイラは我慢の限界のようだ。
「確かにおかしい! これは何者かの陰謀を感じざるを得ない!」
今回は絶対すぐ誘われると思ってたのにどうしてだ?
……そんな癇癪を起した俺らにシオンは冷静に答えた。
「あのねぇ、確かにみんなで協力してスカルゴーストを倒したけどダメージ与えたのは僕の魔法だけじゃん。しかもアンデッド相手っていう特例だから回復魔法を攻撃に使えたけど普通のモンスター相手なら僧侶は攻撃手段を殆ど持ってない職業なんだよ? ……君たち二人が攻撃を担うことになるけど逃げる時くらいしか役に立たない魔法を持ってるだけの遊び人。使えるのが『ファイアボール』ひとつの魔法使い。普通の感性ならこんな雑魚パーティお断りだね! まぁ、僧侶だけは優秀だけど!」
ボロッボロに言われたけど反論のしようがない。
確かに俺は最弱の『遊び人』なんだ。
レベルは7に上がって『旅芸人』と『盗賊』に転職できるようになったがどちらも魔法を覚えない職らしいし、せっかく覚えた『ワン・モア』の魔法も転職すると使えなくなるようなのでこのままでいくことにした。
そう、実質魔法を覚えてしぶとくなっただけで強くなってはいないのだ。
ちなみに『神様の箱』は開けたものに今一番必要な魔法を与えてくれる魔法アイテムだったそうだ。
一回しか使えないアイテムだが使用されると世界のどこかに出現する。
常に世界に一つある不思議なレアアイテムだったんだとか。
……なんでマスターはこんなことも知ってるんだ?
一方レイラはボロクソ言われたのに気にしていない。
むしろ自身に満ちている。
「ふふん、そこにいる遊び人と一緒にしないで欲しいわ! これを見なさい!」
そういうと徐に冒険者カードを見せつけてきた。
レイラが指さすスキル欄を見ると一番上に『ファイアボール』、その下の二番目の欄に『エアバースト』と表示されている。
「これってもしかして……!」
「そう! 新しい魔法を覚えたのよ! これでもう他の冒険者に『馬鹿の一つ覚え』ってバカにされなくなるわ!」
……そんなこと言われてたんかい。
まぁ戦力増加はいいことだ、クエストに行きたがってた理由もコレだな。
あれ、これは…。
「えっと何々? 『ジャグリング』、『会話術』、『声真似』、『変顔』…」
魔法の名前2つの下にいくつか表示されているこれらは…。
「これは旅芸人のスキルだな。レイラもしかして前職は…」
「……ハイ、『旅芸人、Lv.38』でした…」
どうして今の職よりレベル高いんだ?
まあ、理由があるのか…
「だって! 魔法ってかっこいいじゃない! 凄い爆発とかぶっぱしてみたいじゃない! 魔法ショー見たらハマっちゃったのよ! だからその足で転職して魔法使いになったのよ!」
思ったよりその場のノリで決めてやがった!
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今日はクエストに行くのは諦めておやつにカンミツの実のタルトを頬張る平和な午後だ。
カンミツの実は黄色く、割ると中から甘酸っぱいソースが出てくるスイーツの材料として大人気の木の実だ。
そのまま食べてももちろんおいしい。
タルトを片手に正方形のテーブルに向かう。
向かい側の面には表彰待ちで暇だった時に一緒に街の探索をして仲良くなった戦士職『ファイター』のリック。
その隣の面にはリックのパーティメンバーの『盗賊』のバード、残ったもう一つの面にはレイラが据わっている。
金貨を1枚かけて遊んでいるのはブリングカードというカードゲームだ。
ポーカーやマージャンに似たルールで要は一番強い役を作った人の勝ち。
俺は山札からカードを引いて…。
「はい、エレメントチック完成。また俺の勝ち! 金貨は貰うね」
役の揃った5枚のカードを盤面に出して金貨を回収する。
この世界らしく魔法をテーマにしたカードでなかなかに面白い、もとは魔法学校の教材から派生して作られたカードゲームなんだとか。
何度か遊んでいるが運要素の強いこのゲームに負けたことはない。
「なんで勝てねぇんだよ! コレ教えたのに俺のハズなのにっ! ああっ、今日のクエストの儲け無くなっちまった!」
リックがドンと机を叩いて悔しがる。
「全く金治サン強すぎっすよ! さすが運バケモノっすね」
バードは長い髪をキザっぽく後ろに払ってるが見事に最下位を突っ走っている。
「(……おかしい。イカサマしてるのに勝てないなんて……。金治はあんまり賢くないしやっぱ運で勝ってるのよね。)よしっ、チーム戦にしましょ! チーム戦! ほら気の合うパーティメンツ同士でペアを組みましょ!」
「前半の小声で言ってる部分もしっかり聞こえてるからな! ズルすんな!」
卑怯な負け犬の頭上にチョップという天罰を与えておとなしくさせた。
このカードゲームで勝負を何度も挑んでくる奴らがどんどんお金を落としていくからずいぶん財布が潤った。
先日の特別報酬抜きにしても当分は働く必要もなさそうなほどに。
……いや、俺は悪くないぞ。
座ってるだけで勝負を挑んでくるカモ……、もとい冒険者が多いだけだ。
兄貴肌で親切だが女好きで少しスケベなリックと美形だがナルシストが入ってる残念イケメンのバードは幼馴染で冒険者になってパーティを組むほど長い付き合いなんだとか。
「レイラさぁーん、さっきまた女の子をパーティに誘われたら断られたッス! 何がいけないんですかね?」
「う~ん、別に悪いところは見当たらないけど……、やっぱ顔がマヌケだから?」
何気なくリックは大きなショックを受けたようだ。
……恐らくリックの敗因はレイラの意見を参考にしているのももちろんだが女の子と話すとき胸部をガン見しているのが一番の原因だと俺は見る。
……そんなダメ人間になりそうな平和な時間を過ごしていると突然、けたたましい鐘の音が響き渡った!
『緊急事態! 緊急事態! 正門にモンスターの襲撃! 繰り返す、正門にモンスターの襲撃あり! 戦える警備兵及び冒険者は至急正門へ出撃して下さい! 繰り返す…』
ギルドの天井に設置された金網で囲まれている箱が赤く光ってそこからその声は響いていた。きっと通信機や拡声器といった類の魔法道具だろう。
周りでたむろしていた冒険者は慌てて武器を手にギルドを飛び出していく。
俺とレイラは呆気にとらえて固まり、さっきまでカウンターで本を読んでいたシオンはいつの間にか後ろに来ていた。
「緊急放送か! 1年ぶりだな。……ん、お前らも行くんだろ? 俺たちは先行くからな、行くぞバード!」
そう言い残してリックとバードは外に走って行った。
レイラもシオンもこれを聞くのは初めてなようだ。
どんどん出ていく冒険者たちにならって外に出ると驚きの光景が広がってた。
ここフロントの街は周りの壁がある辺りが一番低く、街の中心にあるギルドと神殿が山の頂上に当たるような地形になっている。
だからギルドからは街を見渡すことができる。
ギルドの前から正門のほうを見ると火が起こり、黒い煙がモクモクと立ち昇っていた。
「ど、どうするの?」
レイラが不安そうにこっちに振って来た。
「決まってるだろ。俺たちが前に出ても役立たずだ。でも気になるから一番後ろから状況を確認しに行くぞ!」
レイラとシオンは「いい考えだ!」と言った感じの笑顔を見せて頷いた。
……我ながらマヌケなことを言っているのは分かっている。
しかし、俺たちは本当に役立たずだ!
この緊急事態っぽい時にみんなの足を引っ張る訳にはいかないだろう。
商店街を駆け抜けて正門にたどり着くと正門の大扉は壊されていて周りの壁も少し崩れていた。
野次馬が何人か遠巻きに見ていたからそれに混ざって覗き込む。
数々の冒険者たち。
そして同じ鎧を着た警備兵たちが対峙しているモンスター。
……ソイツはいろんな創作物に出てくる、恐らくファンタジーモノで最も有名と言っても過言ではないモンスターだ。
巨大な翼で空を飛び、鋭い歯に爬虫類っぽい目、長い尻尾、そして体全体が鱗で覆われている。
……見た目は翼のついた大きなトカゲ。
そう、ファンタジーの王道、ドラゴンである。
その黒っぽい色をしたドラゴンは冒険者たちの前にゆっくり着地した。
風圧がこっちにまで来たぞ。
着地するとその背中に乗っていた二頭身ほどの小さなモンスターが飛び降りた。
濁った薄い紫色の体に大きな目、口、頭には触覚。
その変なモンスターはにやけ顔で冒険者を見回して言った。
「こんな初心者どもの中に隠れてる思えないッチェけど一応聞いてやるッチェ。……教会のゴーストどもとゴブリン軍を倒したヤツはいるッチェか?」




