第11話 大金星をその手に
食材の入った大きな袋を抱えてギルドに入った。
マスターの買出しに付き合ってきたのだ。
あのラムック教会廃墟での場違いな上級モンスター、スカルゴーストとの死闘から1週間ほどたっただろうか。
あの日、足を引きずって帰ってきた俺たちは1日中眠っていたらしい。
しかし特に大きな怪我もなくこうして異世界生活を謳歌している。
アンデッド討伐のクエストクリア報酬に加えて、一般に危険視されているモンスターを討伐したため特別報酬が出るそうだ。
そのため日銭稼ぎの必要もなくなり、ここ数日はマスターに依頼された薬草採集のクエスト以外には行っていない。
始めて見るものだらけの異世界生活は商店街をうろついてるだけでも非常に楽しいのもだ。
食材を厨房に置いたらいつものカウンター席に向かった。
そこではおかっぱ頭のエルフの少年が僧侶系の職業の冒険者と言い争っている。
そう、シオンだ。
「だから無宗教でも魔法には影響ないし、神様の加護なんて関係ない……。あ、お帰り金治! 今この頭の固い宗教家どもに信仰の意味のなさを説いてるところだけど如何せんどいつも物分かりが悪くてね」
宗教家に無宗教の勧誘をしているこのエルフは信仰がなくても魔法で人を助けられるということを信条としている頑固な少年だ。
1回だけということでパーティを組んだのだが「最強クラスのアンデッドは倒したから次はお前たちの弱小パーティを見事支え抜くことで優秀さを証明してやる」と生意気なことを言って正式にパーティに加わってくれた。
口は悪いが実力はあるし頼りになる僧侶だ。
「あれ? レイラは?」
「あそこでまた武勇伝語りをしてるよ。全く、アイツは魔法使いよりも旅芸人とか吟遊詩人のが向いてるんじゃないの?」
シオンが指さす法では確かに人だかりが出来て盛り上がっていた。
どうやら冒険者という人種は己の武勇伝を語るのも他人の冒険談を聞くのも大好きな連中ばかりのようだ。
……その気持ちは痛いほどわかる!
俺だって勇者の物語は大好きだし、冒険したら自慢したくなるものだ。
レイラが机の上に立って大げさな無ぶり手ぶりも交えて語っている。
「そこで私の強力な火炎魔法が炸裂! この天才魔法使いの必殺の一撃を食らった哀れなゴーストは地下室から泣きながら逃げ出していったのよ! ……あら、金治戻ってたのね。あなたも戦いの様子を語ったら? みんな聞きたがってるわよ!」
ひとつしか魔法が使えない天才魔法使いがいてたまるかよ。
さらに言うならレイラが唯一使える魔法『ファイアボール』は初心者向けの初級魔法だということを他のパーティの魔法使いから聞いて知っているぞ。
……しかし、スカルゴーストを退治したのは思ってるよりも凄いことだったらしくここ数日ギルド内はいつもその話題で持ちきりだ。
「語るって言っても俺はあんまり活躍してなくないか? ダメージ入ってたのシオンの魔法だけだったし。……あとお前の話はなんか色付いてない?」
「バッカねぇ、武勇伝なんて大げさに話すから派手で面白いのよ! ……それに金治も十分活躍してたわよ。遊び人にしてはね!」
いつも通り冒険者は大騒ぎだ。
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「おい、冒険者ども! お偉いさんが来たから少しダマれ!」
そう怒鳴りながらマスターがギルドに入って来た。
今日はギルドにいつもより多くの冒険者が集まっている。
ここ最近顔なじみになった奴らは見たところ全員来てるな。
冒険者が人々の生活を脅かすモンスターと戦うのはいつものことだがたまに災害レベルのモンスターが現れた時、それを見事討伐した冒険者は王都や領主から表彰されることがあるという。
日本でも人命救助したりした人に贈られるようなものだろう。
その表彰を受けることは冒険者にとっての夢であり、非常に名誉なことであるそうだ。
……貰ったら数年はその自慢を出来る程度には。
今日の主役はなんと俺たちのパーティなのだ!
スカルゴーストは思ってたより危険なモンスターだったらしく、シオンも言ってたがA級の危険モンスターだとか。
マスターに続いて同じ鎧を着た兵士が数人、その次に表彰してくれるお偉いさんだろう高そうなスーツに身を包んだキリッとした目つきの女性が入って来た。
周りの冒険者が小声で「エロいな」とか「やっべぇー」とか言ってんのが聞こえたが納得だ。
俺たち三人がギルドの奥のステージに立たされ冒険者の視線が集まる。
……ヤバい、これは緊張するぞ。
「それではパーティのリーダーは前へ。ここフロントの地を収める領主の代表、シーナ様より表彰状を授与します!」
ステージの下で並んだ兵士の一人が言った。
……ところでリーダーって誰だ?
「ほら、行きなさいよ!」
レイラが肘でドつきながら小声で言ってきた。
「リーダーは指揮官だろ。それならお前だ! 僕はあくまで参謀だからね」
そう言ってシオンが俺を突き飛ばした。
俺は前のめってステージの中心に躍り出た!
顔を上げるとシーナ様とやらがこちらを見て微笑んでいた。
「勇敢な冒険者よ。そなたたちの勇気ある行いで死のアンデッドよりこの街を守ったことに敬意をこめてこれを送ろう。心から感謝する!」
シーナが差し出した賞状を慌てて受け取り、
「あ、えっと、あ……、ありがとうございます!」
……表彰されて賞状を貰うなんて小学生ぶりだよ!
シーナは表彰状を渡すとニコッと微笑んだ。
……可愛いな!
この異世界来てから初めて可愛いと素直に思える女性に出会ったよ!
冒険者の女性は見た目いい人が多いんだけど豪快なのとかオヤジっぽいのばっかりなんだよね。
仲間の魔法使いとか特に。
「続けて特別報酬、金貨600枚を送ろう」
ギルド内にワッと歓声が上がった。
「これは僕と」
「私に任せなさい!」
シオンとレイラが金貨が300枚ずつ入った袋を兵士から受け取った。
この世界のお金は『銅貨』『銀貨』『金貨』の3種類。
金貨は銀貨10枚分、銀貨は銅貨10枚分の価値がある。
屋台のパンや串焼きが一つ銅貨1,2枚で買えると考えると日本円で銅貨1枚、100円くらいの価値観だろうか?
そう考えると今回の収入は600万円……、すごいな。
「さらに報酬としてこのキングダイト金属で作られた鎧一式を与える」
もう全部貰ったと思って袋の中の金貨を覗き込んでにやけてた俺たちは慌てて振り返った。
兵士がカバーの布を外すとそこには暗めの赤紫色に鈍く輝くもの凄くカッコいい鎧が飾ってあったのだ!
冒険者たちも息をのんで見つめている。
……きっと凄いものなのだろう。
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シーナ様が兵士を連れて帰ってった後には宴が待っていた。
どの冒険者も今日は飲んだくれている。
俺たちはまず報酬の始末だ。
マスター曰く、表彰物の報酬は大体金貨1000枚以上は相場としてもらえるらしいが今回のように現金と貴重なアイテムで渡される場合もあるそうだ。
金貨は山分け、平等に一人200枚で話が付いた。
問題は鎧だ。
キングダイト金属というのは世界4大金属とかいうのに数えられていて戦士ならその鎧を着ることに憧れない奴はいない、と他のパーティの冒険者が力説してくれた。
力の弱い魔法系の職のレイラとシオンは鎧は装備できない。
一応近接戦闘してる俺が装備することになりそうになったが兜をかぶっただけで重さで首が折れそうになってしまった。
能力が平均以下の『遊び人』は魔法系の職並みに力も弱いようだ。
日頃部屋を貸してもらってるお礼にマスターにプレゼントしようとしたがとても受け取れないと言われてしまった。
……結末は自分が言い出したことだから文句はないけどお粗末な結果になっている。
ギルドの置物になりかけた時にマスターが漬物を付けるのに石を欲しがってたのを思いだした。
そこでパーティの誰かが鎧を装備出来るようになるか戦士が仲間になるまで漬物石として預かってもらうことになった。
今、フロントの街のギルドの倉庫では戦士ならだれでも憧れるような貴重な鎧によってマスター特製の漬物が製造されているのだ。
部位ごとにバラバラにされた鎧が樽の上に置いてある。
この惨状を見たら価値が分かる者なら泣き出すかもしれないな。
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貰った報酬を片付けると俺たちも宴の騒ぎに飛び込んだ!
酒の席での冒険者の話のネタはもちろん自分が経験してきたそれぞれ自分だけの冒険談だ。
モンスターとの死闘、ダンジョン探索、見つけてきたお宝。
各々がロマン溢れる嘘みたいな冒険談を披露してそれを聞いてまた盛り上がる。
……嘘みたいな冒険ばかりだが決して冒険者は嘘の冒険談をしない。
そこは鋼のプライドと冒険を愛する心があるからだと酔っ払いが語っていたけどどうなのだろうか?
みんなが自由にとっておきの話をするこんな騒がしい宴もきっとファンタジー世界ならではなのだろう。
この宴は朝まで続くのだろうな。




