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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
40/89

039:辞別


「アーティス殿!」

 もう一人、若い騎士が近づいてくる。見覚えのある顔。その騎士はアーティスが寝ている横で、跪いた。

「お久しぶりです」

「ショーンか」

「このようなところで会えるとは思っていませんでした」

「そうだな」

 ショーンとアーティスはお互いに苦笑いのように唇端を上げた。


 イノとバックは顔を見合わせた。ショーンとアーティスは顔見知りのようだ。しかも、ショーン()()をアーティスは呼び捨てにした。ショーンの方もアーティスに敬語使っている。


「何か?」

 イノたちの反応を見て、ショーンが首を傾げた。

「・・アーティスって・・・」

 イノが曖昧な疑問を投げかけた。アーティスもショーンも軽く首を傾げる。

「・・いえ、王子のお知り合いだったか、と」

 イノの言葉の後をバックが引き継いだ。ショーンは瞬きして「ああ」とつぶやいた。


「この方が誰だか、知らないのか?」

 ショーンの質問にバックたち3人が無言で首を横に振った。ショーンは呆れたような顔をした後、アーティスに睨むような視線を送って、口を開いた。

「アーティス殿は、アルファムの第1王子だ」

「はあ?!」

 イノもバックもダフも口を開いたままで、動きが止まった。その立ち居振る舞いから貴族の出だろうとは思っていたが、王子とは。それも隣国アルファムの第1王子。友好な隣国とは言え、王子が単身でこのような山中に来るものなのか。

「言ってなかったのですか?」

 ショーンはとがめるように言い、アーティスに訝しげな視線を送った。アーティスの方は、無言で小さく首を縦に振った。


「まあ、それは気にしなくていい」

 アーティスは寝台から上半身を起こした。それから戸惑った様子の3人に首を振った。

「・・というより、この件は口外しないようにお願いしたい」

 アーティスが4人の顔をゆっくりと見回した。

「俺のこと、キュリアンと黒の聖剣、6つの宝珠。それから、キュリアンが見せた女性のこと。すべて、口外無用だ」


 四人の顔に不安の色が広がった。

「・・あまり、言いたくはないんだが、この件は、アルルアが絡んでる」

 アルルア。

 皇帝が治める州の名であり、その皇都の名であり、皇帝の居城の名前でもある。つまり、それは皇帝ガレリオン2世からの命令であるということを意味していた。

「言ってしまうと、皇都(アルルア)から黒の聖剣と6つの宝珠が盗まれた件は秘密事項という扱いなんだ。結果的に知ってしまったあなた方には申し訳ないが、口外禁止とさせてもらう」


「もし、誰かに話したら?」

 バックが不安げに訊く。

「脅すつもりはないんだが・・・」

 とアーティスが話し始めた瞬間、光がアーティスの右から走った。カンと音がして、アーティスとバックの間の床の溝に短剣が突き刺さった。

「ひいっ!」

 イノは小さく悲鳴を上げ、手足を引いた。どこから投げたか分からないが、石と石の間の細い溝に短剣を突き立てるのは容易ではない。投げた相手は相当の手練れで、しかも姿は見えなかった。


「・・やりすぎだろ・・・」

 アーティスは小声でつぶやいて、ため息をついた。

「・・・まあ、そういうことだ」

 アーティスは苦笑いをして言った。皇都からの緘口令は本当のことだったが、今のは演出が過ぎた。アーティスは短剣を投げたであろう人物を探したが、もう見当たらなかった。


 アーティスはショーンに視線を移した。 

「そういうことだから、ショーンもな」

「えっ」とショーンは驚いたように声を上げた。

「・・父上には報告しなければなりませんが・・・」

 アーティスはショーンに人差し指を立てて振った。

「今言った通りだ。うまくやってくれ」

 言う方は簡単に言う。ショーンはこのあとつじつまを合わせることに苦労する自分が想像できた。


 その後は、郡令官がいないため、ショーンがすべて指示を出し、応援を呼ぶためにマコム城まで伝令を走らす始末だった。怪我人を救護し、死者を弔う準備をして、城壁の瓦礫を片付け、動ける兵士を再編する。ショーンの午後はそういったことに忙殺された。

 紅の雪狼(ボラ)の連中もそれを手伝うことになった。今回のことについては、彼らにも非はあったが、ショーンからは郡令官の失政の非と相殺という形で咎めないことになっていた。

 ショーンの寛大な措置で、正規兵と山賊が協働する妙な関係ができた。魔獣との闘いで、どちらも毒気を抜かれてしまった感もあり、今更喧嘩をする理由がない。


 それぞれに思うところはあったが、簡素な夕食を食べた後は、さすがに皆疲れて早々に寝てしまった。クリーガ城の主塔の一階は救護室になり、アーティスたちは2階と3階の部屋に無理やり布を敷き、そこで寝ることになった。

 その夜半、アーティスは一人起きだして、主塔を下り、誰もいない正門の上に上がった。アーティスの回復力は医者も驚くほどだった。もうほとんどの傷が治っていた。体質なのだろう。子供の頃から怪我の治りは速かった。


 夜になると気温が下がり、やや肌寒い。今夜は姉月(ミア)だけが昇っていた。この季節は妹月(ティア)は夜明け前に姉月を追って登ってくる。今はまだ姉月だけが夜空を支配していた。

 城壁の上にはすでに先客がいた。短めの金髪が月明りに輝いている。微かな風が細い髪を揺らす。

「アーティス・・・」

 気配に気が付き、イノは振り向いて来訪者の名をつぶやいた。

「怪我はもういいの?」

「ああ、ほとんど治った」

「そう、それはよかった」

 イノはニコリと微笑んだが、その表情は翳っていた。

「どうした? 元気が無いようだが」

 アーティスは何気なく訊いたつもりだったが、イノの表情は変わらない。

「・・・明日にはもう行くんだよね」

「ああ、もうここではすることが無くなったからな」

 アーティスの言葉にイノはハァと小さくため息をついた。それから、首を2-3度振る。


「・・・あの女の人は恋人なの?」

 少しの沈黙のあと、イノは意を決したように顔をアーティスに向けた。口を一文字に結び、目付きが睨んでいるように見える。

 アーティスは、瞬間怯んだように息を飲んだ。

「ああ」

 アーティスは小さくうなずいた。

 イノは再び小さく息を吐いた。イノは背を向けて肩を落とす。それから一瞬目を閉じて、両手で頬を叩いた。

「・・・そうよね・・・」

「イノ・・・?」

「・・・もう、いいわ」

 イノは金髪を揺らして、首を左右に振った。それから、肩をほぐすように回して「ハッ」と息を吐いた。それから、アーティスの方を向き直った。

「見つかるといいね」

 イノはにこっと笑い、くるりと踵を返して歩き出した。

「もう寝るね。おやすみ」

 そう告げて、イノは城壁を降りていった。

 残されたアーティスは左右に首を振って、疲れたように「はぁ」と息を吐く。姉月の柔らかな光が辺りを照らしていた。



 月を見上げていたアーティスは視線を月光が創る城壁の陰に落とした。黒い陰を見つめ、きょう何度目かのため息をついた。

「・・・あれはやりすぎだろ」

 アーティスは城壁の方を向いて、昼間の短剣について非難した。

 城壁の暗い陰の中から、陰が分離したように黒い影が現れた。アーティスと同じくらいの身長の騎士。全身が黒い軽装で包まれている。


「効果的だったでしょう」

 しれっと黒い男は答えた。

「やりすぎだよ。カッシュ」

 言葉とは裏腹に、アーティスの顔は笑っていた。

 カッシュと呼ばれた男もニヤリと笑い返した。

「で、何かあったのか?」

「グラナダ島ですが、ヘプターニの第2軍も全滅したようです」

 カッシュはファルアニアの南ハス=キロワ海に浮かぶ島の名前を上げた。南国ヘプターニとカスタマーナ自治州の境界線に位置する小さな島だ。


「魔獣か?」

「確認はされておりませんが、おそらく」

 アーティスは南の海を思い描いた。ヘプターニはこのマト国の真南にあり、この地方よりずっと暖かい。。さらに南のカスタマーナ州はほぼ年中夏の気候だ。

「ヘプターニ国は、島を封鎖して、魔法師を含めた第3軍を送るようです」

 アーティスは腕組みをして、首を傾げた。危険を冒してその島にこだわる理由があるのだろうか。ヘプターニの意図が読み取れなかった。

 

 首を捻るアーティスに、カッシュはさらに続けた。

「あと、神官(オリエナ)が古文書の一部を解読しました。やはり、闇の聖剣(サーグ=バ-ネック)には呪いがかけられていたようです」

「だろうな」

 アーティスは頷いた。キュリアンの様子から、それは窺えた。以前のキュリアンとは違っていた。何かに操られている風にも見えた。

「では、次はトステナ辺りで」

 カッシュはヘプターニの港町の名を上げて、そのまま後退り音もなく影の中に消えていった。

 アーティスは消えていった暗闇に軽く手を振ってから、頂点に上がった姉月(ミア)を再度見上げる。月光は明るく、半ば崩れ落ちた城壁を照らしていた。




 翌朝、アーティスは騎上にいた。青い皮鎧にマントを羽織り、背には長剣を担いでいて、旅支度の出で立ちだった。

「もう、行かれるのですか」

 ショーンが名残惜しそうにアーティスを見つめた。

 城門前に立つアーティスの周りには、ショーンの他にイノとバックが見送りに来ていた。

王都(カービアン)に来てもらえませんか。父王(セルロガ)も喜ぶと思います」

 国王の名前を出されて、アーティスは少し考える風に首を少し傾げる。

「・・・スーナも喜びますし・・」

 ショーンの妹姫の名前を聞いて、アーティスは太陽のように明るく屈託のない笑顔を思い出した。

「いや、遠慮しておこう」

 アーティスは苦笑いをして即答した。その勝気な少女の姿が脳裏に浮かんだが、彼女に会うのはちょっと遠慮したい。

「セルロガ王には、よろしく言っておいてくれ・・」

 言いかけて、アーティスは首を横に振って、苦笑いをした。

「いや、私のことは内緒だ」


 アーティスはショーンに言った後、イノの方を向いた。

「アーティス・・・」

 アーティスは無言でイノを見つめた。イノはやや陰りのある笑顔を見せた。

「また、・・・また、この辺に来たら、寄ってね」

「ああ、また会う機会もあると思う」

 アーティスは馬上からイノに笑い返した。そのあと、視線をバックに向けると、山賊『紅の雪狼(ボラ)』の頭領は無言で手を振った。

「それでは、失礼する」

 言って、アーティスは馬首を巡らした。城外に向き直ると城門から街道に向かって愛馬を進める。一陣の風が吹いて、アーティスのマントを揺らせた。街道を南へ進む。アーティスは振り返らなかったが、イノは青い騎士の姿が見えなくなるまで見送っていた。


いつもお読みありがとうございます。

ちょっと体調を崩しまして、掲載に時間が開いてしましました。


今回で第1章が完結です。

いかがだったでしょうか?

感想などいただけるとありがたいです。

ブックマークも少しづつですが増えているようで、ありがとうございます。


まだ、続けていきますので、引き続きよろしくお願いします!


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