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詩と歌の音  作者: ノリコ
15/15

詩と歌の音―14―




判っていたんだ。

識っていた。

父親の駄目な部分は、全て自分が継いでいる事。

自分達を護る大人がいなくなった事を理解してから、考える事は常に「どう巧く生きるか」

それだけ。それだけが頭を占めている。

妹の手を引いて、彼女を護って、それは自分の義務でもあり使命でもあり、生き甲斐だから。

そこだけ聞けば親のいない兄妹の美談だけれど。

グネグネに歪んだその感情は、綻んだ隙間から色々な貌を生み出しただけだ。


だって、歌音には自分しかいない。

二人で産み落とされたこの世界は穢くて、冷たい。

歌音を護れる者は、自分以外にいない。

妹を護るためには幾つもの貌が必要だった。



『だから、僕を産んだんでしょう?

 君達は』



瞼を開け、布団を剥いだのはほぼ同時。

上半身を起こして初めて起床を自覚した。

嫌な夢を見たような気がする。

胸焼けが酷い。こめかみの辺りがビリビリと痺れている。


誰かが、俺に話しかけた。

誰なのかは判らない。眠った気がしない。

頭が痛い。気持ちが悪い。

そういえば、昨日歌音がふらりといなくなり、捜しに出てからどうやって家に帰ったのかもあやふやだ。

あやふやと言うよりは、覚えていない。


「…何だ、コレ」


恭一郎と内容の濃い話をしていた事は覚えている。

言いたくなかった言葉を、彼に吐露した。

酷く不安になった。

酒を飲んでいたわけではないし、酔い潰れられるほど弱いわけでもない。

まるで、自分ではない誰かが自分を内から操作しているような。

不安だ。こんな事は初めてだ。

心の奥底に住まう彼らは、自分が操作しているはずなのに。


そうだ、そもそも、彼らは自ら好んで表に出ようとはしない。

表の世界がどれだけ苦しいかを識っているから。

だから詩音は、その失陥を大したものと受け止めていなかった。

出てくるなと強く制していたし、彼らはそれに従順だった。

正常な、極普通の、人間で。

だから今まで、平気でいられたのに。

こんな不安。





――悠久の森、療養棟。



「…どしたの?歌音の部屋忘れた?」


ノックも無しに扉を開けたのは、双子の片割れ。

普段なら寄り付きもしない診察室の扉を開けた詩音は、扉口に寄りかかって少し俯いている。

冗談に答えない詩音を不審に思い眉を顰めて近づくと、彼は酷く陰気な顔色をしていた。


「どうしたのさ」

「先生…、俺、昨日、どうやって帰った…?」


ベロンベロンに酔った同僚からよく聞く言葉。

恭一郎は少し笑い、けれど彼の様子に顔を引き締める。


「どうって、歌音見つかったっていうか帰って来たから、普通に帰ったよ」

「普通…普通に…?」

「うん…そだけど…」

「それ、本当に、俺だった…?」


白衣の胸元をくしゃりと掴み、搾り出した声で問う。

掠れた声の言葉が流れる度にゆっくりと持ち上がる顔の色が。


「し、詩音、どうした?」

「記憶が無い!

 いなくなったって聞いて、捜しに行って、帰って来たなんて知らない!!」

「しの」

「先生、俺は普通だろ?!普通にしてきただろ!

 異常おかしい事バレないように、努力してきたのに!!」

「…っ、詩音!コレ見て!」


ダンッと壁に背を打ち付けられ、恭一郎は咄嗟にライターを擦った。

恐怖の真髄を見たように蒼白とした顔が一瞬怯み、弾かれたように後退する。

愕然としていた眼は、ゆらゆらと揺れる炎を力なく凝視した。


「見て。ずーっと見て。

 はい見てー…そうそう、じゃあ、次はゆっくり目を閉じてー…」


呟きながら、空いた手で詩音の瞼にそっと手を翳した。

手の平に触れる睫毛の感触で閉眼した事を認め、翳した時と同様に手を退ける。

気を失った詩音はがくりと膝を崩し、恭一郎は「よっこらしょ」っと椅子に掛けさせた。

力の抜けた身体は意思を持っているように、不自然にしっかりと座っている。


「どっち?」


問いかけた。

取り乱していた本来の詩音は眠っている。

ふふ、と小さな笑い声が漏れた。声と同時に両肩が微かに揺れている。


「僕です」


詩音は擡げていた頭をゆっくりと上げ、にこりと穏やかに笑みながら答えた。


「誰?」

「詩音ですよ。知ってるでしょう?」

「俺の知ってる詩音は僕なんて可愛らしい言葉は使わないよ」

「先生の知らないところじゃ使ってますよ」

「そうでしょうね。君達は本性を隠したがるから。

 でも、君達の基本的な本性はさっきの詩音でしょ?」


この子は一体、何人心の中に住まわせているのだろう。

明確な意思と行動権を持っているのは、今出てきている“彼”だけかもしれない。


「基本的なものは、ね。でも、僕は違いますよ。彼に従事していない。

 他のは、僕や彼とは違って、ふわふわ漂ってるただの意思に過ぎないから」

「こうやって応えてくれたって事は、俺を信用してくれたって事?」


詩音はまた小さく笑った。

殆どと息だけの微かな笑い声。


「僕も詩音も、誰も信用してない。

 歌音の事だって、本当は信用してない」

「どうしてさ」

「その理由を言って、あなたは信じる?」

「職業柄、信じるんじゃないのかな」

「先生って、お気楽ですよね。向いてないんじゃないですか、この仕事」

「…知ってるヨ」


穏やかで穏やかなだけの笑顔。

恭一郎は妙な突っ掛かりを胸に覚え、ふと眉を寄せた。

自分は、彼を知っているのではないか。

彼とは、幾度か会っているような。

冷静さを装う恭一郎は、詩音の強烈なキャラクターを再意識した。

精神科にいた頃から、様々な症状の人間を見てきたけれど、ここまで強烈な印象を与える人間は珍しい。


「昨日、あなたに告白した人格。アレは、僕が「行け」と言ったんです。

 あれは子供の時の詩音。今の詩音のコアになってる、独占欲だけの子供。

 一度目のカウンセリングで出てきた好戦的な詩音は、それが少しだけ成長した人格。

 精神的な安堵と快楽を求める人格と、肉体的な安堵と快楽を覚えた後の人格ですよ」

「じゃあ、君は?」

「僕…?僕はね」


また微笑う。

豊かな笑みだ。

見ていて安堵するものとは掛け離れた、恐怖すら覚えるそれ。

でもやはり知っている。


「僕を創ったのは、歌音。産んだのは詩音。歌音に嫌われたくないから、僕を生んだ。

 人間って、誰でも小さい人格を幾つも持っているでしょう?そんなもんでしょ?

 それは所謂処世術と同じもので、TPOで顔を使い分ける。

 でもね、詩音はそれが出来なかったんだ。

 詩音は僕と共存しているつもりだったみたいですけど、実際は僕がコントロールしていたにすぎない。

 昨日は、今まで与えていた記憶という情報を与えなかっただけ」

「どうして」

「先生、言ったでしょう。

 僕は誰も信用していないんです。

 詩音も、歌音も」



『しの、怒っちゃ嫌だよ…笑ってて、しの…』


十三年前、突然迎えに現れた母親に食って掛かった兄を、妹はそう言って縛り付けた。

彼女に嫌われては何も残らない兄は、従順に頷いた。

何もない心で生きていけない事は、本能が知っているから。

だから、そうして、僕は生まれた。

下らない兄妹だ。馬鹿で下等で仕様がないけれど、見ている分には飽きない環境。

内から見る二人の焦りや葛藤は最高に笑えて、最高に虚しい。


「…笑える」

「…ん?」

「歌音は大好きな母親と兄がいがみ合わないように、僕を創り出した。

 僕が生み出される切っ掛けを創った。

 歌音は詩音が心底母親を嫌ってる事を知っていて、残酷にも母親を取ったんだ。

 捨てられたくない詩音はそれに従うしかない。

 歌音の世界には初めからママだけだった。パパもシノも、付属品でしかない」

「それは、違うよ」

「そうかな…?僕はあなたと違って付き合いも長いし、何より中から全部見てきたんですよ。

 昨日の彼はあなたに自分が穢いと告白しながら、それでも母親が少しでも妹に目を向けると、彼女が簡単に母親へ転ぶ事に怯えていた。子供だからね。

 僕以外の二人の少しだけ他より強い人格は、いつも同じ事だけを考えてる。

 どうすれば歌音から母親を排除出来るか。どうすれば歌音を縛り付けておけるか」


見てきたのだから、全部知っている。

歌音がひっそりと心を閉ざした夜、まだそれを知らない詩音は寝静まった家の中、包丁を握り締めて小一時間佇んでいた。

殺して消してしまえば詩音の心は楽になったのに、歌音の事を考えると実行できなかった。

花菜が見舞いに訪れた時、歌音があまりにも泣くから、腹の底から湧き出る罵倒を声に乗せられなかった。

馬鹿馬鹿しい。


「君、重要な事を忘れてない?

 君も、所詮詩音の人格の一部でしかないんだよ?」

「そうですね。自由に動き回る事も許されていない身分ですね。

 許していないつもりで、僕は出来るんだけど」

「だったらどうしてそうしないの」

「…本当に、笑えるでしょう?

 先生、僕は歌音を信用していませんけど、結局、愛してはいるんですよ」


嫌われたくないのは同じ。

だからこそ滑稽だ。

縛れているのは自分も同じなのだと、出て来る度に自覚する。させられる。


虚しい。


昨日、歌音を連れ帰ったという男に、詩音は軽い会釈と黙礼を返した。

本来の詩音ならば、有無を言わさず殴りかかっただろう。

争いと暴力を極端に嫌う歌音が傍にいたから、咄嗟に「僕」が出た。

黙礼の後に「ありがとうございました」と言って歌音を安心させ、そのまま帰った。


「今まで巧く操作していたんなら、どうして昨日記憶を渡さなかったの」

「癪だったから、ですよ」

「癪?」

「コントロールは出来るのに、どうしても抗えない。僕は笑って見ているしかない。

 本当の意味で歌音に触れられるのは、詩音が操作している人格だけ。

 詩音と本当に共存して、年々彼に溶け込もうとしている彼らだけ。

 処世術の道具としては使えないのに、彼らはもうすぐ詩音と一つになる。

 そうしたら、バランスが取れなくなって、僕はきっと消えてしまう。

 僕が出来るはずの事をわざとしないのは、結局、妹が妹でなかったから」

「それは、自由に動き回る事?

 それとも詩音を飲み込んで、彼に成り代わろうとする事?」

「…ヤだな。僕は所詮詩音の一部だから、成り代わるも何も。

 でも…そうだね。二人は歌音が愛してるのは元の詩音だって事を認めているから、溶け込もうとしている。

 僕は中途半端に意思を確立してしまったから、歌音に僕だけを見て欲しいと思ってる。

 でもそれじゃあ、ダメなんですよ」


何だ。案外良識的な人格ではないか。

恭一郎はほっと安堵の息を吐こうと空気を飲み込んだ。

それを見透かしたように、詩音の眼は微笑いに歪んだ。


「僕だと、見ていてほしくてどうしようもなくて、簡単に歌音を殺してしまう。

 本気でそう思えるのは僕ら皆同じだけど、彼らは到底実行できない。躊躇うから。

 僕は躊躇わない。他の誰かに見られたり、他の誰かを見る事も許せないから。

 だから僕は今まで意識的に、極力表に出ないようにしていたんですよ」

「でも機会はあったでしょう。どうしてそれをしなかったの?」

「先生、馬鹿だね。それともこう言って欲しいんですか?

 僕は所詮跡付けの人格だから、マスターである人格の隋には逆らえない。

 そう、確かに、機会は腐るほどあったよ。詩音が眠っている時は、自由に起き出せたし。

 でも…さっきも言ったけど、結局は僕も歌音に縛られてるだけだ。

 詩音を殺さないと、歌音を殺そうとした時点で詩音に無理矢理引き摺り下ろされる。

 だからって詩音を殺せば、歌音はすぐに違いに気づいて、僕に「返して」って言う。

 そんな事耐えられない。歌音が望んだから僕は生まれたのに、彼女に否定されたら、」


心だけの詩音は呟きながら俯いて言葉を切ると、微笑と共に顔を上げた。


『それ、地の俺だ。裏じゃない』


目を見張らせていないと気づかないような、ほんの僅かな狂気。

それを覆い隠せる空虚な微笑で、あの日詩音は微笑った。

俺、と言っていたけれど、あの日の詩音はきっと彼だ。


「君は、もう気づいてるんじゃないの?」


恭一郎は詩音の目を覗き込んだ。

そこに、初めて感情の色が滲んだからだ。


「君も、もうすぐ飲み込まれるんでしょう」


だから、「此処にいるんだ」と言うように記憶を渡さなかった。

身勝手に創られた人格はいつも、身勝手に捨てられるのだ。

もう不要だと。


「今は、飲み込まれるかもしれない。でも、先生はよく知ってるでしょう。

 詩音は不安定だ。神経質で、被害者思想で、自虐的。物凄く不安定だ。

 今は飲み込まれても、またいつか出てくるかもしれない。

 僕が飲み込まれるのは、あの子に、少しでも望んでしまったから」


『ごめんね、ごめんね…』


泣きながら言ったあの子は識らない。

綺麗な目で、綺麗な涙だった。同じ顔、とは思えないほど。

魂ではないただの心は何処へ行けば良いのか。


『…一人にしないでよ』


独りになりたくなかった。

詩音ではなく、「僕」を見て欲しいのに。

無垢な目で、綺麗な目で涙で、繊細な声は、詩音だけを呼ぶ。

欲しいものは全て、詩音に向けられる。


「辛いんです。だから、僕も飲まれようかと思って。

 元々、もう、限界だったんだ。

 四年前の、あの時から。あの時、それでも繋がってた僕と詩音の間には、確かな亀裂が出来た。

 自分で生んだくせに、世渡り上手で善い人の「僕」がいるから殺せなかったって、詩音は確かにそう言った。彼がそう意識していなくても、詩音が詩音を否定する事は、僕を否定する事に繋がるから。だからもう、限界は近かったんです」


ふう、と溜息を吐きながら背当てに凭れ、詩音は浮かべている微笑を僅かに濃くした。

それは穏やかなものではなくて、少しの凶暴さを滲ませた、限りなく詩音に近い貌。


「さよなら先生。

 最後に良い事を教えてあげる。

 詩音は、今、起きてるよ。

 詩音に、今、良いものをあげたよ…」



僅かに濃くなっていた微笑はどんどんとその色を増し、恭一郎は二つのアッシュカラーの眼玉がこちらへ迫り来ているような錯覚を覚えた。

思わず上半身を引いたと同時に、詩音の頭ががくりと背凭れに落ちる。

落ちた頭がゆっくりと持ち上がり、開いた目は怯えたように揺れていた。



『ねぇ、シノ。

 パパはねぇ、ママの事、ほんとは大嫌いなんだよ。

 シノだって嫌いでしょう。ママは、カノを取るもんね』


壊れたグリーンの眼。

ふわふわと微笑いながら、その実泣いているような掠れた声で。

頭と頬撫でる手は大きく温かく、こんなにも柔らかな愛情を伝えているのに。


『カノはシノの半分だから、誰にも渡しちゃ駄目だよ。

 シノとカノはパパの全部だから、誰にもあげない。

 ママにもあげない。絶対あげない。シノとカノはパパの全部なんだよ』


パパはいつだって優しくて、いつだって詩音と歌音を間違えなかった。

怒られる年頃まで一緒にいなかったから、怒られた事などない。

パパはいつだって優しくて、ママを愛していて、双子を愛していた。


「せんせい」


瞳が愕然と揺れている。

手は、注意深く見なくとも微震していた。声もまた同様に。


「アイツが生まれたのは、五歳ん時、のはずだよ。

 何で、アイツが、パパの記憶、」

「詩音?」




『ねぇ、シノ。

 パパはアタマがオカシイみたいなんだけど。

 シノはそれでもパパを愛してくれるかなぁ…?』


壊れた、ロボットみたいだ。精巧に出来た人形みたいに綺麗だ。

眼の際に溜まっている涙は不思議と零れず、声は何処か機械的で、それでも人間の熱を持っている。

頬と頭を撫でる手は、それだけは、子供の心に滲む愛情を持っていて、だから、膝に抱かれている詩音は歪な父親に怯えなかった。


でも、識らない。

パパはまるで、今の自分のように。

歪んでいて異常で、怖ろしい事を平気で口にした。


そんなパパは、識らない。


『あげるよ。

 多分、君と僕が入れ替わるのは、これで最後だから』


僕、と言う人格が、初めて自分の手を離れ、他人と喋っていた。

それだけでもショックが大きかったのに、彼は溶ける前に大層な土産をくれた。

識らないパパの記憶。

壊れる事を怖れて、でも壊れてしまっていたパパの本当の姿。


「詩音、落ち着いたら話して」


感情がついて行かない涙はただ生理的に零れるだけ。

混乱してしまった詩音を、恭一郎は優しい声色で遠ざけた。

今、彼の混乱を問い質せば、きっと詩音の線は切れてしまう。

簡単に、あっさりと自ら命を絶った彼の父親のように。


ボロボロと溢れ零れる涙を両手で拭いながら、詩音は頷いた。

心の中は何故かすっきりしていた。

何も解決していないのに、荷物を纏めた自室のようにすっきりと。

幾つもの人格を無造作に創り続けて、彼らはあっさりと自分の中へ溶け込んだ。

それは、考えてみると、当たり前の事なのだ。

所詮は弱い自分が生み出した人格なのだから、我慢の限界がくれば躊躇いなく退く。

自分では歌音に触れる事さえ出来ないのだと、彼らは理解したのだ。

自分にさえ捨てられた。


独りだ。



「レ……詩音、何て顔してるの」


孤独に気づいた瞬間、焦りを感じた。


“どう取り繕えば良い?”


擦れて赤くなった目元を、流れては溢れる涙がしつこく通っている。

それを拭う気力ももはや無かった。ただ、呆然とソファーに座っている。

歌音に会いたかった。自分で会いに行く勇気が無いから、ここで座って待っている。

姑息な手に引っかかったのは目当ての人ではなく、見知らぬ男。

ぼやけた視界で声の方向へ顔を向け、再び視線を前に戻すと呆然と壁を見つめる。


「詩音、俺はね、君のパパの友達なんだ」

「……パパ…」


優しくて、愛してくれていて、繊細だった人。

それとも、気が狂っていて、頭の異常しかった人?


「どっちの、パパの、友達…?」

「両方、かな」


詩音は強く瞼を閉じた。

ブツブツと涙が切れ、一瞬だけ視界が鮮明になる。

初めてきちんと向けた視界の中、背の高い男は目の前で、何故だか安心する笑顔を浮かべていた。





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