第十一器 能力喰い
「なんで刀磨が?」
夜詩達が刀磨に歩み寄る。。
「目的はお前達と同じだ」
「そうか。なら一言言ってくれればよかったのに」
「色々事情があってな」
「まぁ、とりあえず、地下に戻ろうか」
ルーの言葉に全員が頷き、地下に戻った。
地下に戻り、紹介が一通り終わると、游が刀磨に質問する。
「刀磨は何か手掛かり掴んだの?」
「いや、波を探ろうとしたが、この街では感知しずらい。
現場を押さえようとしても、相手が全く動かないからな」
「そっか…お手上げね」
「そうでもない」
「どういう事?」
刀磨はテーブルの上に、1枚の紙を広げた。
「これって」
「この街を真横から記したものだ。
今、俺達が居るのはここ、さらに下には」
「もう1つの空洞?」
「昔は地下水を汲み上げていたようだ。
現在は、干からびているがな。
犯人が隠れるにはうってつけだ。
ルー、お前の力で行けないか?」
「すまない、1度確認した場所じゃないと、ドアは作れないんだ」
「なら…」
夜詩達は古井戸の周りに集まっていた。
「深さってどれくらいなんだ?」
夜詩が、古井戸を覗き込みながら話す。
「地図を見る限り、50メートルはあるな」
「50!無理だろ!」
「ロック、お前の力で階段を作れ」
「な!いくら俺でも出来ねぇよ!」
「誰も一気に作れなんて言ってない。
降りながら一段一段作ればいい。
ひよっこには荷が重いか?」
「ひよっこじゃねぇ!やってやるよ!」
刀磨にうまく担がれ、ロックはゆっくり井戸に体を入れ、懐中電灯で足元を照らしながら螺旋状に土の階段を作って行く。
夜詩達も後に続き、慎重に土の階段を降り、ようやく地下にたどり着いた。
「はぁはぁはぁはぁ、疲れた。
階段を維持しながら作るなんて無茶過ぎだろ」
「上出来だ。帰りの為にお前は休んでろ」
「か、帰りもかよ」
「わ、私が少しは癒してあげるから、頑張ろう?」
「お、おう」
涼子の言葉に、顔を赤らめながらロックは地面に腰を下ろす。
ロックと涼子を残し、夜詩達は更に奥へと進む。
「思ったんだけど、帰りはルーの能力で帰れるんじゃないか?」
「修行になるだろ」
「鬼だな」
途中で刀磨は険しい表情を浮かべ足を止めた。
「どうした?」
夜詩が刀磨の顔を見て、前に広がる暗闇に目を凝らす。
「血と肉の腐った臭い、そして強い波を感じる。
行くぞ」
そう言って刀磨は歩きだし、しばらく進むと広い空間に出た。
その場所は、血と肉の腐った臭いが充満し、夜詩の持った懐中電灯で床が照らされると、散乱した人骨が見える。
「うっ…これは」
「行方不明になった被害者…」
「奥に何かいる!」
游が懐中電灯で奥を照らすと、狼のような人のような生き物が唸り声をあげていた。
「怪物…みんな気を付けろ!」
ルーがそう叫んだ時、怪物が夜詩達に飛び掛かる。
夜詩は咄嗟に盾で怪物の牙を受け止めた。
「夜詩!」
「お兄ちゃん!」
「くっ、游とアリスは下がってこいつを照らしてくれ!」
游とアリスは頷き、夜詩の落とした懐中電灯を拾い、後ろに下がる。
怪物は、盾に噛みついたまま、右腕を振り上げた。
「!?」
右腕が振り下ろされる瞬間、怪物の背後から刀磨が斬りかかる。
怪物は左腕で刀を弾き、後ろに跳ぶ。
「刀磨、助かった」
「簡単にはいかないか。
かといって本気で戦って、殺す訳にもいかないか」
「けど相手は怪物だぞ?」
「盾の事は聞いてる。お前は奴の攻撃を受け続けろ」
刀磨は怪物に突進していく。
「また勝手に…分かったよ!」
夜詩も刀磨に続き、怪物に向かっていった。
刀磨は、怪物の攻撃をかわしながら峰打ちで攻撃し、夜詩は盾に攻撃を受けながら力を蓄えていく。
刀磨が怪物の脇を抜け、後頭部に強烈な一撃を与え吹き飛ばす。
「どうだ?」
ダメージは与えたものの、怪物の動きを止める事は出来ず、更に狂暴化させてしまう。
「頑丈だな。
夜詩、いけるか?」
「ああ!後はぶん殴るだけだ。龍の逆鱗」
夜詩の右手にあった盾が銀色の光を放ちながら形を変え、ガントレットになった。
「俺が注意を引くから、確実に当てろ」
「わかった!」
刀磨は怪物の側に行き、紙一重で攻撃を避け続け、明らかにイラつき始めた怪物は、全力で腕を振り、動きが大きくなり始める。
夜詩は背後から右側へゆっくり近付き、怪物が右腕を振った瞬間に、一気に距離を縮めて、拳を打ち込む。
しかし、夜詩の拳が当たる寸前に、気付いた怪物の右足が腹に直撃し、夜詩は蹴り飛ばされる。
「がはっ!」
「野性の勘か」
蹴り飛ばされた夜詩に、游達が駆け寄った。
「ちっ、なんて反応だ」
刀磨は怪物から離れ、夜詩の方を見る。
「夜詩、もう一度だ!」
「ぐっ…あ、ああ!」
痛みに耐えながら、ふらふらと立ち上がる夜詩に、ルーが肩を貸す。
「大丈夫か?」
「悪い…」
「(かなりのダメージのはずだ)やれそうか?」
「やらなきゃ…ただあの野生の勘てやつは厄介だな。
…ルー、一つ頼みがある」
刀磨は、立ち上がった夜詩を見て、再び怪物の近くに行き攻撃を避け始めるが、冷静になった怪物の攻撃は鋭さを増していた。
「(さっきよりも素早く、無駄が無くなってる。くっ、かすり始めたか)」
「刀磨!援護頼むぞ」
腹を押さえながら、痛みに顔を歪ませる夜詩を横目で見ながら軽く頷き、刀磨は攻撃をかわしつづける。
「ルー、頼む」
「わかった。世界の抜け道」
ドアが現れ、夜詩は勢いを付けてドアに飛び込んだ。
すると、怪物の頭上にドアが現れ、夜詩が飛び出す。
しかし、怪物は夜詩の気配を頭上に感じ、足に力を入れる。
「刀磨!」
夜詩の声と同時に、刀磨が低い体勢から怪物の横をすり抜けるように走り、回転して、その勢いで怪物の両足を払い上げた。
怪物は仰向けに転び、地面に体が着くと同時に夜詩の拳が腹に打ち込まれ、怪物の悲鳴と共に、地下が激しく揺れる。
「はぁ…はぁ…やった」
「上出来だ」
游達が、夜詩と刀磨に駆け寄り、アリスが声を掛けようとした時、怪物を見て声をあげた。
「おに…きゃっ!」
「これって…」
口から泡を吹き、倒れていた怪物が徐々に男の人の姿になっていく。
「やはりな。
野生の生き物がここまで波を扱える訳がないと思っていたが」
「じゃあ、事件の犯人は、力が暴走した住民て事なの?」
「(暴走させられた、が正しいだろうな。それに…)さぁな。
とりあえず、こいつを連れてさっさと出るぞ」
刀磨は男を担ぎ上げ、出口へ向かう。
夜詩達も刀磨に続き、ロックと涼子の元に向かった。
「よう!なんかすごい揺れたけど、終わったのか?」
涼子に体力を回復してもらい、元気になったロックが夜詩達の姿を見て、声を掛ける。
「一応はな。階段頼むぞ」
「うっ、人をこき使いやがって!」
ロックは文句を言いながら、階段を作り、全員がそれを登って行く。
井戸から出て、拠点へルーの力で移動しようとした時、ロックが階段を作る必要がなかった事に気付き、刀磨に食って掛かるも、軽くあしらわれドアに入って行った。
拠点で待っていたミストに地下の出来事を説明し、全員ミストの料理を食べてくつろぐ。
「ありがとう涼子ちゃん」
「いえいえ」
夜詩は、受けた傷を涼子の能力で治してもらっていた。
「へぇ~、涼子ちゃんの力は傷を癒すんだね」
「私の力は自己再生を促進させるのに近いんです。
だから大怪我はまだ治せなくって…」
食器を片付けながらミストが笑顔で涼子に話掛ける。
「それでも十分すごいよ!自信持って」
「あ、ありがとうございます!あ、手伝います」
傷を癒し終わり、涼子はミストの隣へ行き、夜詩は刀磨に質問した。
「なぁ刀磨、本当にあの男が犯人なのか?」
「…どうしてそう思う」
「いや、あんなに狂暴なのが一人一人殺してたとは考えにくいだろ?」
「確かにあの男は犯人じゃない…いや、正確には身代わりだ」
「身代わり?」
「ああ、被害者を食ったのは間違いなくあの男だ。
だが、誰かがあの男に被害者を餌として与えてたに過ぎない」
「餌!?」
刀磨の言葉に全員が驚く。
「お前の言う通り、あの状態で地上に出ていたなら、この街は壊滅している。
導き出される答えは一つ、誰かが被害者を襲い、地下にいるあの男に食わせていた」
全員の表情が曇る。
「じゃあ、犯人はまだこの街に?」
「さぁな。あの男を捕まえた時点で逃げたか、まだ気付いてない可能性もあるがな」
「ま、まぁ、とりあえずあの男から話を聞けば色々わかるんじゃないか」
「ただ、心配だね」
ミストが手を拭きながら、話に加わる。
「何が?」
「だってあの男は酷い環境にいたんだろ?
いくら暴走していたからって正常かどうか…」
「…そうだな。ミストの美味い食事で何とかならないか?」
「無茶言わないでくれよ刀磨。
あんな野生の狼みたいなのを料理で正常に戻すなんて不可能だよ」
「野生の狼…」
「え?」
「なんで狼の姿をしていたと知ってる?」
「イメージだよイメージ!
人の肉を食うなんて狼みたいだなぁって。
まさか疑ってるのか?
僕は何の能力もないんだよ?
能力者の君たちを苦戦させるやつと狭い場所に二人っきりは恐ろしくて行けないよ」
「何言ってんだ?かなり広かったじゃねぇか」
ロックは不思議そうに疑問を投げ掛ける。
「いや、ロック。
あの男がいた場所は別に出来た小さな空洞だ。
付いて来なかった涼子とお前はわからなかっただろうがな」
刀磨はミストを睨む。
「狭いなんて知ってる人間しか口にしない。
それに、お前から少し血の臭いがするんだよ」
「…」
ミストは涼子の後ろを歩き、立ち止まる。
「これでここから去れると思ったのに…」
「きゃっ!」
ミストは涼子の首に手を回し、全員を睨む。
「ミスト!?」
「そうだよ!ここは俺の餌場だったんだよ!こんな風にな!」
ミストは涼子の首筋を噛み千切る。
「涼子!ミスト、てめぇ!」
「回復能力頂き!あーっはっはっはっ!」
首から血を流し、ぐったりする涼子を見てロックが叫び、口を血で汚しながら嘲笑うミストに全員が身動きを取れなかった。