第十二器 禁断の扉
大量の血を流し虚ろな瞳の涼子抱えたまま、ミストは口に付いた血を拭う。
「涼子を…涼子を離せ!」
怒りに身を任せて、ロックはミストに殴りかかる。
ロックの拳をかわし、部屋の隅に下がるミスト。
「危ないなぁ。さて、次は誰を食べようか」
ミストは全員をなめ回すように見つめ、まるで玩具を貰った子供のような笑顔を浮かべた。
「くそっ!血が止まらない!」
涼子の傍らにいたロックが、傷口を手で塞ぎながら叫ぶ。
ロックの言葉で、手に取ったテーブルクロスを涼子の傷口に当てる游。
「傷が深い…ルー!」
ルーは頷き、ドアを出現させる。
「アルガードまでは距離はあるが、連続で能力を使えばあっという間だ」
「アリス、ルーは能力に集中しないといけないからドアを開けていって。ロックは涼子を背負って、後ろから私が傷口を塞いでおくから」
「俺はこいつを殺す!」
立ち上がったロックの目の前に刀が出てきた。
「お前は邪魔だ。まずは仲間を助ける事を考えろ」
「くっ…わかった」
ロックは涼子を背負い、他の3人とドアから出ていく。
残った刀磨と夜詩は、刀と鎌をミスト向け構える。
「餌が減ったな。どうするかな…そうだ!」
突然、傍にあったガスボンベの口を開けていくミスト。
するとミストの前に漏れたガスが集まり出す。
「…ガスはよく燃える」
「刀磨!」
部屋の隅に立ち、刀磨を背後に隠しながら、大きな盾を出す夜詩。
夜詩達の動きと同時に、ミストは大量のガスに火を付け大爆発を起こす。
街の広場が揺れ、地面から大きな火柱が登り、全身焼けただれたミストが現れる。
「ふぅ、火傷だけで済んだな。あの二人は死んだか?」
地面に出来た穴を覗くミスト。
次の瞬間、穴の奥から瓦礫が飛び出してきた。
「おっと!しぶといね」
ミストの前には、瓦礫と一緒に飛び出してきた夜詩と刀磨が立っている。
「はぁ…はぁ…危なかった」
「くっ…地上までの距離が短かったのが幸いしたな。あれ以上、炎に包まれていたら、丸焦げだ」
「うーん、やっぱり始末しないとまずいよな」
「あいつ、あんな重傷でどうして平気なんだ?」
「始末するか!」
ミストがそう言うと、全身の火傷がみるみる小さくなり、元の姿に戻っていく。
「き、傷が治った?!」
近くに爆発で死んだ住人の衣服を奪うミスト。
「これでよし!じゃあ続きをしようか」
ミストは近くの瓦礫を引き寄せ、軽く指で弾く。すると凄まじいスピードで夜詩目掛け飛んでいった。
夜詩はとっさに盾で防ぎ、近くの建物の陰に隠れる。
「あいつの能力は何なんだ?ん?」
夜詩は建物の中に逃げ遅れた人が大勢いる事に気付く。
その時、刀磨がミストの攻撃をかわす度に、街へ被害が広がる。
刀磨とミストの間に、盾を構えて割って入る夜詩。
「何してる!」
「それはこっちの台詞だ!周りをよく見ろ。まだ逃げ遅れた人が沢山居るんだ」
「分かってるが…」
ミストの攻撃を受け続ける夜詩が、何かを決心したように少しずつ前に出る。
「俺がこいつを引き付けるから、刀磨は住人を逃がしてくれ」
「お前だけじゃ…」
夜詩の表情を見て、小さな声で死ぬなと呟き、その場を去る刀磨。
ミストはそれに気付き刀磨を狙うが、夜詩に阻まれる。
「一人で相手する気か?面白い…やってみろ!」
大量の瓦礫を浮かせ、満面の笑みを見せるミストに、夜詩は拳を強く握り突っ込んでいく…。
「ありがとうございます!」
刀磨は最後の住人を街の外へ逃がし、急いで夜詩の元へ向かう。
広場に着いた時、目に飛び込んできたのは、血塗れになり地面に倒れた夜詩の姿だった。
「夜詩!しっかりしろ!」
「と、刀磨刀磨…がはっ…気を付けろ…あいつは」
その時、弾丸のように大量の水が二人を襲う。
二人がいた場所に砂埃が立ち上り、夜詩を守るように傷だらけの刀磨が現れる。
「何とか致命傷は避けたのか。さすがさすが」
拍手をしながら笑っているミスト。
刀磨は倒れそうになるが、刀を地面に突き立て体を支える。
「お前の…能力は一体…」
「能力喰い、相手の血肉を喰えば、能力をコピー出来る。複数の能力を同時に発動も可能な最強の能力」
驚きを隠せない刀磨の表情を見て、ミストは腹を抱えて笑い始めた。
「あっはっはっはっ!夜詩と同じ反応だ!」
「くっ!ミストーー!」
刀磨は傷付いた体を強引に動かし、ミストの体を刀で貫く。
しかし、ミストは笑顔のまま、刀を引き抜き上着を捲り傷口を見せる。
「馬鹿な…」
ミストの傷口は瞬時に塞がっていき、刀磨は地面に膝を付く。
「涼子のおかげで再生能力も付いたんだよ。じゃあそろそろ終わりにしようか」
ミストは刀磨に水を浴びせ、上空にある電気の塊をぶつける。
一瞬、辺りに眩い光が走り、刀磨の体から黒い煙と肉の焼ける臭いが立ち込める。
「やっぱり俺は最強だな。あーはっはっはっ!」
その頃、アルガードでは涼子の手術が行われてた。
「涼子…くそっ!」
ロックは何度も何度も自分の足に拳を叩きつける。
「どこ行くの?」
ルーがその場を去ろうとしたのに気付き、アリスが声を掛けた。
「夜詩達が心配だからね」
「じゃあ俺も!」
ルーはゆっくり首を振り、諭すように話始める。
「君はここで涼子の無事を祈ってる方がいい。
怒りに身を任せてると、本来の力も出せない。それにミストを…あいつを倒せるのは俺だけだと思う」
「それはどういう…」
游の言葉を遮るように見つめるルー。その何とも言えない圧力に游は言葉を呑み込む。
「行ってくる」
そう言ってルーはドアの中へと消えていく。
その頃テッドシティでは、ミストが去ろうとしていた。
「ぅ…」
「ん?」
ミストは振り向き、倒れた刀磨を見つめ、指が微かに動いたのに気付き近付く。
「しぶといなぁ。キモいよ」
ミストは手を振り上げ、割れたガラス片を空高く浮かび上がらせると、腕を振り下ろす。
その瞬間、ミストは蹴り飛ばされ地面に転がる。
「っ…誰だ?」
顔を上げるとそこには誰もおらず、刀磨と夜詩の姿も消えていた。
「どこいった?」
二人は街にある一軒家に横たわっている。
「大丈夫か?」
ルーの呼び掛けに、刀磨が目を開けた。
「ぅ…ルー…か」
「危ないところだった。今は休んで後は任せろ」
「待て…あいつは複数の能力を使い、凄まじい再生力を持ってやがる…」
「わかった」
ルーは現れたドアに入っていく。
ミストは周りの家を破壊しながら、夜詩達を探し始める。
「面倒だな。焼き払うか!ん?」
ミストは瓦礫の陰から現れたルーを見つける。
「なんでいるんだ?お前、戦えないだろ?」
「そうかな」
ルーが右手を突き出すと、小さなドアに右手が飲み込まれ、同時にミストの前に小さなドアが現れると、ドアの中から出てきたルーの拳が顔面に直撃した。
「ぐあっ!お前…」
「能力も使い方次第だ。たっぷり味わえ!」
ルーが両手を何度も突き出し、ミストの全身に拳の連打を浴びせる。
「くっ!こんな攻撃が効くと思ってんのか!こんなもの…!?」
ミストは殴られる痛みとは違う痛みに顔を歪ませ、痛みの走った腹を見ると、ナイフを持ったルーの手が、自分の腹を深く切り裂いていた。
「この程度じゃ簡単…にっ!がはっ!」
傷口から腹の中に、ルーの手が伸びてすぐに引き抜かれる。
「くっ…あ…悪趣味だなお前」
「我ながら思うよ。じゃあな」
次の瞬間、ミストの腹が爆発を起こし、煙が巻き起こった。
「爆弾の味はどうだ?もう喋れないか」
ルーがその場を去ろうとした時、煙と炎が空中に集まる。
「なかなかだなぁ。でも、残念!」
「ばかな!?」
腹の前半分が消し飛び、中身が見えた状態で、ふらふらとミストが立ち上がり、笑みを浮かべた。
「惜しかったなぁ。火力が足りねぇよ」
「あり得ない…再生力を上回る程の爆弾を使ったはずだ」
「ご自慢の火力…プレゼントしてやるよ」
「!?」
ルーの周りに赤い玉が浮かび、いきなり爆発してルーは吹き飛ばされる。
「どうだ?びっくりしたろ?
お前が入れた爆弾が爆発する瞬間、爆発を能力で封じ込めた。
まぁ、全部留めることは出来なかったがな」
「く…そ」
地面に倒れたルーの元へゆっくり歩いていくミスト。
ルーは何度も立ち上がろうとするが、受けた傷が酷く痛みで顔を歪ませながら地べたにへばりつく。
「もう終わらせるか」
「そうだな…」
ルーがそう言った瞬間、地面にドアが現れ、ルーが吸い込まれる。
「ん?」
すると今度はミストの頭上にドアが現れ、中からルーが飛び出し、ミストの背中から抱き付く。
ルーを振り払おうと体を揺するミスト。
「なんの真似だ?この…くっ」
ルーは、ミストと離れないようにドアから取り出した剣で、自分とミストを貫く。
「付き合ってもらうぞ…絶界への門」
ルーがそう呟くと、上空に大きな扉が現れる。
大きな扉には無数の骸骨と体が溶けかけているような人の形をした物が張り付いていた。
扉がゆっくり開くと、辺りの瓦礫を吸い込み始める。
「くっ…吸い込まれる…こうなったら」
ミストは瓦礫を地面に突き刺し、しがみついて抵抗する。
「無駄だ」
扉が開ききると、巨大な黒い手がゆっくりミストとルーを掴む。
「何だ…離せ…」
「ルー!」
遠くでルーを呼ぶ刀磨の声がし、ルーは刀磨を見つめた。
「刀磨…じゃあな」
そう言って笑顔を見せるルー。
次の瞬間、ミストとルーを掴んだ手は扉の中に消え、幻のように扉も消えていった。
「ルーーーーーーーーー!」
刀磨の叫び声だけが虚しく響き渡っていく…




