チェシカの想い
昔、私は幼いながらに恋をした。
相手は、はじめて見る色の髪をした男の子(?)だった。
というのも、出会った当初、彼はピンクのドレスを身に纏っていたのだ。
大きなリボンがいくつもついたフリフリのやつだ。
そんな格好で自分は男だと言いはる彼に、男の子はドレスなんて着ないんだよと教えると、非常に驚いた顔をされたのがとても印象に残っている。
彼は次の日から男の子の装いになったが、それでも至るところにあしらわれているフリルの飾りは彼の可愛さを増幅させていたと思う。
私達はすぐに仲良くなった。
同じセカイを共有できたから、というのが大きな理由。
いつも一緒で、二人でいろんなところに行った。
しだいに、私は彼に恋するようになった。
将来の夢は彼と結婚する事だって言った覚えもある。
当時はそのくらい彼の事しか頭になかった。
彼も同じ気持ちなら、これ以上の幸せは無いと本気で思ってた。だから、
――あのね、僕が大きくなったらチェシカをお嫁さんにしてあげる。
私はその言葉が本当に嬉しかった。
同時に少し恥ずかしくもあって、少しうつむく事しかできなかったっけ。
あの日の彼の笑顔は、今でも鮮明に思い出せる。
その直後だったな。
私が、地に落ちた花冠を拾うことさえできない身体なのだと思い知らされたのは。
お互いがお互いの存在をよく理解していなかった子どもの頃の約束。
あの言葉を、エルは覚えているのかな?
ううん。忘れていたっていい。
むしろ、忘れていて欲しい。
私はもう、ちゃんと身の程をわきまえてる。
こんな身体でエルを想うなんておこがましい。
そもそも、身分が違う。
どこの誰ともわからない私と違って、エルは一国の皇子様。
例え私がちゃんと生ある人間であっても釣り合うはずがない。
身分違いの恋より絶望的な恋。
わかってる。
わかってるはずなのに、おかしいな?
どうやってもエルへの想いが捨てられない。
エルはいつか、ヴィオラさんみたいな相応しい身分の生ある人と結ばれて幸せになるはずなのに。
霊視にはいくつかの代価があるらしい。
イオの場合は、髪の白髪化と、目の色の変化。
エルの場合は無意識のうちに人を金縛りしてしまうみたいで、苦手意識を持たれやすい。
出会った当初、エルの側にはあまり人がいなかった。
彼のお父様、お母様に二人のお兄様。数人の従者さん達。
王宮にはたくさんの人が行き交っていたにも関わらず、彼を怖がらない人の数は両手の指で数え足りていた。
そんなエルにとって普通に付き合ってくれる人はとっても貴重。
同い年くらいの女の子は、ヴィオラさんがはじめてだと思う。
エルは、仕方なく侍女にしたなんて言ってたけど、内心すっごく喜んでるみたい。
ずっと側で見てきた私には分かる。
ヴィオラさんはとっても可愛いし、良い子だし、クォーツ家という貴族のお嬢様だし、なによりエルの力に理解がある。
ライムント様には悪いけど、彼女はエルと結ばれてほしい。
もしそうなったら、私はエルへの想いを断ち切ろう。
そして、笑ってエルとさよならしよう。
おめでとう。お幸せにねって祝福して、どこか遠い所に行こう。
だって、しょうがないよね?
私にはエルを抱き締める身体も、あたためる熱もないのだ。
少しでも何かしてあげたくて、触れる真似事をしてみても結局は何もしていないに等しい。
エルが不安な時も、泣いている時も、側で見てるしかできない私が、何のために幸せなエルの元に留まらなければならないのか。
たとえ結ばれなくとも、彼が幸せなら私も幸せ。
よくある恋愛小説で、ありきたりのワンフレーズ。
それでいいじゃないか。
欲はあるよ。
私だって人だもの。
だけど、本当に欲しい物は絶対手に入らないって知ってる。
生きてさえいれば、もっと欲張りになれたのかもしれないな。




