34.喰
周りに、けたたましい音が響く。連が湊に連れ去られ、八戒がそれを追おうとする。しかし、それを止めに入ったのは乱童であった。
八戒は連を追うのをやめ、目の前の乱童を叩き潰すことに専念する。
(連は、もう十分強い…少し心配だが、俺なしでもでも何とかなるだろう。だが、こいつは放っておくには危険すぎる。ここで何とかしなきゃならん)
乱童の刃を、八戒が拳で防ぐ。
「ヒヒヒ…八戒、いいのかィ?また、友を失ってもさァ」
「連は強いさ、一人でも何とかできる。だが、お前のことは放置できない!貴様の危険度は、誰よりも知っている!」
「ヒヒヒッ!流石!親友を見捨てて僕から逃げた男は、言うことが違うねェ!」
「…貴様ぁ!」
八戒が思いっきり蹴りを入れる。乱童は刀で衝撃を吸収し、受け止めた。
「嘘じゃないだろ!?なァ八戒ィ!八百年前、お前は俺にやられる友を見捨てて逃げた!お前の友も、さぞお前を恨んだだろうなァ」
「……俺の親友の…義天の覚悟を馬鹿にしてんじゃねぇ!」
八戒が、二発、三発と拳を刃に叩き込む。乱童はそれらの打撃を全て防いだが、刃にはヒビが入った。
「ヒヒッ。なかなかやるじゃないかァ。噛みちぎれ…〔空喰〕!」
乱童が両手を前に出し、指を立てて牙を模した。
乱童が手を勢いよく合わせる。咄嗟に、八戒はその場から飛び退く。
その瞬間、八戒がいた場所が大きな牙に噛みちぎられたかのようにえぐれた。
乱童は攻撃の手を緩めることなく。周りをえぐっていく。
「さァさァ!逃げてばかりじゃァ勝てないよォ?」
「知ってるさ…『降魔解放:弁天大拳白浪鬼』!」
八戒の姿が変化する。巨大な二本の角が生え、体には赤い模様が浮かび上がる。八戒が一歩を踏み出すと、地面が割れた。乱童は、その姿をみると恍惚とした表情で震え上がる。
「いいィィ…最高にいいねェ!僕も……面白いものを見せてあげよう…〔貪惏身降〕!」
乱童の姿が変わっていく。髪は短くなり赤みがかる、筋骨隆々の逞しい青年の姿へと変貌する。
それは、八戒にとって見知った顔だった。八戒の心に数百年もの間、居座り続ける後悔。遠い過去に、置き去りにしてしまったもの。
八戒は、その場から動けなかった。
「――どうしたァ、久々に友人に会えて何もなしか?なァ…八戒」
それは、大昔の親友の姿――柄柱 義天の姿だった。




