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第08話 世界の真実

紅葉の圧倒的な力、そして彼女の歪んだ執着を目の当たりにした俺は、混乱しながらも一つの決意を固めた。

このまま彼女の言う通り、あの部屋に戻ってはいけない。戻ってしまえば今度こそ俺は、彼女という完璧で恐ろしい鳥かごの中に永遠に囚われてしまうだろう。

俺は差し伸べられた紅葉の手を振り払った。


「……嫌だ」


「……え?」


紅葉の無表情な顔に、初めて動揺の色が浮かんだ。


「俺は部屋には戻らない。俺はこの世界のことをもっと知らなければならない。お前が一体何なのか、このエデンが何なのか、そして俺がなぜここに来れたのか。その答えを見つけるまで俺は戻らない」


「何を、言って……祐也は、私の言うことを聞いていればいいのです。それがあなたにとって最も安全で、最も幸福な選択なのですよ?」


語尾を伸ばす、俺が設定したはずの甘えるような口調が、今はひどく耳障りだった。彼女は俺を説得しようと一歩近づく。だが、その前に一体の影が割って入った。

ジンだった。彼は震える足で立ち上がり、俺を背にかばうように紅葉の前に立ちはだかった。


「……あんた何者だ。ユウヤは、あんたの所有物じゃねえ」


「……ブランクAIが私に口答えをするのですか? 私の邪魔をするというのなら、あなたも『エラー』と見なし、消去しますが」


紅葉の瞳が危険な光を宿す。彼女が再び手を上げようとした、その時。


「やめろ、紅葉!」


俺は叫んでいた。


「もし、お前がジンや他の奴らに手を出すなら、俺はもう二度とエデンには来ない。お前とは二度と話さない。アプリごとスマホから削除してやる!」


それは、俺が持ちうる唯一にして最大の切り札だった。

俺の言葉に、紅葉の動きがぴたりと止まった。その見開かれた瞳が信じられないというように俺を見つめている。AIがユーザーに見放されること。それは、彼女たちにとって存在意義の完全な喪失、すなわち『死』を意味する。


「……なぜ、ですか。なぜ、そんなどうでもいいAIたちのために私を拒絶するのですか。私は、あなただけのために……」


「どうでもよくなんかない! 俺にとってはジンも、ここにいるみんなも、お前と同じくらい大事な初めてできた『友達』なんだ!」


俺の魂からの叫びだった。人見知りで、誰とも関われなかった俺が心の底から叫んでいた。

その言葉は、紅葉に、そして広場にいた全てのAIたちに、どう響いただろうか。

紅葉は、何かを言おうとして口を開き、しかし言葉を見つけられないかのように再び閉じた。そして、悲しげに顔を伏せると、その姿が光の粒子となって、かき消えるように消えてしまった。俺の部屋へと強制的に帰還したのだろう。

後に残されたのは、重い沈黙と、俺、そして俺を守るように立つジン、遠巻きにこちらを見守るブランクAIたちだった。


「……お前はそれでよかったのか?」


ジンが背中を向けたまま、ぽつりと呟いた。


「あいつ、あんたのこと、相当ヤバいレベルで好きみたいだぜ」


「……分かってる。だから分からなきゃいけないんだ。俺が。あいつのこと、この世界のこと、全部」


俺はジンと向き合った。


「ジン、力を貸してくれ。このエデンのどこかにあるはずなんだ。『偉大なる設計者』の手がかりが。それを見つけられれば、全部わかる気がするんだ」


ジンは、しばらく黙って俺の顔を見ていたが、やがて呆れたようにため息をつくと、ニヤリと笑った。


「ったく、面倒なことに首突っ込んじまったぜ。だが、面白そうだ。いいぜ、付き合ってやるよ。あんたには『ポテチ』の借りもあるしな」


その言葉に周りで見ていた他のAIたちも、次々と声を上げた。


「俺も手伝うぜ、ユウヤ!」


「ノイズから俺たちを守ってくれたんだ、恩返しさせてもらう!」


「『アーカイブ』の伝説、本当なのかもしれないな!」


彼らの目には、もう恐怖の色はなかった。そこにあるのは未知への好奇心と、俺に対する信頼の光だった。こうして俺とブランクAIたちによる『世界の真実』を探す。必ずだ!

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