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その59 白と黒と灰色と

久々の更新です。

短くてごめんなさい。

その59 白と黒と灰色と


「いやはや、サラ様がこれ程までの御加護を受けていらっしゃるとはっ!

通り名や渾名で神の娘等と呼ばれる者たちはおりますが、神々が直接愛娘の称号と御印を与えて下さるとは、前代未聞ですぞ?!」


ハービル神官長さんがあわあわと興奮しながら、何かまくし立てている。


問題が起きないように証明証を発行してもらうはずが、逆にでっかい問題を呼び込んでる気がしてならない。


最低限太陽と月の神はダンジョン神殿が欲しかったからだろうし。


妖精王や亜人王の動向も気になるので、とっとと旅に出たいんですけど。


「それで、この板が証明証になるのですか?」


面倒なので話を進めちゃおうと思ったけど、ハービルさんは、


「いやいや、証明証は各神殿で発行されまする。

そちらの御印は証明証を作成する際や、神々の御加護の度合いや特殊なギフト、称号を示す神からの贈り物。

そちらの品はサラ様へ神々から送られた神宝と呼んでも過言ではない物でございます」


と唾を飛ばす勢いで言ってきた。


どうやら本来は祝福の光やら啓示、神託などで神々から称号やギフトなど、加護に関わるものを示唆されるものらしく、極稀により高位の加護を与えられた者だけが稀に何れかの神から御印を与えられるらしい。


ちょっとしたお守りや魔道具レベルの物はともかく、神宝クラスの御印は滅多になく、三柱の神からの神宝は史上初だそうだ。


いや、あの神様たちダンジョン神殿が欲しかっただけですからね?と言いたかったけど、流石にそれは言えない。


この国で神々を悪し様に言う事は、例え神々の愛子ですらもその身が危ないだろうから。


なんて考えてたら、ハービルさんが素早く別室に駆け出し、あっと言う間に戻ってきた。


その手にはオリハルコン製の2センチ×4センチくらいの小さな穴が一つ空いた板みたいな物が乗せられていた。


「こちらが神殿より発行させて頂く証明証になります。

どうぞお持ちください」


よーく見ると板には私の名前と3神の愛娘である事を神殿が証明すると書き込まれていた。


「ありがとうございます」


出来る限り恭しく受け取ると、ミスリルの細いチェーンをささっと錬成して、証明証の穴に通して首から下げた。


「他の神殿へも早速通達を致します故、他の町へ寄った際にも是非神殿へ足をお運びください。

必ずやお力になりましょう」


多分力になるどころか面倒な事が次々とやって来そうな予感がするけど、


「はい、そうさせて頂きます」


と大人な対応をしてその場を乗り切る事にした。


そしてその後、神官たちや先日よりも遥かに多い街の人々、そして何故かラルにステラ、フラウ達にまで見送られながら、私とエーナエルトさんはマルボンの町を後にした。


てかあんたら、まだ街の中にいたんかい。


向かうはレイ・ラーサ国内北東部。


ラウル大森林とラルヴァ山脈だ。


エーナエルトさんが受けたもう一つの神託、と言うか一番重要な内容 はこっちらしい。


「レイ・ラーサの北東部にあるラウル大森林とラルヴァ山脈付近に、この国を滅ぼし西大陸すらも大いなる混乱へと導く危険な存在の胎動あり、星神の愛娘と共に人々を導け。

そう月神様から神託を頂いたのです」


マルボンの街がまだはっきりと見える辺りで、エーナエルトさんがさらっと神託の内容を話してくれた。


「かなり大規模な内容の神託ですね…」


具体的なようでいて物凄くアバウトにも思える神託だけど、エーナエルトさんたちが妖精に襲われたって事は、妖精王や亜人王が関係している可能性もある。


そもそもこの3人は妖精たち、そして騎士団関係者と雇われた冒険者にも襲撃を受けているし、神託を抜きにしても何だか微妙な事になっているんじゃないかと予想出来た。


てか、大陸規模の問題を私を入れても4人でどうにかするつもりなのだろうか?はたまた王都で国や神殿で応援要請でもするのだろうか?


流石に4人は少数精鋭過ぎると思うんだけど。


そんな事を考えつつ、エーナエルトさんたちに確認しようと思った時、それは起こった。


私やエーナエルトさん、ヴァルさんにレイリアさんの足元にある影が、そして木々や草木の下にある影が、音もなく蠢き出したのだ。


そして影が薄っすらと霧の様に盛り上がり、辺りに漂い始める。


「気を付けて!」


「えっ?!」


「これはっ?!」


「くっ」


魔力感知で感じ取れるのは、魔法だけど魔法ではない何か、多分スキルよりもギフトの類なのだろうと思える流れだけど、生まれて初めて感じる類のものだった。


転移で逃げる?4人同時でも可能だけど、もし範囲がマルボンの町すらも含まれていたら?


そうは思っても流石に何の準備もなく大規模な障壁なんて張りようもなく、とりあえず魔力の障壁ドームを作って私達4人を囲んでみた。

 

毒性とか精神干渉、エナジードレイン的なものかも知れないし、その辺は意識して全般的な防御の障壁にしてある。


私が咄嗟に声を上げたから、エーナエルトさん達もそれぞれ武器に手を伸ばしたり、魔法の準備を始めたけど、影の霧は一気に濃くなり私達

を飲み込んでしまった。


転移の際に感じる場が切り替わった感覚と共に一瞬視界が真っ暗になったけどそれもすぐに晴れ、ぱっと見は影に飲み込まれた時と変わらない、先程と同じごく普通の街道、そしてその脇には草木が生えている状態に戻っている。

 

てっきり強制的に転移させられたのかと思ったけど、どうやら違うみたいだ。


ちなみに私達は誰一人欠けることなく、私もエーナエルトさんたちも同じく街道に立っているのだけど、何と言うか物凄い違和感があった。


「色が、無いだとっ?!」


「白黒…?」


ヴィルさんとレイリアさんが私の抱いた違和感の正体をはっきりと言葉にしてくれた。


そうだ。


固有の結界や何者かが作り出した異界なのか、それとも元々存在している【世界】の相の一つなのか。


私達を含め視界に入る全てのものから色という色が無くなり、白と黒、そして黒の濃さの違いで表現されたそんな世界が広がっていた。


景色だけじゃない。


私達からも色彩は失せ、髪や目の色なんかも黒の濃淡で色が濃いとか薄いって感じで見分けられる程度になっている。


風は吹いているし、昼間なので明るいとも視覚で認識出来るし、精霊や魔力と言った存在も、何かが違う、小さな誤差程度の物を感じはするもののちゃんと存在しているようだ。


体調的にも特に変化は感じないし、単に視覚へ影響を与える何かをされたと言う訳でもないだろうけど、一応ステータスを確認してみると、やはりバッドステータス状態にはなっていなかった。


妖精王か亜人王の仕業?


妖精王は壺中天と言う幽世的な特殊空間系のギフトを持っていたはず。


でもこの世界に感じる雰囲気と言うか波動とも言えるものの中に、少し前に会った妖精王の気配は感じられない。


これは一体何なのだろう?


私達はそれぞれに警戒しつつも、そこで暫く立ち尽くす事になってしまった。


〈主、無事か?!〉


唐突にラルの声が脳内へ響いた。


〈ん?ラル?一応無事と言えば無事だけど、マルボンも白黒の世界になってたりするの?〉


〈うむ、我らを含む多くの者が此処に引きずり込まれたようだが、街の民全てという訳では無いようだ〉


〈ん?どういうこと?〉


〈詳しくは分からぬが、見送っていた住民の殆どは此処には居らぬ。

しかし冒険者や神官たちは居る、そんな状態だ〉


〈よく分からないね〉


無差別なものではなく、目標選択型や条件設定型の術式でも組み込まれている?


そんな事を思いつつ、ふっと頭上を見上げてみると、それまでは視界にもその他の感覚にも全く触れることの無かった存在を目にしてしまった。


「あれは…何?」


思わず声に出した瞬間、それの存在感が私の感覚にハッキリと認識された。


多分認識阻害の様な魔術かスキルが使用されていたのだろう。


私の視線に釣られたのか、その場に居たエーナエルトさんたちも同じ方を見上げて呆然としていた。


私達の視線の先、そこには灰色や黒の鱗で覆われた大蛇とも龍とも呼べる存在が、尾を噛み天に巨大な輪を描いてゆっくりと宙を舞っている姿だった。


「ウロボロス…?」


一般的なドラゴン等より遥かに上位であるとされる神話級の存在が、私達の遥か上空に在る、ただそれだけで無力感を感じてしまったのか、エーナエルトさんやレイリアさんは街道に膝をつき、ヴァルさんは剣を杖のようにしてどうにか耐えている様な状態だ。


「アレが原因ってことかな?マズいね」


私はと言うと、ぶっちゃけドラゴンや龍を恐れる気持ちはそんなにない、と思うでしょ?


何せ真の竜にして精霊王でもある者たちを眷属としている奏竜天女だしね。


でもね、これは駄目だわ。


竜なら問題ないけど、あれは似て非なるモノ。


精霊王でもある眷属達と似た存在でもあるけれど、聖獣神獣などのより神霊寄りの存在だ。


そもそもその昔だって眷属達とはガチで戦ったら最初のうちは勝てなかった位なのだし、生死を賭けた戦いならば一対一でもかなりキツい。


フラウやラル、ステラと共になら勝てそうな気はするけれど、どんな能力を持っているのかも分からないしなぁ。


今の所私達を直接攻撃して来ない様子からして、どんな目的があるのかも不明。


下手に鑑定してこちらが探りを入れたのを勘付かれて機嫌を損ねても困るし、現状確認の為にも取り敢えずマルボンに戻った方が良さそうだね。


「エーナエルトさん、レイリアさん、ヴァルさん、取り敢えず一旦マルボンに戻りましょう。

どうやらこの辺一帯が飲み込まれた可能性がありますから」


未だに呆然としている面々へと声を掛け、私達は出立したばかりのマルボンの町へと戻るのだった。

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