その44
その44
ラルは勿論のことユグヌスクさんや3姉妹も食堂に呼び出して、ジャンドゥーヤで起きている状況を説明した。
「瘴気もあったんだよね?ほぼ確実に呪王が何かやらかしてるね。
魔物、それもボスクラスの魔物までアンデッド化させているなら、迷宮のアンデッド化なんて実験かも知れないよ」
とユグヌスクさんが嫌そうな顔をして言った。
彼の好みとは少し合わないらしい。
「魔物のアンデッド化そのものは場所にもよりますけど普通に起こるし、死霊術師とかあの辺も出来ちゃいそうだよね」
という私に、
「いやぁ、死霊術師によるアンデッド化は死体に対して行うけど、今回は多分生きている魔物をアンデッド化させていると思うよ?
あいつが在り来たりな事をするとは思えないし、二重に実験が出来ると喜んでいそうだね」
「うむ、あ奴は性根が腐っておるでな」
とノクスが顔をしかめている。
「アレは志高くして魔王化した者ではないのです。仕方ないのです」
とステラがそう言いつつコーヒーを啜る。
「どちらにしても放置は出来まい。神獣である我なら瘴気の影響は短期間なら受けぬし、サラ様も奏竜天女の竜人状態ならいけるであろう?」
「私達魔王チームも余裕ね。真竜たちも平気だろうし」
そう、この人たち(人たち?)は種族として普通の段階から逸脱しているから、高濃度な瘴気を長期的に浴び続けでもしない限りジャンドゥーヤ迷宮の瘴気など屁でもないのだ。
私の場合は竜気なりを使って自衛するか、魔法を使うかしないと無理だけども。
「4竜は各町の守護に着かせているので、今動けるのはこの面子って事だよね。
んー、どうしよう」
「感覚共有したゴーレムを送り込めばよいのです。ミスリル以上の魔法金属なら瘴気に対する耐性もありますし、銀なら神々の祝福をかけやすいはずです」
ステラよ!それ頂いた!
「なるほど。偵察ゴーレムを三体くらい作ってみると良さそうだね?!ミスリルじゃ地魔法で弄るのは難しいなぁ。
こうなったら錬金術師を取ればいいかな?
あ、戦闘も激しくなるかも知れないよね?!そうなる前にあれとかこれも上げとこうっと」
溜まりに溜まったスキルポイントを使い、剛力10、剛健10、俊敏10、精神抵抗10と各スキルのレベルを上げた後、新規スキルとして鍛冶5、薬師5、錬金術師10、格闘技5を取得した。
307ポイントも使ってしまった。
みんな何やら白けた視線を向けてきたけど気にしない!
竜人格闘とか普段使えないし、剛力10とベースレベル考えたら竜以外でも素手でもいろんな魔物倒せるんだよね。
剛力の効果で常時筋力値が1000になるし。
剛健のお陰でその辺の攻撃では傷つかないから、素手で殴っても怪我しないしさ。
錬金術師何かは複合型のスキルだから、あれこれやりやすいし。
取得前提が鍛冶と薬師だったので取るのちょっと大変だったけども。
まだ能力値はポイントを使っていないから、かなり上げられるけど今はいいかな?
私は収納からミスリルの塊をいくつか取り出し床に置く。
「新たなるスキルの力、試してみるね!ゴーレム錬成!!」
私の魔力がミスリルに染み渡り、普通の人間サイズを一体、身長が半分ほどの小人サイズを一体、羽を付けた小妖精を一体作り出した。
「これで魔道具も作れる!」
そう、私の収納内にはアホかと思う程の各種魔物の死体や鉱石、宝石、金属塊に魔石、薬草などが詰め込まれている。
こまめに売ったり、マーレンさんにプレゼントするなりしてもいいけど、それだといつになっても捌けそうにないんだよね。
なので早めにどうにかしたいと思っていたし、鍛冶場や薬釜が無くても鍛冶やポーション作成が出来ちゃう錬成はどうしても欲しかったのだ。
と言う事でゴーレムたちを祈念魔法で祝福し、天術で固定させて視覚聴覚の感覚共有を済ませ、早速ジャンドゥーヤの管理事務所付近へ小人型ゴーレムを転移で送り込んだ。
3体分送ったら情報過多で頭がこんがらがるからね。
辺りは薄暗く、瘴気が霧のように立ち込めている中、小人ゴーレムが進んでゆく。
弱い魔物が出たはずだけどその姿はなく、遺跡は破損こそ見られないものの、何だか以前よりおどろおどろしく見える。
密林のような状態だった草木は殆ど枯れていて、枯れ葉が多少ぶら下がっている程度で緑のみの字もない。
そして黒くてトゲのある蔦だけが異様に育ち、枯れ木や遺跡に巻き付いていた。
蔦からは明らかに瘴気が放たれていて、ろくでもない植物なのが分かるね。
小人ゴーレムを遺跡の玄関付近まで移動させたけど、蔦が壁の様になっていて入れない。
無理だろうなぁと思いつつ小人ゴーレムを通して火魔法を使ってみると、魔法は放たれずゴーレムの体が赤く光りだした。
お?熱いゴーレム化したとか?
行けるかな?
良い気になっていくつか火魔法や光魔法を使おうとすると、何とも派手に光り輝くゴーレムが誕生した。
よし!進め!
小人ゴーレムはちょこちょこと階段を上り、扉を覆う蔦の前に立った。
ここは拳?それとも手刀の方がカッコいい?いや、蹴りも捨て難い。
そんな風に悩んでいると、小人ゴーレムの輝きが段々強くなり、体が小刻みにぷるぷると震え出した。
マッサージに使えそうなぷるぷるっぷりだね!
よし、タックルで!
私が小人ゴーレムに命じると、もの凄い音と衝撃と共に繋がりが切断された。
あれか。
ミスリルは魔法の発動体や威力増強の為に使われる事もある。
それに私の魔法を溜め込んだので、耐えられずに衝撃で爆発したと。
錬金術師の知識を参照してみると、錬成する段階でこんな風に魔法を撃てるとかイメージしておかないと、打ち出す機能は付かないらしい。
まぁ冷静に考えてそうだよね。
その後の様子が気になるし、私はいそいそと人型ゴーレムを遺跡前に転移させた。
入口付近の黒い蔦が焼け落ち、付近の窓に嵌っている強化水晶は割れたりヒビが入っている。
建物その物にも多少傷は入っていたけど、殆ど思ったほどでもなかった。
床も黒く煤けているけど目立った傷はないしね。
やはり迷宮化の影響もあるのか、それとも古代遺跡そのものが丈夫なのかは不明だけど。
事務所の奥から足音が聞こえてきて、アンデッド化したと思われる昆虫人間が数体現れた。
魔法は無理でも肉弾戦は出来るはず!
アンデッド化した昆虫人間に囲まれて殴られたりしたけど、さすがはミスリル、びくともしない。
高レベルの錬金術師が作ったお手製ゴーレムな分、迷宮のミスリルゴーレムより強いだろうしね!
祝福されたミスリルでの攻撃は、通常の武器攻撃より遥かに効果的で、わずかな攻撃で次々とアンデッドを倒して行く。
後から加わったものも含めて十数体を床に沈めたゴーレムを、再び前進させようとしたけと、そこでブツッと繋がっていたラインが途切れてしまった。
魔力遮断とか何かしらの機能が働いたのだろう。
仕方ないので今度は小妖精型ゴーレムを一層へ送り込む事にした。
これは作る時点で普通の小妖精の様にパタパタと飛べるイメージをしておいたので、ちゃんと飛翔機能は付いているよ?
重いのか私よりちょっと遅いけど。
一層内は暗かったけど、埋まってはいなかった。
ただ青空が広がっているはずなのに、かなり低い位置に岩の天井が見えている。
そしてやっぱり地面や木々、天井にまで黒い蔦が伸びていて瘴気を放っていた。
フラフラと歩く魔物たちが何処かへ向かって歩いているけど、多分塞いだ蓋方面だろうね。
アンデッド化に適応出来ず、瘴気にやられて死んだと思われる魔物も姿も散見される。
ん?
今、何かがチラついたような?
そちらへ意識を向けてみると、一匹の蝶が舞っていた。
その羽は黒く、青や緑の光を纏いヒラヒラと飛ぶ蝶、それは一匹の魔物の死体に舞い降りるとそのまま魔物の死体へと吸い込まれて行く。
するとそれまで身じろぎ一つしなかった魔物がビックッと身を震わせ、生まれたての四足獣の様に危なっかしくも立ち上がる。
そして覚束ない足取りで他の魔物たち同様に何処かへ、多分蓋の方へと向かい出す。
歩くうちに危なっかしさは無くなり、所々腐ってはいるものの、ごく普通の足取りで歩いていた。
これは…
私は小妖精ゴーレムを蔦や木々に近付けて見ると、それはあった。
暗いせいで枯れ葉か何かだと思っていた木々にぶら下がる物、それは蛹だった。
これは不味い気がする!
ゴーレムを出来るだけ早く飛ばしてみると、それほど数は多くない物の、あちこちの木木に蛹がぶら下がったり引っ付いたりしている。
取り敢えず小妖精に蛹を一つ握らせて見ると、普通にブチッと潰すことが出来た。
いつもの触れない幻の様な蝶とは違うのかも知れないね。
魔法を使えないのがもどかしいけど、潰せるだけ潰してから一つだけそっと摘ませて小妖精ごと転移で回収しする。
私の表情に出ていたのか、その場に居た面々が心配そうにしている中、ユグヌスクさんだけは小妖精の手の中にある蛹へ冷たい視線を向けた。
「これを迷宮内で?」
いつもの飄々とした雰囲気の欠片もないユグヌスクさんの声に僅かな悪寒を感じつつ、私は頷き説明した。
瘴気を放つ黒い蔦、アンデッド化した魔物たち、黒い蝶など出来るだけ目撃した順番に話していく。
「そうなんだね。
呪王め、我らが暗黙の了解を根こそぎ破った訳か」
ユグヌスクさんだけじゃなくて、三姉妹もいつもと違う冷たい笑顔を浮かべている。
「アレは狩られるべき対象となったです」
「そうだの。許されざる大罪、禁忌を犯したようじゃ」
「ん?なんだそれは?」
どうやらルーナだけは3人の真似をして冷笑を浮かべていたらしい。
「魔王は各種族が進化した究極体の一種なのだがの」
「その数は少ないのですよ」
「だからこそ、封印まではギリギリ責められる程度で済むんだけどね?他の魔王が干渉することで存在を大きく歪めたり、消滅させる事だけは許されていないのさ」
「あー、そーいやあったな、そんな感じのやつ」
ノクス、ステラ、ユグヌスクさんと順に説明してくれたので、ルーナは何となく思い出したようだ。
ユグヌスクさん、目はまだ怖いけど口調はいつも通りに戻ってて良かった。
「つまり、呪王は亜人王に許されないレベルで干渉をしたと?」
私の問に四人ともに深く頷いた。
と、私達の目の前で、蛹がモゾモゾと動き出した。
自然界のそれとは異なり、背に当たる部分がするすると開くとそこからフワフワと蝶が飛び出してくる。
〈サラ…サラストリー、私を…殺して〉
そんな意思を伝えた直後、蝶は白い炎を拭き上げて燃え尽きた。
まぁ、私が光と火魔法を掛け合わせて燃やしたんだけど。
そのまま魔物の死体をアンデッド化させたように、床なり誰かに触れて侵食する可能性がゼロじゃないからね。
一瞬で焼け落ちる黒い蝶を見た瞬間、ずっと引っ掛かっていた何かが音もなく溶けて私の中で蘇って行くのが分かった。
私が何故、魔王を封印できたのか?
何故真竜たちを眷属とする事が出来たのか?
東大陸から西大陸へ移動する数年の間、一体何があったのか?
多分その全てを思い出したのだ。
「敵が何者であるか分かったのだな?」
それまで口を開かなったラルが両腕を胸の前で組んだまま言う姿は、やはり元将軍なだけあって似合っている。
てか私の眷属、それも15歳くらいなはずなのに、何故か彼の方が威厳がある不思議。
「主、どうする?皆を呼ぶ?」
そう尋ねるアルシェに、私は静かに目を向けて声をかけた。
「始まりの吐息アルジュナーヴァ」
「ん?」
久々に真名を呼ばれたアルシェが首を傾げて私を見つめる。
「お前は何者?私の眷属であるアルジュナーヴァは風の精霊王にして風竜。
風雷の精霊王などではなかったはずだけど?」
私のその問にアルシェはニヤリと口元を歪めると、音も立てずに後ろへと下がった。
「いつ、気付いた?」
「いやだって、他の子たちは各属性や一つの季節そのものを象徴しているのに、あなただけが2つなんておかしいし?
本物のアルジュナーヴァを返しなさい?
竜王ヴィンドゥナガ」
「ふっ、フハハハッ!流石じゃな!良くぞ気付いた我が子孫よ!
ワシが認めただけの事はある。
イヤさもうこれはほぼ孫じゃな!」
子孫は分かるけどほぼ孫って何?
そんな疑問が私の脳裏をよぎった瞬間、小さな少女の体が稲光を放ちふらりと床に倒れたので、私は慌ててその身を支える。
稲妻は空中で一つの塊となって人に似た形を取り、床にスッと降り立った。
そこに立つのは皮の鎧を身に着けた、竜眼、竜の角、白金色の鱗に皮膜のある翼を背負った中年にも見える私が天と竜の血脈を発動させた姿にそっくりな(実際にはこっちがオリジナルなんだけど)老人が立っていた。
「面倒なのが出て来たです」
ボソッとステラがそうつぶやく声が、妙にはっきりと私の耳へと届いたのだった。
書き溜め分がなくなったので、次話より少し更新頻度が下がります。
ご了承下さい。
※所々誤字脱字等あったので修正しました。




