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その21 ユグヌスク

その21


食堂へ到着すると、大きなテーブルの向こう側に一人のエルフ男性が座っていた。


茶色い髪と緑の瞳、抜ける様に白い肌と先の尖った長い耳。


年の頃は人間で言えば二十代前半にも見えるが、落ち着いたその雰囲気がもっと年上である事を感じさせた。


その昔何かをやらかしたそうだけど、今見た感じでは何かを仕出かすようには思えなかった。


「やぁ、マーレンの冒険者仲間たちだね?

僕はマーレンの大叔父、ユグヌスクさ。

君たちを歓迎するよ。

自分の家だと思ってゆっくり寛いでくれたまえ」


「えっ?」


いや、今なんと?


名前を聞いて一瞬硬直したけど、同名な人なんてそれなりに居るしね。


ここはちゃんと挨拶せねば。


「おはようございます、そしてはじめまして。

私はサラと申します。

こちらは弟のラルです。

マーレンさんには大変お世話になっております。

また逗留の許可をいただきありがとうございます」 


と礼をした。


ラルはガチガチに固まっていたけど、


「ラル、です」


とだけはどうにか言って、私の隣で頭を下げていた。


「サラさん、あぁ、サラストリーさんか。

天人族の人なんだね。

それにそちらのラル君はオークジェネラルなのか。

大丈夫大丈夫。

そんなに緊張する必要はないよ?」


思わず私は呆けてしまい、ラルは極度の緊張で石のように固まってしまった。


私たちの近くにいたマーレンさんは、私達とユグヌスクのやり取りを特に気にした様子もなく、ワゴンに乗せた軽食やお茶やコーヒーのポットをテーブルに並べている。


「おじさん、魔眼で勝手に人を視るのは失礼ですよ?」


「あぁ、そうか。

二人とも勝手に視てすまない。

どうも昔からの癖でね。

さぁ、朝食を食べようじゃないか」


とてもフレンドリーなユグヌスクさんと何も気にしていなさそうなマーレンさんの勢いに乗る形で、私とラルは席に着いた。


マーレンさんがオムレツやサラダなんかをみんなの前に配り、お茶とコーヒー、どちらが良いのか聞いたりしていて、なんか彼だけめっちゃいつも通りな感じだった。


「僕は普段、南の大陸にいてね。

色々な研究をして過ごしているのだけど、たまには人里恋しくなってね、年に一度か二度、たまに数年に一度になるけど、まぁそんな感じでここに来るんだよ」


そう語るユグヌスクさん。


魔眼だけなら様々な種類が存在していて持っている人はそこそこいるけど、南の大陸在住で西大陸にほいほい帰ってこれるとか、もう完璧に魔王の一体、樹王ユグヌスクじゃん。


そりゃアニスがエルフの里にいられなくもなるよね。


そう言えばアニスが以前何か言ってた様な気もするけど、まぁいいか。


「あの、マーレンさんは私やラルの事を聞いても驚かないんですか?」


「いや、ラルさんがオークジェネラルなのは少し驚きましたよ?

サラさんがサラストリーさんなのでは?とは両親に幼い頃から絵本や物語の代わりに色々聞いていたのであり得るなと思いましたが」


「はぁ、そんなものですか?」


いや、てかあの二人は彼に一体何を話したのだろう?


「えぇ、そんなものですよ。

見た目は人間ですけど変身できる種族なのは知っていましたし、凄くイメージ通りの方でしたから。

ラルさんに関してもそうですねぇ、大叔父が魔王なんてしてると、まぁそう言うこともあるかな?と思えちゃいますよね」


今までの印象とは違ってめっちゃアバウトな人だな。


「マーレンは人付き合いに関してはアニスリースよりもアムリアさんに似ているからね。

僕が魔王だと知っても全然変わらず接してくれるしね」


ユグヌスクの説明で何となく納得出来た。


見た目はエルフ寄りなのでアニスのイメージに引っ張られやすいけど、アムリアに似たならあり得るね。


アムリアは無鉄砲だし基本的には大雑把だけど、人情味は人一倍あった。


仲間として受け入れたなら、魔王だろうが気にしない位には懐が深いと言うか、あれ?やっぱ大雑把だな。


「なるほど。納得です」


「さぁ、折角の食事が冷めてしまうよ。

話は食べながらでもしようじゃないか」


ユグヌスクさんにそう言われて、私たちはご飯を食べることにした。


ラルも多少ぎこちなかったけど、最初に比べたらかなりマシに見えた。


あ、そうだ!目の前には魔王がいる、それも魔王の種を作り出した魔王がだ。


敵対する事になっちゃうとまず勝てないけど、他にも知りたい事があるし、今聞かないと二度と機会が来ないかも知れない。


そう思うと居ても立っても居られず、私は魔王ユグヌスクへ気になっていた事を尋ねる事にした。


「いくつか伺ってもよろしいですか?

実は最近、ディーアの町がゴブリンの群れに襲われました。

群れの長のゴブリンロードは魔王様に力を授かったと話し、討伐された際には魔王の種と言う玉を残しました。

私の鑑定した結果、ユグヌスクさん、貴方が作った物だと判明しましたが何かご存知ですか?」


私の問を静かに聞いていたユグヌスクさんは、コーヒーを一口飲んでからゆっくりと口を開いた。


「そんな事があったのか。

あれを鑑定出来るなんてなかなか凄いことだよ?

魔王の種はね、僕が命を掛けて作った作品なんだけど、本当にあと一歩で死ぬ所だったんだよ。

それで弱っていた時に他の魔王の手勢に半分は奪われてしまってね。

今は6つしか僕の手元にはないんだ。

だからゴブリンロードが持っていたのは盗まれた物の一つだろうね」


「返せと仰られても返却は出来ませんが」


「ん?あぁ、それは構わないよ。

ディーアの冒険者ギルドが動いたのならアニスリース辺りが関わっているだろう?

返せなんて言ったら面倒なのは目に見えているからね。

僕は別段人種たちと争いたい訳じゃないし、魔王たちも大半はそうだと思うよ?」


表情や仕草からも嘘の気配は一切感じなかった。


「そうですか。

でしたらゴブリンに魔王の種を与えたものに何か心当たりはありませんか?」


「んー、流石に分からないなぁ。

何かヒントがあれば良いんだけどね?」


ヒントか…これがヒントになるかは分からないけど、一番聞きたかった事だ。


今聞くしかないよね?!


「ヒントになるかは分かりませんが、実はディーアの町近くの魔封じの森に、封じられていた魔王のうちの一体が最近開放されたようなのです。

蝶に関わる魔王のようでしたが、心当たりはありますか?」


私の話を聞いたユグヌスクさんは、何か心当たりがある様で、うんうんと大きく頷いた。


「蝶か、そうだね。

彼女ならあり得るね。 

盗まれたのは彼女が封印される前だったし、彼女は人種と敵対する存在だからね」


「彼女、という事は女性の魔王なのですか?」


「うん、そうだよ。

名前は僕らの業界内の縛りがあって教えられないけどね?

彼女は魔王化した時自らを亜人王と名乗っていたし、そう考えるとゴブリンに種を与えたのも納得できるね」


「亜人王…」


全く思い出せない。


それでも何故か知っている気がして、私はその二つ名を呟いていた。


『私を殺して』


あの明晰夢で聞いた声ならぬ声が私の頭の中を過る。


あの声の主が亜人王?


私が封印したかも知れない魔王なの?


そんな疑問が吹き飛ぶ勢いで、頭の中に天の声が響き渡った。


〈解放条件が達成された為、封印中のギフト、【マップ】が開放されました。


これによりベースレベルが30上がりました。


ベースレベルの上昇によりHP、MPが全回復しました。


能力値ポイント、スキルポイントが30ずつ加算されました。


封印スキルより剣術5、竜語5、特殊戦闘:天人剣5が部分開放されました。


熟練度上昇により、剛力4、剛健4、俊敏3、汎用武器戦闘6、属性魔法水8、風7、地6、光5、収納魔法7、魔力感知7、魔力操作7、斥候術6、召喚魔法6、眷属魔法3へスキルレベルが上がりました〉


前回と言いこれは一体何なのか?


そもそも私、戦闘で全然レベルが上がってないんですけど?!


スキルレベルの上昇やスキル習得も、ポイント消費した時を除くと開放の時しか起こっていない。


そんな事を考えていると、ユグヌスクさんが私を見てこう言った。


「おやおや?

サラさん、存在の乱れを感じるけど何か起きたのかな?

もし良ければ魔眼で確認しても良いかな?」


魔王である彼の魔眼なら、多少なりとも私自身の事が分かるかも知れない。


そう思った私は、


「はい、お願いします」 


と告げていた。


「任せてくれ。

僕の持つ四宝の魔眼の一つ、真実の魔眼ならこの世の大抵の事は見通せるからね!」


ユグヌスクさんの目に膨大な魔力が宿るのをスキルなしでも感じられる。


魔王の種などその魔力の前には無いに等しく、ドラゴンとミジンコくらいの差があった。


魔王ヤバすぎ。


見られてもいないはずのラルがブルブルと震えているのが見えてちょっとかわいいとまた思ってしまった。


「あー、ふむふむ。

ええっ?

なるほどー。

そういう事か。

こんなの初めて見たよ。

おぉ、どう説明しようか?

んーーーそうか!」


私を見つめて一人で何やら騒いでいたユグヌスクさんは、何か閃いたらしく魔力を抑えると、光魔法でステータスウィンドウそっくりの光の板を2枚作り出した。


「物凄く雑に説明するよ?

まずは左右のウィンドウを見比べてみて」


と言われ、私もマーレンさんもラルも何故かみんなで覗き込む。


右のウィンドウには、

名前 サラ

レベル100

剣術10

ギフト 魔眼 

累積経験値10010

次回レベルアップ必要経験値15000


と書いてあった。


そして左のウィンドウには、


名前 サラ

レベル1(100)

剣術1(10)

累積経験値10(10010)

(次回レベルアップ必要経験値15000)

と書いてあった。


「右のサラさんが本来のサラさん、左のサラさんが少し前のサラさん。

そして…」


二つのウィンドウの間にもう一枚ウィンドウが現れた。


名前 サラ

レベル40(100)

剣術4(10)

累積経験値10(10010)

(次回レベルアップ必要経験値15000)


「これが今のサラさんだね」


「全然分かりません」


「解せぬ」


「ニュアンスだけはなんとなく?」


ユグヌスクさんの説明に私、ラル、マーレンさんがそれぞれ呟いた。


「つまりね、本来のサラさんは右の100レベルの状態なんだよ。

でも何かがきっかけでレベルダウンしてしまった。

それが左の状態だね」


あー、それは分かる。


「そこは分かりました。

でもその三枚目、真ん中のウィンドウや括弧の意味が分からなくて」


「つまりね、君はレベル1だけど実はレベル100と言う中途半端な存在になっていたんだよ。

その見えない中途半端な状態が括弧だね。

だから本来なら経験値10を得れば2レベルに上がれるはずなのにレベルアップしない。

なぜなら本来次のレベルに必要な経験値は15000だからさ。

そして真ん中のウィンドウ、これが先程起きた現象だね」


「あ、過去の力を取り戻している?」


「うん、そういう事。

経験値は少しずつ溜まっているけど、本来のレベルが上がるほどじゃないから上がらない。

でも何かがきっかけになって、過去の力が少しずつ開放されている。

それが今だね」


なるほど。


解放条件は分からないけど、そんな状況に置かれているのは理解できた。


「それとスキルに関しては元々の解放に加えて、ギフト【千里の道を翔る者】の影響で熟練度が上がりやすいし貯まっているね。

でも通常とは違う状態だから、正常ならすぐに反映されるはずなのに、何かきっかけがないと反映されないんだね」


「つまりレベルダウンはしているけど、開放によって戻って来る。

それにプラスして元々のレベル分の経験値を得られればレベルは上がる。

スキルは普通通りに成長出来るだけの熟練度があるけど、何かが邪魔していて解放のときしか上がらない?

あとは過去使えていたスキルも一部は解放されて戻ってきている?」


スキルポイントは使えたから、これは別物として考えておこう。


「そうだね。

ほら、魔道具も壊れてうまく作動しない事があるだろ?

でも叩いたら使える事があるよね?

あんな感じだよ」


「私のスキルレベルを調整する何かが壊れてて、解放の時だけちょっと治って機能するって事ですか」


「うん、そうなるね。

あ、そうそう、ベースレベルもちゃんと【千里の道を翔る者】は影響してるよ?

ただ本来のレベルが高いから経験値が足りないだけでね」


うわ、面倒臭え。


自分の状態がかなりややこしい事になっているのは分かった。


「封じられたサラ様が解放されると禍津妃、災厄の天女となられるのかっ」


ラルが何か言ってるけど聞き流し、


「解放条件は分かりませんよね?」


と聞いてみたけど、


「うん、流石にそこまでは分からなかったよ」


と言う事だった。


「あぁ、それと聞かれる前に言っておくけど、亜人王の居場所や魔王の種の在り方は分からないからね?」


「はい、分かりました。

本当にありがとうございました」


短時間でこれだけの事が分かったのだ。


物凄く有り難い。


そう、滅茶苦茶有り難いけど、冒険者ギルドにどう説明しよう?と思いつつマーレンさんの顔を見て、アニスに任せればいっかと一人納得した私だった。


そりゃアニスがエルフの里にいられなくもなるよね。



「あの、マーレンさんは私やラルの事を聞いても驚かないんですか?」


の間に


そう言えばアニスが以前何か言ってた様な気もするけど、まぁいいか。


を加筆しました。

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