020 銀髪美少女とじゃれ合う
あれから警察が来て、取り調べを受けたりしたがまぁ……何なく終わることができた。
結局犯行の動機は金目当てだ。時々貴族目当ての誘拐はあるのでたまたまフィアナが狙われてしまったのだろう。
これからは学校が始まるし、学校は貴族街の中にあるので大丈夫のはずだ。
俺もできる限りは気を配るつもりではいるし。
しかしこれだけのことがあったのに侯爵家はフィアナを引き取ろうとしなかった。
普通だったら貴族街から出さないように取り計らうかと思ったけど……。
ま、フィアナを守ると言った以上、俺の手元からいなくならないならそれでいい。
ただな。
「どうしたんですかレイジ」
「ちょ、ちょっと引っ付きすぎじゃないか」
「えぇ、だって守ってもらうには側にいないとダメですし」
「家の中まではいらんだろ」
フィアナがベタベタと引っ付いてくるようになった。
俺も悪かったと思う。
二人にはとても言えないが、2人が誘拐された時にテンションがめちゃくちゃ上がっていたんだ。
フィアナとさくらを助け出し、親父の真似事が出来て気持ちが高揚してたんだろう。
震えるフィアナの姿を見て、守ってあげたいと気持ちが膨れあがってしまう。
俺は昔から大切な人を守ってあげたいという欲望を持っていた。
鍛え上げた力を使って……誰かの盾となる。そんな騎士道的なシチュエーションを夢みて来たんだ。
だからつい……フィアナを守るなんて口走ってしまった。
うわぁ、恥ずかしい! ビデオとかで撮られて見せられたら恥ずかしくて死んでいたかもしれん。
今までガキの頃から親父にいろいろ仕込まれて、同世代では負けない力を手に入れた。あらゆる格闘術の道場に通っても負ける気はしなかったし、例のたまたま立ち寄った銀行強盗の際も余裕で制圧できるんじゃね? と思ったら本当に余裕で制圧できてしまった。
同世代はまったく相手にならないし、逆に親父世代の奴らにはまったく歯が立たない。
俺は自分の力が適切に使える所を望んだ。
そんな矢先のフィアナを守ってくれという親父の願いだった。
単なる護衛の仕事だと思っていたら許婚とかで……今まで俺が鍛えたことのない恋愛の分野で苦戦することになってしまうのは予想外だった。
フィアナは休みの間ずっと俺の横にいてスマホをいじっている。
無意識か腕を掴んですりすりしたり……正直気が休まらない。
胸とか当たってるんですが……。俺は性欲は人並みにあるので止めろという指摘はしない。
でも弱みを見せるのは嫌だから照れ顔は見せたくない。
平常心で話題を変えよう。
「なぁフィアナ」
「はい? なんですか」
「あんた、日本語の勉強とスマホいじるのとメシを食う以外で趣味はないのか?」
フィアナが楽しそうにスマホの画面を眺めてる。
おそらくアニメを見るか、ラノベを見て楽しんでいるんだろう。
「ないです」
はっきり言いやがった。
「なぁ、フィアナ」
「はい」
「昔、俺と会ったことがあるって言ってたな。ちょろっと言ったかもしれないが俺はガキの頃の記憶が曖昧でな。フィアナと会った記憶がまったくない。多分……あんたが俺に好意的なのはその時の思い出が強いんだろ」
「……きっかけはそうですね」
フィアナはスマホを置いて、部屋で座る俺の隣に位置取る。
「大きな事件に巻き込まれたのをマッキーに救ってもらって……、心が消耗した私を立ち直してくれたのがレイジでした」
「……全然覚えてないな」
「いろんな遊びを教えてくれて、お話してくれて、お辞儀も教えてくれたんですよ。本当に本当に楽しかった。……でもある日突然いなくなったんです」
「いなくなった?」
「マッキーからレイジは遠い所へ行った。……でもいつか絶対再会できるから女を磨いとけって言われました」
その頃に俺は日本にいたんだろうか。
この感じだとフィアナも俺がなぜサルヴェリアから離れて、日本に住むようになったか知らない。結局、親父に聞くしかないんだろうな。
だが。
「そうなると……あんたが好意に思ってるのは昔の俺だってことになる。今の俺とは」
「違いますよ」
フィアナはぐいっと顔を寄せた。
「再会した時のぐっと大人びた姿。魅力的な黒髪……、トレーニングしている姿……、そしてこの前助けて下さった時に抱きしめたくれたこと。私、レイジと一緒にいるとドキドキします」
「ばっ」
顔が熱くなるようだった、
そんなこと言われるのは初めてだったし……。
なぜかとても嬉しかった。
「世界一の女が俺なんかと良いのかよ」
「私にとっての世界一はあなたですから」
「同世代では負け知らずだが別に世界一ではないぞ」
「でも凄かったじゃないですか。男のおでこにとう! って拳を突き付けたら気を失ってました!」
「あんなの誰でもできるよ。親父だったら当てずに気を失わせる」
「レイジはマッキーが目標なんですか?」
「そーだな。でも俺はあんたと違って世界一にはなれそうにないな」
「……私はそんな言うほど世界一なんかじゃ」
「でもメディアは世界中の美女達よりもフィアナを選んだ。選ばれるってことは世界一ってことなんだよ」
「そうですか」
フィアナは立ち上がる。
向こうへ行くのかと思ったら、急に振り返り俺の真正面に来た。
「じゃあ……世界一の女を守り切ったら……レイジは世界一の男になれますね」
「は? いや……そんなの」
「世界一の女の私が選びます。レイジが世界最強だって」
曇りのない碧の瞳で言われるとその通りな気がしてきた。
ほんとバカなことを……と思ったけど、高校3年間フィアナを守ることができたら……そう思ってもいいかもしれない。
「それだけじゃありません!」
フィアナはぐいっと顔を近づけてくる。
そのあまりに魅力的な顔立ちを直視できず、目をそらしてしまう。
「レイジが私を好きになるようにしてみせます」
「え」
「名付けて! すきすきビーーーム!」
フィアナは手を翳して、甘ったるい声で呟いた。
あまりバカっぽい振る舞いに笑ってしまう。
「なんだよ、それ」
「レイジは許婚に対してどうでもいいって思ってるのでそこも是正したいと思います」
「おいおい、それじゃまるであんたが俺のことを好きみたいじゃないか」
「好きですよ」
「……へ?」
「初めてお会いした時に好きになって、再会してからその気持ちが再燃して、助けてもらったあの時から明確に自覚しました」
「……」
「……何かちょっと恥ずかしくなってきました」
フィアナは顔を真っ赤にさせて振り返ってしまう。
耳まで赤くして……大それた発言をしたことを自覚したのか。
「と、とにかくレイジが私のことを好きになればいいんです!」
再びフィアナは俺の横で座る。
「これから毎日すきすきビームを撃ってあげますから!」
「それだけじゃ足りないな」
「ふぇっ」
少しだけ意地悪をしたくなる。
「俺が明日から3年間フィアナを守り続けるんだ。フィアナは俺に何してくれる?」
「えー!」
見返りを求めるつもりもないし、守るのは勝手にやってることだ。
本気で思ってることじゃない。
でも……こう言ったらフィアナが何をしてくれるのか。そこに興味があった。
「じゃ、じゃあ……1日1回……何でも言うことききます?」
何でも言うことを……。
じゃあ……例えば、体に触れさせてもらうとか。
手入れのされた銀の髪を手ぐしで触れ、そのまま耳を通ってふんわりとした頬に手を寄せさせてもらう。
もしくは……。
目線がそのままフィアナの胸元へ行く。
ゆるいシャツの隙間から豊かに育った谷間が見えてくる。
触れたくなる……。
「だめだ」
俺は手を引っ込めた。
「やっぱあんたが決めてくれ」
どう考えたってエロいことにしかならない。
フィアナは腕を組んでうーんと考える。どんな仕草も可愛らしいのだから世界一の女ってやつはズルイ。
「分かりました。その日その日で考えます!」
「ああ、それでいい」
「日本のゲームでいうログインボーナスってやつですね!」
「なんか違うような気がするが……それでいいや」
じゃあ明日から何が来るか楽しみにするとするか。
さて……そろそろいい時間だし、風呂でも入って、そんなことを考えているとフィアナが俺の腕を掴む。
「フィアナ?」
「す、スタートアップボーナスです!」
それに気付いたのはフィアナの吐息が頬にかかった時だった。
そのすぐ後に頬に温かく柔らかな感触があった時、ぼんやりしていた脳内が覚醒していく。
「お、おま!」
俺は慌てて、フィアナから離れ……触れられた頬に手を寄せる。
見上げると立ち上がったフィアナが唇を押さえていた。
やっぱりそれだったのか……それを俺の頬に押しつけたのか。
「すきすきビーム」
か細い声でフィアナは呟く。
「これでも好きになってくれませんか」
「うぐっ」
そんな上目遣いはずるい。
あんたがそれをやったらダメだろ!
フィアナの頬がまた紅潮していく。
「ご、ごめんなさい。何か私変かも……。きょ、今日は寝ます! 明日からもお願いします!」
居たたまれなくなったかフィアナは照れたまま俺の部屋から飛び出していってしまった。
フィアナが去った跡を呆然とみてしまう……。
「あんなビームに毎日受けたら……敵わねぇよ」
世界一の女に敗北する日はそう遠くないかもしれない。
作者はあざとい子が大好きなのですきすきビームとかやってしまいます。
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