018 (フィアナ視点)世界最強の防犯システム⑤
まさかこんなことになるなんて。
私とさくらは車に乗せられて……どこかへ送られていく。
きっかけはふいに話かけてきた子供の言葉だった。
身なりの整った子供に『黒髪の男の人が僕を助けようとして悪い人に囲まれてる、すぐにきて欲しい』言われたことだ。
あの時はレイジが心配で何も考えず駆けだしたけど……罠だと気付いた時にはガラの悪い2人の男に銃をつきつけられていた。
無力な私達は抵抗せず、車に乗せられてる。
「うぅ……」
隣で座る、さくらは恐怖で震えている。
日本ではこういったことはほぼないと聞くけど、サルヴェリアでは貧民層による誘拐事件がごくたまに見られる。
スマホとバッグは奪われている。さっき着信が鳴ったから恐らくレイジが気付いて連絡してくれたに違いない。
後部座席に私とさくらが座らされているが、逃げられないようにお互いの手と足に錠をつけられて、身動きが取れない。
この誘拐の目的を聞かなければ。
「ちょっといいですか」
「あん? 大人しくしてりゃ危害は加えないからよぉ」
「あなた方は義母様の関係の方ですか」
「あ? なんだそりゃ」
演技をしているような感じではない。やはりそうか。
私を嫌うオルグレイス夫人の手先の者ではなさそうだ。
まぁあの人だったらプロを雇うだろうし、もっとスマートに手を降すだろう。
「あなた達の目的は私でしょう。この子は降ろしてあげてくれませんか。一般家庭の子ですし、人質は私だけで十分でしょう」
「それはできねぇな。一般だろうが外国人がこの国に来ている以上上級平民様なんだろ? 少しでも金になるなら解放はできん」
無常な運転手の男の言葉に愕然とする。
中間層も貧民層もサルヴェリアでは同じ平民というくくりとなる。
だけどその貧富の差は山のように高い。
今の時代、貴族よりも裕福な平民も増えている。シジョウ家なんて筆頭だろう。
「その黒髪の子も可愛らしい顔してんじゃねぇか。俺は結構好みだぜ」
「ひっ」
「この子には手を出さないで! 私がお相手しますから」
「フィアナ……ちゃん」
さくらは私が守らないと。
私にとって初めてできた大事な異国の友達。
レイジと出会ったタイミングで仲良くなれたことはきっと偶然なんかじゃない。
さくらとはずっと仲良くなりたい。いつかの日本で暮らす夢のためにも……。
この子との学園生活を楽しみたいの。絶対に守りたい。
「こんなことをしても……無駄ですよ。貴族に楯突けばどうなるかなんて分かっているでしょう」
「うるせぇ! こっちはその貴族サマの横暴で苦しい暮らししてんだよ! あんたには悪いが……金になることを全てやってもらうぜ。……まだ子供だがそれだけ顔が良けりゃ何十人も相手できんだろ」
「くっ……」
庶子とはいえ侯爵令嬢の私が危機に陥っていると分かれば警察は動き、確実に助けが来る。
でもそれがすぐとは限らない。さくらに危害が加えられる前に何とかしないと。
私はどうなってもいい……。でもさくらだけは無傷で助けたい。
「怖い……怖いよ」
日本語で何かを呟くさくらは極限まで恐怖している。
日本語の話せない私には何て言っているか分からない。どうやったら励ましられるのか。
さくらの恐怖を取り除いてあげたい。
「さくら」
私はさくらの手を握った。
「……フィアナちゃん?」
「さくら……さくら……さくら」
大丈夫、助けが来る、私があなたを守ると言ってあげたいけど、サルヴェリア語では通じない。
だけどあなたの名前は分かるから……唯一通じる言葉で私は励ましたい。
「フィアナちゃん……フィアナちゃん!」
さくらの顔が少しだけ落ち着いてくる。
良かった……。少しでも恐怖が収まれば。
「へ、健気なもんだねぇ」
「いいじゃねぇか。2人励まし合ってる所をやりまくれば金になるぜ」
「ったくゲスなことを考えて……ふん」
「どうした?」
「いや、さっきからずっとサイドミラーから自転車が走っててよ」
運転手と助手席の男が私達から目を反らし、車のサイドミラーを見始めた。
「ロードバイクだろ。俺達には過ぎたおもちゃ」
「いや……普通のマウンテンバイクだ」
「は? 一般道で70km/hは出てんだぞ!」
私はその声を聞いて側道の方に視線を向けた。
さくらと錠で繋がれているから無理には体を寄せられないけど精一杯体を寄せる。
後部座席の窓からはぐんぐんと近づいてくる自転車の姿があった。
乗っているのは……。
「あ……」
レイジだ。猛スピードでペダルを動かしてぐんぐん前へ出て行く。
「次の交差点で曲がれ」
「おう」
車が急に右折し、私達は車の中で投げ出される。
「ちっ、あの自転車やっぱこの車を狙ってんぞ!」
「ありえねぇ。どんなスピードしてやがる!」
レイジだ……レイジが助けに来てくれた。
私はさくらの手を握る。
「レイジ! レイジ!」
「え、零児くんがおるの! え、どうやって!」
「おい、もっと飛ばせ!」
「これ以上は事故っちまうよ!」
レイジが車の側方まで追いついてこちらをのぞき込んだ
車のガラス越しにレイジの顔が見える。
「レイジィ!」
「でたらめなことを!」
レイジの自転車がこの車の横を通過すると同時に 助手席の男がフロントドアの窓を下げる。
手には銃を持っている。嫌な予感がした。
「レイジ危ない!」
「死ねぇっ!」
銃の爆音が何発か放たれる。
距離があるので当たってはないと思うけど……。
「へっ、自転車に当たったみてぇだな」
「そんな……!」
レイジの自転車がガタガタを揺れ始める。
そのままバランスが崩れて倒れてしまった。
時速7、80km/hのスピードで倒れてしまったら大けがは免れない。
「レイジ……」
無事でいて欲しい……。お願い。
「これで何とかなりそうか!」
「いや、自転車はあるのに乗ってたガキがいねぇ」
その時、車の屋根の上にドンと音がした。
まるで大きなものが落ちてきたようだった。
レイジが壊れた自転車から飛んで、車の屋根に降り立ったんだ。
「嘘だろ!?」
「何者だよ!」
私のいる後部座席側の窓に手がにょきりと現れた。
そのまま車のガラスが素手で割られる。
「悪い、遅くなった」
そのまま顔をひょこりと突き出し、レイジはまるで助けに来るのが当たり前のような顔で微笑んだ。
Q:自転車で車に追いつけるの?
A:幽遊白書で見た
次回クライマックスです。




