【09:いつか死ぬべき生命の灯火】
「おいおい、坊ちゃんどこいくんだァ?」
どうせこんなことだろうと、思っていました!俺大正解!やったねたえちゃん!ちなみに家族は増えないよ!ごめんね!
というか俺、この前までたえちゃんがR18系統のマンガの子だって知らなかったんだよね。なるほど残酷!ずっとホラゲの主人公だと思ってました!たえちゃんごめんね!俺が家族になってあげるよ!
「おぃ!何無視してやガンだよ!」
あっ、こいつの問題すっかり忘れてた。戦うには実力が足りてないし、やったら殺しちゃうし、やらないと舎弟にされそうだしこういう場合ってみんなどうしてんの?
このまま考えに浸っていたらまた怒られそうだしほんとなんでこっちが気を使わないといけないのか全然分からないんだけど、ちょっとよくわかんなすぎてどうすればいいのか分からなくなってきた。
いや、本気でどうしたらいいんだ。検索……絶対電波繋がらないしこの状態で不思議なものを出した場合、回収されてしまう可能性がある。
下から行くか上から行くか。
殺してしまうか。
三択だ!さぁどうするよ俺!
考えて考えて考えまくれ!
とかなんとか考えてる間に目の前のやつ怒ってるじゃんかよー。怒らせたの誰だよー、俺だよー。
「いえいえ、なぜ話しかけられたのか。知り合いだったのかと試行錯誤していたところでして……ところであなたはどなたですかね?」
よしっ、これでどうだ!
これが俺の考えた中で一番良い考えだ。
さぁ!どう答える!
殴ってくるか?!蹴ってくるか?!罵倒するか?!
「ヤケに丁寧ダな。不思議なやつダ。」
なるほどなるほど。そう来ましたか。
予想外の展開に驚いたぞ。
こいつもちゃんと話し合えばわかる人種だったのか。
上機嫌だからかもしれないけどドゥーエでは色々色々あったしあの時はきっと不機嫌だったのだろう。
というかめっちゃ汗ダラダラ出てない?
ビールばっかり飲んでるせいで水分不足になってんじゃないの?ビール飲まないで水飲めよ。
いや、だから目の前のビールを飲むな!ぷはーっじゃねぇよ!
お母さん言うな!俺は母さんじゃねぇ!
そんなことを目の前のやつを見ながら思う。
俺は別にこいつの母さんをしたいわけじゃない。目の前で倒れたらまるで俺がなにか魔術使って眠らせたみたいになるじゃんか。面倒ごとは嫌いなんだ。
「オまえ、ホンっとに不思議なやつダな!どうだいっぱいやらないか?俺の奢りだ。」
「残念ながら俺はアルコールが苦手でな。気持ちだけで大丈夫だ。」
「ぐははははは!俺にタメを使うやつか、面白いな!特別にタメを許可してやろう!光栄に思えよ。」
どうせならメイド双子にタメを使ってもらえる権利が欲しかったな。こんな自称Aにタメ使えても誰得だよって感じだし。
……周りが羨ましそうな目で見ていることからタメを使えるというのにはなにか大きな事柄が発生するのだろうか。
取り巻きたちはこっちをすごい目で睨みつけてくる。
銀髪ボブはなんか驚いているようだ。大丈夫だ、俺も驚いているから。こんなに人間なことしていると思ってなかったから。
悪虐非道の王くらいに思っていたから俺もなかなかに驚いているよ。本当に。
「光栄と思って下さる者にその権利を与えたらどうですかね?あくまでも俺からの提案だけどな。」
「はは!そういうところだよ!そういう流されない感じがいいんだ!」
「きっも。」
「なんとでもいえ!」
俺にとっては二回目だけどこいつにとっては会うの初めてのはずだよな?何でそんなにも関わってくるんだ?
もしかして記憶があるとか?何それチョー怖い。
「欲張りなんだよ。従うやつもいればこうやって同じ目線で話すやつも欲しい。全員を従わせてやりたいくせにこうやって本音で語り合える相手が欲しいんダ。矛盾しているダろ?」
「?俺は本音で語った覚えはないが。」
「お前も正直に言うな……。例え話だよ例え話。お前が本音だろうが嘘だろうが本音を語れる相手には違いないんダからそれでいいんダよ。」
不思議なやつだ。圧倒されている。
考えてみるにこいつは強いからみんなが従っているというより強さからの憧れが強いのだろう。
故に本音で話せるやつが羨ましい。
故にタメで話せるやつが羨ましい。
ドゥーエの時の記憶がなければ瞬時に親友と化してたくらいだ。こいつにはそれほど俺に思わせるほどのなにかがある。
不思議なくらいに引き寄せられるカリスマ性。よくよく考えると騎士の格好。強そうな雰囲気。まさしく A。
だが、それ故に反感も同時に買うのだ。同じAやそれ以上のSの奴らはこいつに興味が無いだろう。絶対に。
だがもう少しでAになるBなども当然いるだろう。その者達には反感を買っているに決まっている。
どんなに優しく正しい道を歩ませていたとしても必ずしも失敗し何処かで恨みを買い、殺される。
良くある王道の死にパターンだ。
地位の高いものが地位の低いものに殺されるのはそんなパターンの一つにしか過ぎないのである。
(こいつもそう言うタイプなんだな。)
地位やランクに捕らわれてそれのみのために近寄ってくる輩は多いのだろう。
だから俺のようにこうやって上から目線でくるやつなど少ないのだろう。
マンガ知識だから本当のことかどうかは分からないがきっとそんなもんだと思う。
○
「はぁ、銀髪ボブのお姉さん。換金お願いします。」
「えっと……お疲れ様です。」
さっきまで俺は一切話さずあいつのことを聞いていた。
他の奴らは帰らせたらしい。仕事のある銀髪ボブは残っている。
名前はレイ・トレストリア。レイと呼べなどドヤ顔で言っていた。
どうやらこの世界での名前は上らしい。
他にもAランクを取ったこと。
Sまで上がることを期待されていること。
嫌いなやつも多くいるがこうやってウザイキャラを演じることで平等にしていること。
「じゃあ、これとこれとこれと……。ちゃんと薬草も持ってきたはずです。多分。」
「多いですね…。」
名前がわからないのでとりあえず出してみる。
一応、森を巡回しながらゲットしたもので高そうなものは一つのみを出す。
後で使えるかもしれないものは多めに残して換金することにした。
「……これは、どうやって手に入れたのですか?」
「え?どれのこと?」
銀髪ボブが赤い玉を出す。
そんなもんあったっけ……?
あー、そう言えばなんか落ちてたから持って来たんだっけ?まだあと100は余裕であったような気がする。
「森で拾いました。」
「……そうですか。あ、ギルドカードを提出して下さい。」
「どうぞ。」
何かあるのだろうか。
もしかしたらとてつもなくいいものなのかもしれない。
いや、逆になんでこんなもの持ってきたんだ。って感じかもしれない。
「では、金貨10枚と銀貨100枚、それから銅貨は2000枚ですかね。それでいいでしょうか?」
「……なんか多くないか?」
「いえ、龍の卵を売るにはこの値段が普通ですよ。」
「龍の卵ってこの赤いののことか?」
そう言って机の上に並べてある赤い玉を指す。
銀髪ボブはこくこくと頷く。
「えー!?なにそれすご……え、それって龍が生まれたりする?」
「上手くやれば生まれたりはしますが、ほとんどの場合は生まれません。」
生まれるのか。すごいな。
これはドラゴンを孵化させる王道パターンなのではないか?
と言ってもドラゴンを孵化させたところで俺が育てられるはずがないし意味もないような気がするが。
(そういえば銀髪ボブは名前言わないしもしかしたらヒロインじゃなかった感じか?まぁ、Aランクとも仲良くなれたし別にいいが。)
言われた通りの貨幣を貰って袋にしまう。
腰につけている茶色い巾着袋で金色のボタンの付いたゴムで縛ってある。
銀色のゴムで結んでいるのは持ち物の方だ。さっき売るものを出したのもこっちの袋。
人がさっきよりもいなくなり、夕刻が近付いてきている。
帰る頃には夜刻になっていることだろう。ここで泊まるということも考えたのだが。
(そろそろ帰らないと不味いな。また星狼に会って逆戻りする可能性がある。もう一度あの豪勢な食事が食べられるのはいいとして、またAランクと友好関係が結べるとは限らない。もしかしたら面倒なことになるかもしれないし。)
そう思いながら森に入っていくのである。
書いてたら一万字近くになっちゃったので短めです。
いい子な悪役と悪い正義が好きなの……分かって。
たえちゃんってホラゲのキャラじゃなかったんだね。全然知らなかった。
もう少しで10話!頑張ろう私!
ー作者の日記ー
レイさんについて本編では書かれていないことを少しだけご紹介します。
レイ・トレストリア、王都の騎士団をやっているAランク。
黄色い髪をしており、銀色の甲冑を着ている。ちなみに甲冑は鉄じゃなくて銀で出来ている。
笑うと可愛いおじ様で、お世話好きなので王都の子供たちとは仲が良い。
苗字は幼い頃に捨てたので、自分の持つ剣から取って苗字にした。
いつか、レイの人生バージョンも書きたいな、と思っていますが、気力があればって感じです。