第二十一話 現在地
酷い
「真白は気にならないの?」
向かい合う形。歩の正面には、ドリアと共に提供されたフレッシュサラダをフォークで食べる真白がいる。
「何が?」
真白は口の端についた千切りのキャベツらしきものを指で唇の間に押し込んだ。
「ここの事。朝の話、真白は途中で抜け出したし、興味ないのかなって」
紙ナプキンで指の腹を拭いつつ、真白はあぁと納得を示した。
「あれは雰囲気がなぁ。話の内容だって胡散臭かったし。魔法だとかなんだとかさ、小さい子供がいう分には可愛いで終わるだろ? でもそれをジイサマやオトナが真面目な顔して言ってんだぜ? 正直引いたってのもある」
「でも魔法に関しては、身を以って体験した」
歩はスプーンを持っている逆の手で己の髪を指した。薄茶色の髪を真白の水色の瞳が追う。紺色の毛先が揺れた。真白はドリアを口に運び、時間をかけて咀嚼した。鉄製のスプーンの柄をジッと見つめている。
「最初は半信半疑だった。とんでもない話してんなってさ、一周回って逆に冷静になる感じ。でも目の前で魔法とやらを見た。騙してんじゃないのかって、そう思ってやらせてみたらこれだ。信じたくはないけど、かといって信じないって意地張るのも馬鹿みたいだ」
真白は椅子の背もたれに体重を預けた。椅子が軋む音は、どうしてか扉一枚隔てた店内の雑多な音と相容れず、それだけが一つ目立った。
「真白は……ここのことをどう思う?」
歩の質問に真白が首を傾げた。この店の事か? 歩は首を横に振り否定を示す。
「この場所、というか、ちょっと変な言い方になるとは思うけど、この世界についてどう思うかって」
得心がいったのか、真白は手の中でスプーンの柄を弄りつつ、うーんとうなり始めた。彼女は目を周囲に泳がせ、暫くの沈黙の後に口を開く。
「アタシの知ってる場所とは違う場所、だな。国が違うとか、そういうレベルの話じゃない。もっと突拍子もないレベルの場所にアタシ達はいる。だから……世界って表現は変じゃないと思うよ」
水色の瞳が歩を見ていた。どこかに黒色が残っていないだろうかと歩は目を凝らした。けれどどこにも残ってはいなかった。
「アンタはどう思う?」
真白はスプーンでドリアを切り崩しつつ、逆の手で耳に髪をかけた。紺色のしなやかな髪の毛がその形を変え、血色の良い耳をさらけ出す。
「真白と同じ。信じられないような話ばかりだけど、信じなきゃ説明がつかない箇所があった。俺の常識がここでは通用しない。それだけじゃない。魔法だとか死人、名添やトワイライトとか……まるでファンタジーだよ」
歩の言葉に真白がピタリとその手を止めた。彼女は徐に目線を上げ、やがて口を開く。
「ファンタジー、ね。そう考えれば納得がいくけど、それってアタシ達が別の世界に来てしまったってことになるんじゃないか?」
恐る恐る、そういった風に真白はこちらの返答を待っている。
性格がここにきて掴めてない。話の流れが不安定。考えが浅かった。
もしもの話だけど、このトワイライトはどこかで更新を止めてしまうかもしれない。自分の愚かさを呪う




