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白い服の人  作者: 海水
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夕涼み

片平久様の『【キャラに着物を着せませんか?】初心者用、和装描写のススメ』に触発されたSSです。

時期は、二人が一緒になって数か月後、です。

 日中のむっとした空気が、嘘の様にからりとした夕暮れ。私は彼と縁側に腰掛けています。まだ空は茜色を湛え、視界の端っこには蝙蝠が通って行きます。

 私は彼の右に座り、ぼんやりと、橙色から紫色へと移り行く空を眺めています。偶に通る風が、浴衣で露わになっている首筋をくすぐっていきます。

 私は、ちょうど今の空の様な、深紫に白抜きの菖蒲(あやめ)の模様の浴衣です。ちょっと地味かもしれませんが、彼は「似合っている」と褒めてくれました。

「なんだか浴衣は、落ち着かないですね」

 その彼は、そんな事を言っています。どうも股がスースーするのが気になる様です。私はスカートを穿き慣れていますから違和感はないのですが、彼はなんだか落ち着かずにそわそわしています。そんな様子が可笑しくって、ふふっと声が出てしまいます。

「そうですか? 良く、似合っていますよ?」

 彼は藍色のたて縞の浴衣です。細身の体が、よりすっきりと見えて、なんだが男前度が数段上がった気がします。いつもは白い服なので、違った印象の彼に、思わず見とれてしまいます。

「そう見られると、恥ずかしいですね」

 彼は照れ隠しなのか、私の肩を抱き寄せました。本来ならば私が左側に座るのでしょうが、彼の左腕は途中で無くなっていますので、二人の並びは、こうなのです。

 肩を抱かれたまま見上げるのも恥ずかしいので、視線を下げてしまいました。でもそこに見えたのは、彼の浴衣の裾がはだけてちらっと覗く、ふくらはぎです。隙間から少しだけ見える事で、艶めかしく感じてしまいます。彼の足など毎日見ているのに……

 このまま見ていると、もやもやとしてしまうので視線をもっと上に逃がします。

 あぁ、それがいけませんでした。

 右前になっている襟元が(はだ)けてしまって、彼の鎖骨と胸元が見えてしまっています! 

 やや日焼けしている肌に浮き出ている鎖骨が、ほんのり見える引き締まった胸板が、私の目を釘付けにしてしまいます!

 彼の裸は、毎日見ているのに、何故、目を離せないのでしょう。も、もちろん、背中を洗うお手伝いで、見ている訳で!

 ……いえ、夜も見ていますけども……

 そ、そうです、こんなことを考えてはいけません。はしたない。

「どうしました?」

 彼の、窺うような声が頭上から降ってきました。私は余程、挙動不審だったようです。ですが、彼の胸元から目が離せない私は、「え、えぇ、何でも、ありま、せん」と思いっきり不審な返答をしてしまいました。

 あぁ、でも至福の時間。眼福です……

「お、お囃子が聞こえてきましたね」

 遠くからお囃子の笛の音が聞こえ始めました。続いて軽快な太鼓の音が追いかけてきます。

 今日は近くの神社で祭りがあるのです。だから私たちは浴衣などを着ているわけです。

「では、行きましょうか」

 彼が右腕に力を入れたのか、私の体がぐいっと持ち上がります。私の至福の時間も終わりの様です。残念。

「転ばないで下さいよ」

 彼が私の肩を抱きながらニッと笑いました。私の方が年上なのに、年下扱いです!

「大丈夫です! ゆっくり歩きますから」

 私はちょっとだけ膨らんできたお腹をさすります。この子は、年末までには生まれている予定です。

「じゃ、行きますか!」

 彼も何だか嬉しそうです。彼に肩を抱かれながら、歩き始めました。二組の下駄の音が、カランコロンと小気味よい音を奏でてくれます。

「綿菓子に、べっ甲飴に、林檎飴に、お団子も良いですね!」

 私の頭は、何を食べるかを計算し始めました。あれもこれも、と浮かんでしまいます。あぁ、困ってしまいます!

「食べるのは良いですけど、お腹を壊さないでくださいね」

 彼が呆れた風に声をかけてきます。

 もぅ、私を何だと思っているのでしょう。お祭りなんだから、今日くらい、良いじゃないですか。

「大丈夫です! 二つずつしか食べませんから」

「……一つずつじゃないんですか?」

 彼の怪訝な声がおりてきます。ふふ、甘いですね。

「お腹の子の分も、食べるんです!」

 私は、苦笑いを浮かべる彼の肩に、頭をコテンと乗せました。

「私」さんの浴衣と下駄を追記。

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