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第31話 お化け嫌い

 順番でトイレまで行って、戻って、行って、戻って。そんなに広い孤児院じゃないからトイレなんてすぐそこにあるんだけど、暗くて狭い廊下はやっぱり不気味で、みんな走って戻ってきた。

 いよいよ私とカイセル君の番になった。私は、ガッチリカイセル君の背中にしがみ付いた。なんなら抱っこしてほしいけど、さすがにお爺様みたいにはいかないよね。私よりは背が高いけど、やっぱりカイセル君だってちっこいもん。

 廊下はホントに真っ暗で、部屋がある背中側から光が漏れているから、影が行く手を余計暗くしてしまっている。行きは慎重に歩かないと危ないみたい。足が震えて転んじゃいそう。


「カイセルくん、だいじょぶ? だいじょうぶ?」


 “怖さを紛らわせるために、必死にカイセル君に話しかける。カイセル君も声が震えている気がするけど、気丈に返事をしてくれた。”


「だ、大丈夫に決まってるだろ。エリナはホント弱虫だな」

「うう、えりな、おばけきらいだもん・・・。でも、カイセルくんだって、いっしょにこわがってたよね」


 “最後のお姉さんのお話は本当に怖かった。なんであんな話を思いつくんだろう。もしかして本当にあったことなのかな? フィクションだよね? 異世界だからノンフィクション? ひええええ~!“


「こ、怖くなんてない。俺は怖がってなんていないぞ」

「そ、そう? でも、ふるえてたでしょ?」

「う、うるさい。怖がってなんていないって言ってるだろ!」


 あれ? カイセル君が立ち止まって私の方に振り返った。しがみ付くものがなくなっちゃっうから、向こう向いててほしいな。


「お、俺は幽霊なんて怖くないんだ!」


 カイセル君、なんか怒ってる? 一緒に震えていたことは嫌な事だったのかな? 怖く無くて、平然としていてくれると頼もしいけど、一緒に震えてくれていると、私だけじゃないんだと思って安心できたんだけどな。


「カイセルくん、こわくてもへんじゃないよ? わたしもすごくこわかったし。いっしょだね」


 一緒に怖がってくれても嬉しいんだけど、カイセル君は嫌だった見たい。なんか怖さとは別に、握り拳を震わせてる。あれ? 怒ってるの? なんで?


「怖くない! な、生意気だぞエリナ! お前なんてこうだ!!」


 ばっ!とカイセル君は両手を振り上げた。

 あ!!

 私のスカートがふわりと捲れあがる。太ももがすーすーして頼りない。


 ”!! また! またスカート捲り! なんで!? なんでそんなことするの!? うう、『私』はそういう恥ずかしいのはとっても嫌なのに!のに!”


「ふえ・・ふえええ」

「う? エ? エリナ? あ、あ、つい、あ、あのな? ついな?」


 ”私はもう、怖いのか、恥ずかしいのか良く分らないけど涙が出てきた。

 カイセル君は泣きだした私に今更慌てたようにおろおろし始めた。

 ゆ、許さないよ。もう許さないよ。絶交だよ。ぜった・・・”


 ビカ!! ドカーン!! ゴロゴロ


「ふええ? きゃうん!」


 急に大きな音が外の方から聞こえた。え? 今の何?


 ”ひえ! カミナリ!? ヒャ! ダメだ。カミナリはだめだ! ふええん。なんでなの? 今日は何でこんな嫌いな事ばかりが起きるの? いやだいやだ。カミナリ怖いよ。お爺さまあああ!”


 私はカイセル君に飛びついてしがみ付いた。ふえ~ん。怖いよ。

 本気泣きで泣きついてガタガタ震えた。


「エリナ? カミナリも怖いのか? お、おいそんなにしがみ付くなよ。歩けないだろ」


”ひゃああん。イヤだ、もう嫌だ。音のしないお屋敷のお部屋に帰りたいよ。怖いよ。 

もう、この際カイセル君でもいいよ。エッチなことしたことは許すから早くみんなの所に戻ろう!”


「ふええん。みんなのところにかえる! もうかえるよ~」

「分かった。分かったから。すぐ引き返そう。はあ~。なんか調子狂うな」


 私たちはトイレまで行かずみんなの所に戻った。トイレに行った証を持ってこなかったので、みんなに冷やかされたけど、私はそれどころじゃなかったので、とにかくカイセル君にしがみ付いたまま泣いていた。

 だって、お化けもカミナリも大嫌いなんだもの。なんかわかんないけど大嫌いなの!

 カイセル君は呆れたような、でも優しく私の頭を撫でて慰めてくれていた。たまにエッチな事をするけど、優しいお兄ちゃんなんだよね。でも、今私は和んでいる余裕はないんだよ。さっきからカミナリのゴロゴロが続いているんだもん。頭を撫でるより耳を塞いでほしいよ。私の両手はカイセル君にしがみつくので空いてないんだよ。

 雷が激しくなってきて、心配したお爺様と先生たちがやってきた。私はすぐお爺様に抱きついて帰りたいと、ちょっとわがままを言ったんだ。けど、雨の中帰ることも出来ず、私はお爺様に抱きかかえられたまま、震えることしかできなかった。

 後はよく覚えていない。怯えて泣き疲れて寝ちゃったみたい。

 目が覚めたら、自分の部屋のベットの中だった。


 ”お部屋の中は真っ暗だった。一年以上使っていた自分のベットだから暗くても分かるよ。夜になっちゃったのかな? でも、いつもなら小さい明かりがあって、真っ暗になることはないはずなのに。

 私が寝ちゃったから、アン達が明かりをつけ忘れたのかな?”


「は・・う」


 ”あれ? 声が出ない。そういえば体も動かない。え? え? あれ? こんな事、前にもあったような。さっきの孤児院のお姉さんがしたお話にもあったよね。これってまさか・・・・お・ば・・これ以上言えない! あうあああうああああああああ”


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・これは悪夢さ、忘れちまいな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 あれ、気付くと部屋の端っこにある明かりがついていた。うっすらとお部屋の中が見れる。

 あうん、身体も動くよ。てっきり、またあの怖い声が聞こえるかと思ったけど、何もなかった?


 “?? えっと、怖い声? あれ? 怖い声ってなんだっけ? なんかついさっきまで考えていたことが思い出せない。えええ? 記憶に残っていない? なにかされたの? ウソ!! 『私』の記憶に干渉できるの!? もしそうなら、『私』の記憶を覗かれた可能性もあるの? まずいよ。

 背筋に悪寒が走る。怖い暗い声の事を思い浮かべると、布団の中なのにますます寒くなってきた気がするよ。“


 こわい、こわい、こわい。一人は怖いよ。


「おじいさま、こわいよ。ふえええ」


 私はベットから飛び起きて、部屋から飛び出した。廊下は薄明りが点いていて暗くない。怖いのを我慢して、私はお爺様のお部屋に駆けて行った。


「おじいさま、おじいさま、おじいさま・・・」


 お爺様が一緒なら怖くない。また、私を守ってくれる。助けてくれる。


「おじいさま!」


 私はお爺様のお部屋にノックもしないで飛び込もうとした。でも、お部屋には鍵が掛かっていて、扉にオデコをぶつけた。


「ふぎゃっ!」


 ふえええん。痛いよ。

 お爺様がお屋敷にいないときは、お爺様のお部屋の鍵はいつも閉まっているの。ということは今、お爺様はお屋敷にいないんだ。


「おじいさま、こわいよー。ふええん」


 私は、怖くて怖くてしょうがなくなって、額を擦りながら頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。もうどうしたらいいか分からなくなった。どうしようどうしよう。こわいこわいこわい。

 おじさまがいない。おじいさま!


「エリナちゃん、どうしたの?起きちゃったの?」


 あう、お母さま!ああ!よかった、お母さま!お母さま!

 私は泣きながら、廊下を曲がって現れたお母さまに飛びついた。

 よかったよー、お母さまがいたよー。


「ふええーん」

「あら、あら、エリナちゃん? こんなところになんで一人で? 怖い夢でも見たのかしら? 孤児院で怖い思いをしたんですって? 思い出しちゃった?」

「ふいいいん」

「まったく、こんな小さな子に怖い話を聞かせるなんて、なんでしょうね。今頃孤児院の年少組の子供たちも怖がっているんじゃないのかしら? 明日のお布団大丈夫かしらね? トイレが怖くてオネショしてなきゃいいけど」

「ふぐ!! ふえ?ええ~ん?」


 ”オネショ? はうん。寝る前にトイレに連れてってもらおう。一人じゃいけないよ。お母さまが一緒じゃないと怖くてできないよ。”


「ぐす。おかあさま、きょういっしょにねていい?」

「ふふ。ええ、もちろんよ。一緒に寝ましょうね。でも、その前に、お腹減ってない? 夕食食べずに寝てしまったでしょ、エリナちゃん」


 そういえば、お腹が空いてる。安心したら、急にお腹が空いてきた!


「おかあさま、おなかすいた」

「そうでしょ。さ、食堂に行って食事をしましょ」


 食堂に行くと、まだ侍女さんや執事さんたちがお仕事をしていて、すぐに料理を準備して運んできてくれた。

 お母様がニコニコしながら、料理を切り分けてくれて、私に食べさせてくれる。


「うふふふ、はいエリナちゃん、あ~ん。アンやトロワがこうしてエリナちゃんに料理を運んでいたのを見て、一度やってみたかったのよ。エリナちゃん、おいしい?」

「はむ、んぐんぐんぐ。こくん。うん、おいしいよ!」

「そう! はい、じゃあ次はこれね。あ~ん」

「あ~ん」


 食事が終わってから、お母様と一緒に歯を磨いて、それからおトイレに連れて行ってもらった。これで、オネショはしないよ。私もう四歳だもん。オネショは卒業だよ。

 お母様のお部屋ではお父様がベットでご本を読んでいた。


「エリナか? どうしたんだい?」

「ふふふ、今日は一緒に寝たいんですって」

「ああ、そうか。ほら、じゃあまた、私たちの間においで」


 お父様が布団を持ち上げて、私を招き入れてくれた。お布団の中は温かくて、ホッとした。お母さまは鏡台の前で髪を整えてから、私の反対側に入ってきた。

 私はお母さまの方ににじり寄って、抱き着いた。


「おかあさま」

「ふふ、はあい、エリナちゃん、やっぱり怖かったのね。今日は随分甘えん坊ね」


 反対側からお父様も私の方へにじり寄ってきて、頭を撫でてくれた。


「エリナ、もう怖くないからな。ゆっくりおやすみ」


 ああ、もう大丈夫だ。怖くない。ここは私の居場所だ。絶対安心な私の大切な場所。


「おやしゅみなさい」

「お休みエリナ」

「おやすみなさい、エリナちゃん」


 私は、お母さまの温もりに包まれて眠りについた。今度は怖い夢を見ることはないと分かるよ。



フェリオー「解説でーす(笑)」

リーセ「ぐぐぐ、またそんなに嬉しそうにして!」

フェリオー「エリナがカミナリ嫌いなのは、以下略」

リーセ「なによ以下略って。解説になっていないわ」

フェリオー「だって前話と同じでしょう? あなたの雷嫌いの影響でしょう?」

リーセ「そ、それはそうだけど、私がカミナリ苦手だったのは、昔の話よ。今は平気だもん」

フェリオー「当時電気が苦手な体質だったからでしょ! 知ってるわよ」

リーセ「それで、なんでエリナはカミナリそのものが怖いのかしら? 妙な所だけ継承されたわね」


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