第30話 雨の日の孤児院
明日も投稿予定です
「ふむ、随分薄暗いな」
お爺様がお空を見上げながら、呟いていたよ。私はお爺様に抱っこされたまま、お空を見上げたの。
「おひさまみえないね」
見渡す限りの曇り空。王都のお空はそれでもまだ白い分厚い雲だけど、遠くの方には真っ黒い雲がずうっと続いている。最近は暖かくなってきて、その分空気が湿った感じがするよ。
今日はお爺様に孤児院に連れてってもらうのに、雨が降りそうだな。お外で遊べなくなっちゃうかも。
「おじいさま、はやくいこう」
「おお、そうだな。行こうか」
お爺様といっしょに孤児院に行くときは、いつも歩きだ。お母様や侍女たちと行くときは馬車なんだけど、お爺様は歩くのが好きなの。健康のためなんだって。私は抱っこされているから、楽ちんだよ。
「クーガ様、こんにちは! ようこそいらっしゃいませ。エリナ、よう!」
孤児院の門の横にカイセル君が立っていて、お爺様と私に挨拶してきた。
「やあ、カイセル今日も元気だな! どうした? わざわざ門まで迎えに来てくれたのか?」
「はい! い、いえ、たまたまです。グーガ様」
カイセル君は、最近いつも門の前で待っていてくれているの。みんなと遊ばないのかな? 孤児院に来る日はいつも事前に連絡しているけど、時間通りに来るわけじゃないのにね。ずっと待っているのかな?
「カイセルくん、こんにちわ。いつも、もんのよこにいるね?」
「え? い、いつもじゃね~よ。ぐうぜんだ、ぐうぜん!」
「そう? また、いっしょにあそんでくれる?」
「ああ、もちろん。でも、先に院長先生に挨拶するんだろ。いつもの部屋で待っていてやるから、さっさと行って来いよ」
「うん、まっててね」
お爺様は、カイセル君が孤児院に駆けて行くのを見ながら、いつもよりニコニコしてその後をゆっくり歩いて行った。私もお爺様に抱かれたまま、院長先生にご挨拶に行くよ。
それにしても、なんでカイセル君嘘言うのかな? いつも門の所にいるよね? 間違いないよ。同じ孤児院のネイリちゃんも、「慰問の時間になるとカイセルがソワソワしてうっとおしい」って言っていたもの。うっとおしいってどういう意味かな?
あと、不思議なのは目線があまり合わないの。カイセル君がお爺様を見ている時はお爺様のお目目をジッと見てお喋りするのに、私と話すときは視線が少し下がるの。だって、お爺様に抱っこされてるときは私のお顔もお爺様と同じぐらいの高さなのよ。なのに、私の足の方ばっか見てるんだもん。
病気の時には足が動かなかったから、治った今も変なのかな? 今度聞いてみよう。
院長先生に挨拶をすると、いつも通り、お爺様はそのまま、院長先生と難しいお話をするので、私はいつものみんながいるお部屋まで一人でやってきた。
「あ、エリナちゃん、いらっしゃい」
「エリナちゃん、いらっちゃい」
ネイリちゃんが茶色いお下げの髪を揺らしながら、すぐに駆け寄って来てくれた。その後をミンミちゃんも肩まで伸びた金髪を振って来てくれる。
私たちは手を繋いで輪になってぴょんぴょん飛びながら回った。私たちはもう、すっかり仲良しさんになっているよ。
お姉さんのネイリちゃんは優しくて、いつも私の事を構ってくれる。青い目が綺麗で大好き。同い年のミンミちゃんもどんくさい私と一緒に遊んでくれる。沢山いる孤児院のお友達の中で一番の仲良しがこの2人なの。
くるくる飛び跳ねてると、カイセル君とケルー君もこちらにやってきた。この4人がいつもよく遊ぶお友達だ。そこに、さらに他の子達も加わるけど、この5人はいつも変わらず一緒だった。
「先生が、雨が降りそうだから、今日は部屋の中に居ろってさ」
「え~、そうなんだ。じゃあ、おままごとする?」
カイセル君が先生の言いつけを教えてくれた。やっぱり、雨が降りそうなんだね。部屋の中もなんだか薄暗いし、蒸し蒸ししているな。
ネイリちゃんが何して遊ぶのか提案してくれる。
「ええ~ままごとなんて、つまんないよな、ケルー」
「そーお?おままごとも楽しいよ」
カイセル君おままごとはつまんないんだね。ケルー君はおままごとでも良いみたいだ。この前やったときは、ネイリちゃんがお母さんでケルー君がお父さんで、ミンミちゃんと私が姉妹で、カイセル君がペット役だった。何をやっていいのか分かんなかったけど、面白かったよ。おっきいカイセル君がペットで、小さいケルー君がお父さんだったからおかしかったな。カイセル君が私やミンミちゃんに甘えて抱き着いてきて、ネイリちゃんが怒ってた。あの時は、楽しそうにしていたのにね。スカートを引っ張って抱きついてきたから、転びそうになっちゃったけど。
「じゃあ、なにをしたいの?」
「えっと、そうだなー。暗くなってきたし、暗い中でも出来る遊びがいいな」
そっか、暗いとあんまり見えなくなっちゃうから、おままごともしづらいかもね。カイセル君は頭がいいな。
みんなで、頭を捻って何して遊ぶか考えていると、ネイリちゃんやカイセル君より年上のお兄さんやお姉さんたちが年少の他の子達と一緒にやってきた。
「暗くなってきたから、先生が皆で集まって出来る遊びをしなさいって!」
「だから、みんなで怖い話をしようか!」
”・・・・・・え!?”
「怖い話?ってなに? 面白いのか?」
カイセル君がやってきたお友達の方へ向かって聞いている。
「おう、怖い話をして、怖がったら負けな。話が終わったら、今度は一人ずつ、トイレに行って戻って来るんだ」
トイレは細い廊下の奥の方にあるんだよね。昼間でも薄暗いから一人で行くとちょっと怖いんだよ。今は昼間だけど、窓の多いこの部屋でも薄暗くなってきたから、きっとトイレのある廊下は真っ暗だよ。
みんなは集まって、丸くなって座った。年上のお兄さんやお姉さんたちが順番にお話をしてくれるみたい。
「暗い森の中で、男が道に迷って途方に暮れていたんだ。道から外れて周りは高い木ばかりで、方向も定かでない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そこに急にシャークギルが現れて、男に牙をむいたんだ・・・・・・・・・・・・・・・・。」
私は隣に座っていたカイセル君の腕にしがみ付いた。こ、こわい。シャークギルは怖い。うう、イヤだよ。このお話は聞きたくないな。シャークギルに襲われて、怖くて痛くて冷たかった恐怖が次々に頭の中に思い浮かぶ。体が震えてガタガタしちゃう。震えを止められないよ。
「エリナ、怖いのか?」
カイセル君が、しがみ付いている私の手を上から覆うように握って、小さい声で聴いてくれた。
「うう、うん。こわい」
「こんな話は嘘ばっかりだから、怖くないぞ。大丈夫だ。魔獣なんて王都には来ないよ。エリナは弱虫だなあ」
「ううう、だ、だって・・・」
「ほら、もう話も終わるから、な?」
カイセル君、優しいんだけど、なんか呆れているみたい。でも、シャークギルは本当に怖いんだよ。
魔獣の話が終わって、別のお兄さんがまた怖い話をし始めた。今度は死んだ女の人の幽霊のお話みたい。声を震わせるようにオドロオドロしい喋り方が余計に怖いよ。
”・・・だ、大丈夫、異世界の怪談なんて嘘ばかりよ。お化けがホントにいるわけないもの。人は死ねばそれまでよ。魂なんて肉体から離れたらすぐ消滅よ。転生輪廻何てあるわけ・・・・・、あるじゃん。異世界だからあるじゃん。逆よね、異世界なんだから幽霊もいるのかも? え? え? 本当に? いるの? え? 幽霊? うそ?”
なんか、しがみ付いているカイセル君も少し震えている気がするよ。私がガタガタ震えているから、伝わっちゃったのかな?そっと、カイセル君を見上げると、ちょっと白い顔してる気がする。暗いからよく分かんないな。カイセル君も怖いのかな?
次々とお兄さんとお姉さん達が話し手を変えながら、怖い話をオドロオドロシイ声で話していく。聞いている子たちは、怖がっている子がほとんどだけど、中には全然気にしていなさそうな子や、強がりを言っている子なんかもいた。
外では雨が降り出したみたい。窓に雨粒がついているよ。
「・・・・・・・・・・・その子が夜中急に気配を感じて目を覚ますと、寝ているその子の目の前に黒い影のような透き通った老婆が目の前にいたの。その子は声を上げようとするんだけど、声も出せないし、身体も全く動けないの。目の前にいる老婆がニタリと笑って、しゃがれた声で「お前をころしてやる~」・・・・・・・」
”ひぐ! ええ? あれ? なんか身に覚えがあるよ。このお話と同じようなことがあった気がするよ。あれ? でもよく覚えていないな? いつだっけ? まだケガで動けなかった時だっけ。『私』もまだ封じられていたから、思い出せないのかな? あれ?”
「カ、カイセルくん、エ、エリナもうかえる。ふえええ」
私は怖すぎて、ガッチリとカイセル君に全身でしがみ付いていた。あれ? でもなんか、カイセル君も私にしがみ付いているような?
「だ、だ、だいじょうぶ。こんなの嘘ばっかりだ! こわくなんかないぞ! はは!」
カイセル君、本当? 怖くないの?
最後のお姉さんのお話はすっごく怖くて、大半の年少組の子達は半泣き状態だった。私は半泣きを通り越して、本気泣きも通り越して、ただ茫然としていた。怖すぎると何も考えられなくなるんだね。後ろが怖くて振り向けないよ。背筋が寒いよ。ふええーん。
いつの間にか外は本格的に雨が降ってきたみたい。ますます部屋の中が暗くなってきた。
「じゃあ、順番にトイレに行って戻ってくるんだ。年少組は2~3人で行ってもいいぞ。初等部以上は一人づつだからな」
”む、無理。トイレになんて行けない。お爺様とお家に帰る! もう、しばらく孤児院には来たくない。私はかえる~!!”
「エ、エリナ! 一人じゃ怖いだろ! 俺が一緒に行ってやるぞ。な! な!」
「ふええ。エリナ、もうかえる~。おじいさまとかえる~」
「クーガ様はまだお仕事中だろ。帰れないよ。な? 一緒にささっと行ってすぐここに戻ってくれば怖くないからさ」
「うううう。・・・・・うん、わかった、えりな、がんばりゅ」
怖いよ。怖いよ。帰りたいよ。ええ~ん。なんでこんな事しないといけないの。
怖くて仕方ないけど、他の子たちは、すでにみんな一緒に行く子たちを決めてしまったみたい。このままだと一人で行かなきゃいけなくなっちゃうし、カイセル君が一緒に行ってくれるなら頑張るるるㇽ。うううういやだよ~。
フェリオー「久々の解説よ」
リーセ「それ、私のセリフ! なんで嬉々として解説しようとしているのよ」
フェリオー「エリナがお化け嫌いなのは、貴女のせいよね。貴女のお化け嫌いが影響しているのでしょう?」
リーセ「うぐ! そ、そうよ。私の場合はお化けそのものが嫌いなのではなくて、お化けになるその精神というか怨念が苦手なのよ」
フェリオー「くすくす。その影響でエリナはお化けそのものが怖いということね。女神が情けない」
リーセ「ぐぐぐ、言い返せない」




