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082 開戦

実生活が忙しくなってきた為、次話より不定期更新に変更します。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません( ; ›ω‹ )




 その日――。


 女帝、リゼル=エトワール=ツルリッピーナ三世より、バスティア王国へと正式な宣戦布告が届いたという。


 帝国の使者により届けられた文書。


 その内容を耳にしながら、女王キサラ=フル=バスティアーナは、犬歯を剥き出しにて笑ったという。


 後日、斥候から帝国軍が進軍を開始したと聞き、王国軍は詰めていた兵と共に、砦を出発する。


 両軍が目指すのは、国境の中心であるヘルゲン平野であった。


 ほぼ全軍を投入したこの進軍は、緒戦でありながら総力戦の様相を見せていた。此処での勝利が後の一手に繋がると、両軍が踏んでいたからだ。


 部隊中央には、キサラ陛下の姿もある。

 自らが戦場に立ち、兵を鼓舞しようと言うのだろう。


 実際に、その効果は計り知れない。


 女王陛下の参戦により、末端の兵達の士気は鰻上りに上がっていた。熱狂するその様子は、偶像崇拝にすら近かった。


 しかし、条件は帝国側も同じである。


 侵略側となった帝国軍の中枢に、女帝リゼルの目撃情報があったという。敵の士気の高さから、恐らくは本物という話だ。



 キサラとリゼル。

 王国と帝国のトップが、戦場で一堂に会する。


 歴史の証人となる、この一戦。


 後に『へルゲンの戦』と呼ばれる戦いが――今、始まる。







「成程、な。こりゃあ、見晴らしが良いぜ……」



 遠くに見える帝国兵の軍勢を眺めながら、平原へと立ったガステロが、嫌そうに呟く。



「大人数で戦うには、もってこいの場所だな。隠れる場所なんて何処にもねぇ。完全に実力勝負になるぜ、こりゃ……」


「……騎馬が少ないのぉ」


「ん?」


「軍同士の戦いで猛威を振るうのは、大規模攻撃魔術じゃ。大きな爆発音。マナのうねりに敏感な馬は、操縦不能に陥ってしまう……此方はまだ蒼玉魔術団が健在じゃからな。敵も警戒しておるのじゃろう」


「帝国側は、魔術団はいないんっスか?」



 スーリヤの問いに、傍で聞いていたピストンが反応する。



「いない。いないが――リゼル陛下が得意と聞いた。キサラ陛下が砦での籠城戦を選ばなかったのも、それが原因だろう。建物の中に引き籠っていても、魔術で吹き飛ばされてしまえば、一巻の終わりだからな」


「へぇ~~~!」


「……?」


「ピストンさんって、普段アレっスけど、戦いの事になると物知りになるんすね~~!」


「……ま、一応古巣だしな」



 そっけなく答えるピストンに、尊敬の眼差しを送るスーリヤ。


 実際それ程大した事を言った訳では無いのだが、彼女の場合は祖父が倒せなかった相手を屈服させた男という認識でピストンを見ているので、そのフィルターから彼を過大に映していた。


 ――ピストンの真価は、そんな所では無いと言うのに。



「……アメル君は、陛下の部隊で預かって貰ったよ」



 話題を変える様に、リブラは彼にそう報告する。



「あそこも危険が無いとは言えないが、最前線で切り結ぶ此方よりはマシだろう」


「アイツが納得したなら、別に何でも良い」



 目を瞑り天を仰ぎながら、ピストンは言う。

 彼の興味は、今は別の所にあるのかも知れない。



「――愉しんでいるか、お前ら?」


『……?』



 目を開けて、ピストンは己が部下へと問い掛ける。


 ガステロや、リブラ。

 ヨルガやスーリヤだけではない。


 この場にいる自身が預かる千の兵へと、彼は問うているのだ。



「涼しい風が胸の中の熱を冷ましてくれる。こんなにも綺麗な青空の元で、俺達は殺し合いをするんだぜ? 嬉しいよなぁ。思わず、生きてて良かったと思っちまう。この感情を、お前らと一緒に共有出来て、俺は本当に嬉しいよ……」


『……』



 ――この人は一体、何を言っているのだろうか?


 感慨深げに呟くピストンを見詰めながら、困惑する兵達。



「隊長殿は――」


「うん?」


「隊長殿は、その……戦争がお好きなので?」


「いや、嫌いだが?」


「……」



 返ってきた返事に、問い掛けた兵士は止まってしまう。

 意味が分からぬものを間近にすると、人は硬直するのだろう。


 その事を、彼等は身を持って知るのだった。



「嫌いだし、駄目だし、やっちゃいけない事だと思う」


「……」


「駄目な事を敢えてやるから――キモチイイんじゃないか?」


「それは――私には分からない価値観です」


「……分からない?」


「はい……」



 心底意外と言った表情で、ピストンは周囲を見渡す。



『……』



 どうやら、この意見は彼だけのものでは無い様だ。


 皆が皆、気まずそうに視線を下げる。



「そっかぁ――」



 息を吐き、肩を落とすピストン。

 その様子を心配したリブラが、彼へと近付こうとしたその時。




「リリス」




 彼は――自身の部下へと、魔術を行使するのだった。



 お読み頂きありがとうございます\\٩( 'ω' )و//


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