077 地下牢での攻防
薄暗い地下牢の中。
鎖へと繋がれたセネル=アンヴァサダーは、凝った身体を解す為、己が身体を左右に揺すっていた。
拘束されているのだから、身体の稼働範囲は狭い。
蓄積する疲労に顔を歪めながら、彼女はこの生活が何時まで続くのかと嘆息する。
一日二回の食事の時間は、彼女にとっては苦痛であった。
生命活動を維持する最低限の栄養を補給出来るのは助かるが、その度に看守達の遊びに付き合わされてしまう。
彼等の下卑た笑みは、自身への暗い欲情から来ていた。元男であるセネルには、その事実こそが許し難い。
「く……ッ」
思い返すだけで、身体が火照ってしまう。
此処の所、連日だ。
連日の頻度で、ピストン=セクスはこの地下牢へと足を運んでいた。
目的は、セネルの身体である。
彼は牢へとやってくると、気軽に扱える玩具の様に、セネルの身体を好き勝手に蹂躙した。
長く激しいその行為。
気が付けばセネルは、彼と同様に快楽を貪っていた。
自発的に腰を振り、舌を出すセネル。
情事の後には、常に後悔が付き纏う。
気が狂いそうだった。
男としての精神が、快楽により破壊されて行くのが分かる。
――僕は一体、どうしてしまったのだろうか?
自身の気の乱れ様が信じられない。
魔術により、肉体の感度を上げられてしまっているのは理解している。
強制的な発情状態は、僕の頭をバカにする。
原理は理解している。
けれど――
それでもセネルは、自身の変わり様が信じられない。
――組み敷かれ、男に貫かれながら、悦びを感じるなんて……到底受け入れる事は出来なかった。
「今日は、来ないのか……?」
呟きながら、セネルはピストンがやって来るのを心待ちにしている自分に気が付く。
あり得ないと首を振るも、その本音は別である。
もう、誤魔化せない所まで来ているのかも知れない。
セネル=アンヴァサダーは、深く深く――堕ちていた。
「……ッ! ピストンか!?」
地下通路に響く、何者かの足音。
それを聞いたセネルは、思わず顔を上げてしまう。
ゆっくりと近付いてくる足音。
やがてその影は、セネルの牢へとピタリと止まり――
「本当に、女の子になっちゃたんだねぇ……」
「!」
見知った声が、格子越しに聞こえて来た。
「アステリカ!? 助けに来てくれたのか!!」
そこに居たのは、黒霊死団幹部・アステリカ=シンドロームであった。スキル『ポータル』を持つ彼は、事前に設定していた物や場所の近くへと転移する事が出来る。
どうやって地下牢へと侵入したのかは知らないが、彼のこのスキルならば自身を救い出す事も造作は無いと信じていた。
「やぁ、セネル。数日ぶり。こっちもアレから色々と忙しくてさ。君の事は後回しにしちゃったよ」
「……っ」
スキル『解錠』で牢の鍵を難なく開けた彼は、悪びれもせずに、セネルへとそんな事を言う。
――ふざけるな、と。
セネルは、よっぽど言ってやりたかっただろう。
しかし、此処でアステリカの機嫌を損ねるのは得策ではない。
沸々とこみ上げる怒りを抑えつつ、セネルは彼の動向を見守った。
「しっかし、噂は本当だったんだね? 完全に女の子の身体だぁ」
「……見るなよ」
「あは! 恥ずかしがってるのかい? セネル君のそんな姿は新鮮だなぁ? ピストン=セクスも妙な魔術を覚えてるよね?」
「……アイツは、一体何なんだ……?」
「うん?」
「加護の儀に細工をしたって聞いたぞ? 全然じゃないか。剣神の加護を持ってなくても、アイツは十分強かった」
「……らしいね。ブルムの細工は失敗したって事かな? ま、加護の儀については、まだしっかりとは解明出来てないみたいだし、諦めるしか無いんじゃない?」
それよりも。と、アステリカは話題を変える。
「セネル君さぁ、君ぃ黒霊死団の情報を彼に喋ったでしょ?」
「!」
「そんな事をされちゃ困るよ。大した情報を持たせてなかったとは言え――契約違反は罰則だよ?」
「罰則って……」
「やだなぁ、分かってる癖に……」
哂いながら、セネルへと近付くアステリカ。
その手には、彼の獲物である短刀が握られていた。
「僕らの中で罰って言ったら――死、以外ないでしょ?」
「――ッ!」
「出来れば、男のままの君を殺したかったなぁ……残念」
「ま、待て! 待ってくれ!!」
制止する声も虚しく、アステリカはセネルの目の前へと歩み寄り、その短刀を振り被る。
「バイバイ、セネル。……君、大して役に立たなかったよ」
「――あっ」
首元へと振り下ろされる刃。
頸動脈を狙ったその一撃は、狙い違わずセネル=アンヴァサダーを絶命させる。
――筈であった。
◆
「――足音?」
刃を首の皮一枚の所で制止させながら、アステリカは呟く。
地下通路に響く反響音。
此方へと近付いてくる足音に、彼は警戒を見せるのだった。
「……」
――何となくだが、セネルは足音の主に見当が付いていた。
この時間。
このタイミングにやってくるのは、アイツしかいない、と。
「――お。一人増えてるな」
牢の格子へと近付いて来たのは、半裸姿の男性――ピストン=セクスであった。
能天気な言葉を出しつつ、彼は何の躊躇も無く、解錠された牢の中へと入って来た。
地下牢の中には、これで三人の人間が入った事になる。
流石に、手狭だった。
「ピストン=セクスかー。何故此処に。と、言いたい所だけれど――もしかして君、僕の邪魔をする気かい?」
「……邪魔?」
「セネル君を、助けに来たのかと聞いてるのさ」
「――」
「助け。たすけ。タスケ。――んん? 言っている意味が分からないぞ? 女の様な男よ。君は、俺を煙に巻こうとしているのだろうか?」
「はぁ?」
「俺のヤる事と言ったら、一つだろう」
言いながら、ピストン=セクスは自身のズボンをずり下げた。
「!?」
「腰を振る事と、剣を振る事。俺にはそれしか出来ない。……あれ? 二つになってしまったか? まぁ、どうだって良いか……そんな事」
下着へと手を掛け、徐にソレを脱ぎ捨てる。
「……正気、じゃないね……?」
「きひ」
「……ふーん、そっかぁ……君は、僕を犯す気なんだねぇ……」
アステリカは少し躊躇いながらも、自身を獲物とするピストンへ、構えを取る。
「求められるのは悪い気はしないけど、僕はヤられるより、ヤル方が好きなんだ。趣向の違う君には、戦争前に消えて貰おうかなぁ……」
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