076 俺が勝ったら
「――キサラ陛下」
「正気に戻ったか。遅れて来たと思ったら、一体そんな恰好で何をやっとるんじゃ貴様は……」
「散歩?」
「……まだ正気ではない様じゃのぉ」
やれやれと言った風に、女王キサラは溜息を吐く。
しかし、問題はそれだけでは終わらない。
ピストン=セクスが犯した狼藉は、重鎮達の目から見て、看過出来ぬものであった。
彼が帝国人である事も、拍車を掛けている。
「甘いのではないですか、女王陛下よ……」
故に、好戦派を代表する王国の宰相・ボロン=パイスキーはそこを突いた。
「ピストン=セクスは帝国の人間です。度重なる問題は奴が来てから始まった様にも私は思うのですよ」
「……何が言いたい、金柑よ」
「私は心配なのですよ、陛下。いいや、私だけではない。これから帝国と事を構える際に、獅子身中の虫を抱えていては満足な行動も取れますまい。然るべき対応をピストンへと課すべきだと、私は提案しているのです」
ボロンはそう言って、背後の重鎮達へと視線を送る。
「そ、そうだ……!」
そうして一人が、宰相の言葉に同調して息を荒げる。
一人堕ちてしまえば、残りも早い。
堰を切った様に、彼らはピストンへの不信を唱え始める。
「帝国人なんて、信用できるか!!」
「今までのもスパイだったんじゃないのか!?」
「爵位を没収しろ!!」
「生温い! 地下へと幽閉すべきだろう!」
「今すぐに処刑しても良い位だ!」
「奴は危険すぎる!!」
「とにかく、服を着させるべきだろうッ!!」
「エリーゼ様の事を、私は許さん!!」
思い思いに叫ぶ連中達。
その有様に、引くキサラ。
対するピストンは、耳の穴を指で穿りながら、欠伸をする。
不真面目な態度だ。
彼らの罵詈雑言など、完全に何処吹く風である。
「ぬうう!? 何たる態度!!」
その様子を見た彼らは、更にヒートアップ。
もはや本題など、置き去りだ。
「――皆の者、静かにしましょう」
『ボロン宰相……ッ!?』
手をパンパンと叩き、煽った側の人物が制止を掛ける。
意外な流れに、皆は思わず言う事を聞いてしまう。
室内が静まった事を見計らい、ボロンは己が意見を口にする。
「女王陛下よ。ペタン帝国との対応はどうするおつもりで?」
「……どうもこうも無いじゃろう。向こうがやる気なら、こちらも応戦するまでじゃ。もはや、対話などと言う選択肢は向こうも用意はしていないじゃろう」
「全面戦争ですか……しかし、そうなると此方は不利になりますなぁ?」
「……」
兵力であれば、王国と帝国は互角だろう。
だが、最近の事件の所為で、王国側は将校が不足していた。
紅玉騎士団は壊滅状態。団長であるヨルガ=ディン=カードが健在だとは言え、指揮する部隊が無ければその本領は発揮出来ない。新規に兵を借りたとしても、癖の強い彼では付いて行ける者は少ないだろう。
黄玉弓士団はもっと酷い。団長のアレクセイは戦死。他の団員も軒並み殺されてしまった。唯一生き残っているのが副団長のサライ=メンヒィルだが、彼が弓士として活躍している話はあまり聞かない。既に外様となっている英雄ボールゼスは健在だが、アガリを迎えている以上、無理に前線へと出すのは酷だろう。
「使える戦力と言えば、蒼玉魔術団のみ。しかし、此方はあくまでも魔術を主軸とした後方支援隊である。最前線で戦う者が圧倒的に不足しています」
「……前線には我が出る。そうすれば、英雄の穴などは塞げるじゃろう」
「いえいえ! とんでもない! 陛下には軍の総指揮という重大な役目があります。此処で出す訳には行きません!!」
「なら、どうする!? リブラを将軍に復帰させたとしても、敵には四大武尊がおるんじゃぞ!? 多勢に無勢。下手な戦力では磨り潰されるわ!!」
「だからですよ! 目には目を。歯には歯を。四大武尊には四大武尊を――」
「ッ!? 貴様、それはつまり――」
ボロン=パイスキーの企みを知り、キサラは顔を歪める。
「ええ、ピストン卿には今回の戦争で最前線に出て貰います! 王国側の不信感! これを払拭するには身体を張って頂かなければ此方としても納得は行きませんよ! 四大武尊の首を一つでも上げてくれたなら、私は諸手を挙げて彼を迎え入れますよ! 皆だって同じ気持ち。えぇ、そうでしょう――ッ!?」
宰相の言葉に、遅れながらも周囲の者達はその意味を理解していく。
これはつまり――宰相ボロンの迂遠な嫌がらせなのだ。
帝国との戦争。そうなってしまえば、確実にピストン=セクスは実家との戦いを強いられるだろう。
剣の家のセクスが、戦場に出ぬのはあり得ぬ事。
そうでなくとも、知り合いとの殺し合いになるのは必然。
ピストン=セクスがこれを断れば、王国への背信ありとして彼を処断するつもりである。
逆に、受け入れたとしても何ら問題は無い。
敵は四大武尊。
その最前線に配置されるのならば、裏切り者のピストンは真っ先に狙われる事となる。
王国側としてはピストン=セクスを囮とした戦術を運用出来るし、そのまま彼自身を消す事も出来る。
一石二鳥の策だと、ボロンは内心で自画自賛をするのだった。
「さぁどうする、ピストン卿!? 貴様が王国の味方だと言うならば、迷う必要は無いと思うが……!?」
「……」
問われたピストンは、暫し考え込みながら、心配そうに自身を見上げるキサラ=フル=バスティアーナへと視線を向ける。
「ピストン……」
眉をハの字にしながら、キサラはピストンの身を案じていた。
女王とは言え、この流れを強引に変えるのは至難の業。
非力な自分を悔やむように、彼女はピストンを見詰めてた。
しかし、対するピストンとは言うと、彼女の顔ではなく――その豊満な胸元に注目していた。
軽装の鎧は胸元が開いており、露出したソコからは惜しげもなく女王の谷間が見えている。
「……決めた」
ぼそりと、呟くピストン。
その声には、彼なりの強い意志が感じられた。
「陛下」
「な、なんじゃ?」
「四大武尊を倒したら――俺と結婚してください」
「は――? え――ッ!?」
『なァ――ッ!!!???』
ピストン=セクスのその大胆な提案に、周囲の者達から驚愕の声が上がる。
顎が外れんばかりに、口を開けるボロン。
言われたキサラは、何が何だか分からぬと言った様子で、目をグルグルに混乱させ、慌てふためいている。
「け、結婚!? 貴様! 意味を分かって言っておるのか!?」
「はい。いつでも何処でもヤり放題――それが結婚です」
「や、ヤリ――ッ!?」
直球過ぎるピストンの言葉に、言葉を詰まらせるキサラ。
「俺は何時でも貴方とヤリたい」
「い、いつでも?」
「何処でも」
「ど、どこでも……!」
ピストンが本気で言っている事は、キサラも理解出来ていた。
何せ、一物が張っている。
これ以上ない程の、分かり易さだった。
――何つー、デカさじゃ……!
――何時でも、何処でも、アレに貫かれるのか!?
――いやしかし、此処で承諾してはリブラに悪いしのぉ。
――断るか? この真剣目を前にして。
――うぅ! 不味い!
――我の中の女の部分が滅茶苦茶疼いておる……ッ!!
――こんなに情熱的に求められては!
――我は……! 我はぁ……ッ!!
「……四大武尊を……倒したらじゃぞ?」
「へ、陛下――――――ッ!!!」
上目遣いで、身を捩りながら乙女に呟くキサラ。
宰相含め、重鎮達の叫びが響く。
「契約、成立だな……」
言って、不敵な笑みを浮かべるピストン。
彼は元同胞と殺し合う事に、微塵の抵抗もなかった。
「悪夢だ……」
呟いたのはボロンである。
策士策に溺れるとはこの事か。常人の尺度で狂人を量ろうとした事が、彼の間違いだったのだろう。
まだ結果は出ていない。
けれど――既にボロンは後悔をし始めていた。
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