062 きっと僕は恵まれていた
シェザラーナの忠告を聞いた後、僕は酔っぱらったエリーゼを連れて、真夜中のブルボンを歩いていた。
っていうか――
「――飲み過ぎでは?」
「えぇ? らぁによぉ~……」
完全に"出来上がった"状態のエリーゼを見下ろしながら、僕は目を細めた。一人では満足に歩行すら出来ない有様なので、今は僕が肩を貸してやっている状態だ。
必然的に、身体は密着してしまう。
「そんな事言っれ~、このわあしと引っ付く事が出来て、嬉しいんじゃないの~~? この、このぉっ」
「あ、おい。暴れるな暴れるな!」
……まぁ確かに。
胸の柔らかい感触とかは堪能してしまっている自分はいるが、これだけ酒臭いとそれだけで気分は萎えてしまう。
「路地! 裏にまわって!!」
「人気が無くなるぞ?」
「こんな状態のわらしを、一般人に見せて溜まるもんですか」
そんな羞恥心があるならば、此処までベロベロに酔っぱらったりするなよと思うのだが――
「あによぉ?」
「いや……」
流石に、それは口には出せないな。
「……わらしだってねぇ、ストレス溜まってるんだからぁ」
「……」
「身体目当ての犯人だったらソレで良いんだけど――や、良くは無いかぁ……?」
「どっちだ」
思わず、ツッコミを入れてしまう。
「お父様関係の犯行なら――少し、怖い……」
「……」
「大富豪になって。最近だと選挙で爵位を貰えて……余りにも順調過ぎるわよねぇ……」
「何が言いたいんだ?」
普段とは違うエリーゼの言葉に、僕は問う。
すると彼女は「別に」と言って自嘲する様に小さく哂った。
「大きさの分からない怨みって言うのは、怖いって話よ」
「……」
「つまらない話をしたわね。……幻滅した?」
「幻滅する程、僕は君の事を知らない」
「――帝国人だものね」
「!」
「流石に調べるわよ。……雇い主だもの」
驚いてしまったが、確かに納得だ。
良く知りもしない男を、自分の護衛にしたりはしないか。
「酒場での一件も、仕組まれていたのか?」
「あ、気付いた?」
「幾ら僕が酒に弱くとも、一杯で倒れるのはおかしいと思っていた。察するに、アルコール度数を弄っていたな?」
「……怒ったかしら?」
「人に嵌められるのは慣れている。もう何も感じないさ」
「ごめん……」
殊勝な態度で、謝るエリーゼ。
「何故あんな事を?」
「初めて見た時から、貴方の事が頭から離れなかった。どんな人間なのか。何処に住んでいるのか。気になった私は、使いを出して貴方の事を探ったわ」
「……」
「そうして分かった。ピストン=セクス。元帝国人。四大武尊の家を追放され、この国へとやって来た男。知った事で理解したわ。私はきっと――貴方の事が羨ましかった」
「羨ましい?」
「家を追放された貴方に言う事では無いのかも知れないけれど、この街で初めて会った貴方は――とても自由だった」
だから羨ましいと、エリーゼは僕に言った。
自由。自由か……。
多くのものを捨てる事になった。
その果てに得られたものが、この自由だ。
どちらが良かったのかなんて、比べる事は出来ないと思う。
けれど――
「――」
セクス家を追放されていなければ――
僕は皆とは出会えなかった。
「……そうだな」
それを思うならば、やはり僕は恵まれているのかも知れない。
「エリーゼ、君は――」
気落ちした彼女に対し、僕が何かを言おうとした。
その時である。
「――ッ」
「……? ピストン……?」
「シッ! ……見られている」
「――ッ!?」
「恐らくは、君を追い掛けたと言う人間だろう。……振り返ったら、一気に捕まえてくる。君はこのまま、離れた場所にいるアレクセイと合流してくれ」
――いいな、と。
エリーゼへと目で合図を送り、僕は静かに呼吸を整える。
『気ぃ付けい、ピストンはん』
シェザラーナの忠告が脳裏に過る。
さて、魔が出るか蛇が出るかだな……。
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