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006 取り合えず、ヤッてみよう!


 盗賊より奪ったシミターを後ろ手に隠し持ちながら、僕は村の入り口へと進んでいく。


 此処が正門なのだろう。

 木の枠で出来た簡易的な門には、大きく【シケタ】という村名が記載されている。


 その下には、見張り役として男が二人立っていた。


 どちらも強面の人相をしている荒くれだ。

 村の者で無いのは一目瞭然。


 盗賊の中でも、こんな留守番の様な任務を言い渡されるのは下っ端と相場が決まっている。



 僕は軽く「フン」と鼻を鳴らしながら、彼等へと近付いた。



「すいません。ちょっと、そこの村に用事があるんですけれど」


「あぁ!?」



 人畜無害な青年を装い、物腰を低くして男へと声を掛ける僕。



「駄目だ駄目だ!!」


「今は取り込み中なんだよ! とっとと消えな!!」


「そうですか……困ったなぁ。お祖母さんに贈り物を持って来たのに……」


「贈り物だぁ?」


「はい。誕生日に宝石をと」


「……値の張る奴か?」


「おい! ちょっと見せて見ろよ!」



 掛かったな。容易い連中だ。


 僕は心中でほくそ笑みながら、握ったままの右手を差し出す。



「この手の中に宝石が――あったら良いなあッ!!」


「ぐぎゃ――ッ!?」



 視線を下に誘導された男は、脳天に迫る凶刃を避ける事は出来ない。


 頭を割られて、血を撒き散らしながら倒れ伏す。



「な! て、テメエッ!!」


「はっはっはッ!! 容易い! 容易いッ!!」


「――かひゅっ!」



 仲間をやられて動揺する男の喉目掛け、左手のシミターが銀閃を煌めかせる。


 ……喉だけを割くつもりだったのだが、勢い余って首を飛ばしてしまった。


 これが攻撃力130の威力なのだろう。


 そして案の定、見張りの連中は大した事が無かった。


 常にステータスを表示した状態で戦っていた僕だが、その数値は微動だにしていない。


 レベルアップは出来なかったか。

 まぁ、そう上手くはいかないよな。


 事前に鑑定スキルで男達のステータスも確認していたが、盗賊という割に素人に毛が生えた程度の貧弱っぷりだ。


 全部が全部、あんな連中なら僕も楽で良いんだけどな。



「さて、と」



 アメル君は村の反対側に回り込めたかな?

 

 奇襲・陽動・殲滅は僕が担当。

 足の怪我が治ってきた彼女には、どさくさに紛れての村人の避難をお願いしていた。


 人質に取られたら厄介だからね。

 僕の役割は、敵の注意を派手に引く事。

 

 ならば、と――僕は大きく息を吸い込んだ。



「どうしたどうした盗賊共!? 仲間をやられて気付きすらしないとは大した低能振りだなぁ!! とっとと気付け! この僕が――ただのピストンが出向いてやったぞ!!」







「うひゃぁ!? こ、この声……さっぎの奴だぁ!?」


「チッ! もう正規兵を連れてきやがったのか!?」


「い、いえ、それがどうやら一人の様で……」


「はぁ!?」


「ほ、本当ですよ! チラリとしか見ていやせんが、周囲には他の兵なんて連れていやせん!」


「だったら、さっさとぶっ殺せ!!」


「そ、それがあの野郎、やたらと強くて……!」


「……チッ!」



 使えねぇ!


 所詮は身を崩した平民崩れ。

 烏合の衆!


 曲がりなりにも、元騎士だった俺とは比べ物にもならねぇか。


 たった一人の襲撃者にこうもビビっちまうとは、情けねぇにも程があるぜ!!


 ……やっぱ駄目だな。


 これからは、小さい盗賊団は生きちゃいけねぇ。


 付近の村から掻っ攫った戦利品。女子供を売って作ったエーロ通貨を合わせりゃ、俺も噂の≪ 黒霊死団(こくりょうしだん)≫に入る事が出来るだろう。


 そうなったら、こいつらはお払い箱だ。



「何見てんだよ、テメエ等……」


「え、いえ、その……」


「行けよ! たった一人の襲撃者なんだろ!? テメエ等が行って殺して来いよ!!」



『――は、はいぃ!!』



「チッ、馬鹿共が……」



 俺はチラリと、縛ったままの状態で放置していた村の連中へと振り返る。



「おい、お前は待て」


「は、はい?」



 慌てて駆けて行こうとする手下の一人を呼び止め、村人の連中を指差してやる。



「念の為だ。逃げ出さねえ様、見張っておけ」


「は! ……(かしら)は?」


「決まってんだろ? 無能な手下の尻拭いだよ」



 吐き捨てる様に言ってやると、目の前の手下はビクリと身体を震わせる。こういう情けねぇ態度が、更に俺を苛立たせるという事を、こいつ等は分かっちゃいねぇ。


 嫌になるぜ、弱い連中ってのはよぉ……。


 襲撃者のいる方向と言うのは、簡単に分かった。

 俺の手下のうるせえ叫び声が目印だ。


 断末魔と言っても良いか。

 どうやら、襲撃者が手練れだと言うのは本当らしい。


 腹を掻きながら、おっとりとした足取りで現地へと向かう俺。


 そこには、一人の男が居やがった。



 黒くて艶のある髪は長く、しかし、無精な感じはしない。


 白いシャツに黒いズボン。シンプルな出で立ちだが、服の所々に刻印された金の刺繍から作りの良い物を着ている事が窺える。恐らくは、貴族……いや、一人で行動している所を見るに、貴族崩れの人間なのかも知れない。


 若くて顔立ちも良い。


 俺の嫌いなタイプの人間だった。



「おーおー、好き勝手やってくれてんなぁ!?」


「!」



 手下の一人を切り伏せたタイミングで、俺は奴に話し掛ける。


 驚いた顔は一瞬。


 ようやく来たかと言わんばかりに、奴は唇を弧に歪める。



「ひー、ふー、みー……おいおい、もう八人も殺ったのか? 俺の手下が半分以下になっちまったなぁ」


「村の外で二人と、入口で二人殺したから、正確には十二人だな」


「十二? っつーと……あら? ほぼ全滅? ちゃんと数えた事は無かったがー、生き残ってるのは俺含めて……二、三人?」



 顎髭を手で摩りながら、俺は金勘定をするように頭の中で算盤を弾く。



「――まいったな。手間が省けたわ」


「ぬッ!?」


「――ひゅう♪ やるぅっ♪」



 腰から取り出した短刀を奴目掛けて投げ付けるも、手に持ったシミターで弾き飛ばされた。完全な奇襲のつもりだったんだが、上手くは行かなかった様だ。残念残念。


 が――足は止められた。



「!!」



 瞬時に間合いを詰め、奴へと肉薄する俺。



「ステータスの高さが自慢なんだろうが、教科書通りの剣術じゃ、俺は殺れねぇよッ!!」


「なん、とぉ――ッ!?」



 一気呵成。剣を振り回して攻勢に出る俺に対し、奴は目を丸くして剣線を防ぎに来る。



「防御は苦手か! テメエ、実戦経験薄いだろ? 振り回してやってるのが理解出来るかぁ!?」


「こ、コイツ……ッ!」


「ハッハッハ! 楽しめよぉッ!! ハッハッハッ!!」



 俺の剣が、奴の頬を掠める。

 切ったかと思ったが、そこは赤く線を作ったのみ。


 ……コイツ(シミター)も大概ナマクラだな。


 こりゃあ、後で買い替える必要があるぜ。


 そんな事を考えていた時だ。



「――」


「ほぉ?」



 呼吸を落ち着かせ、静かに防御の姿勢を取る男。


 一発狙いか。


 悪くはねぇ手だが……。

 コイツ、自分の力量を分かってるのかね?


 一発を狙うなら、相手の急所に違わず当てる技量が必要だ。


 当然、敵は躱してくる。

 動く標的を相手に、素人が一発狙いを成功出来る筈がねぇ。



 ――俺なら、出来るがな。



「面白れぇ」



 剣を構え、奴へと向かい合う。


 一生懸命考えたんだろう。

 逆転の一手を。


 こういう奴には、己の分って奴を教えてらやなきゃ気が済まねぇ。


 勝てる気でいるってのかい?

 この俺に対して?



「ククク……」



 ――実力を思い知らせて、殺してやる。



「ぶっ死ねぇッ!!」



 動こうとしない奴の代わりに、此方が先手を取ってやる。

 どうせカウンター狙いだろう?


 どう動こうと対応して、急所にこの剣をぶっ刺してやる!!


 狙うは奴の首。

 迫る凶刃を前にして、奴はピクリとも動こうとしない。


 ブルったか!?

 馬鹿め、もう間に合わねえぞ!!


 振り切った刃は狙い違わず、奴の首側面に吸い込まれ――



 ――奴の()()に阻まれ、その剣先は空に滑る。



 お読み頂きありがとうございます\\٩( 'ω' )و//


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