005 チャージは大切
彼女の名はアメル=レイテ。
近隣にあるという、シケタ村からやってきたと言う。
盗賊の一味が村を襲い、最も足が速かった彼女が外部に助けを求めに来たのだ。
しかし、途中で盗賊の追手に追い付かれ……。
「そこで、僕が君を助けたという訳だな」
「は、はい……その、貴族様には何とお礼を言ったら……」
「ん? あぁ、違う違う」
「?」
「僕は貴族では無い」
「え? でも、そのお召し物……」
「訳あって廃嫡された身だ。今は君と変わらん平民さ」
「訳あって……? あ――」
「どうした?」
「い、いえ、何でも……多分私の勘違いだと思いますので!」
「はぁ……」
「きっとさっきのは見間違い、きっとさっきのは見間違い……ッ!」
後ろを向いて、ぶつぶつと何事かを呟くアメル君。
何と言うか、変わった子だなぁ。
「……君の話が事実だとしたら、今の状況は少し不味いな」
「え!?」
僕の言葉に、振り返って驚くアメル君。
「さっき、一人取り逃してしまっただろう? 盗賊と言うのはリスクを嫌う。逃げた奴の報告を聞いたら、すぐさま連中は村を撤収するだろう」
「それは――良い事なのでは……?」
「村の人間を攫われてもかい?」
「!?」
「盗賊と言うのは人攫いだってやる。金目の物が期待出来ない田舎の寒村に奴等が現れるのは、そう言った目的が大半だ。女子供は売り払われ、邪魔な老人は口封じに殺される。今はまだ"遊んで"いる最中だろうが、尻に火が付けば行動も早い」
「……」
「正直言って、助けを呼んでいる暇は無いと思う」
僕がそう言うと、アメル君は顔を青くさせて押し黙る。
やれやれ……。
まぁ、盗賊を取り逃がしたのは僕の責任でもあるからな。
「安心したまえ。盗賊の討伐にはこの僕が動こう」
「貴族様が……?」
「だから貴族では無いと言ってるだろうに……」
「あ、す、すみません!」
「……ピストンだ」
「え?」
「僕の名はピストン。ただのピストンと呼びたまえ」
家名は消えた。
もう二度と、セクスとは名乗らない。
「村への案内を頼む。――さ、急いで行こう!」
◆
アメル君を背に背負い、道を誘導される事20分。
「もうそろそろです! あそこ! あの集落が私の村です!」
「む、そうか!」
目視で確認した。
見た感じ喧騒も、火の手も上がってない様子。
道中で取り逃した盗賊の姿を見付ける事は出来なかった。
恐らくは報告事態は行ってしまっているだろう。
連中に動きが無いのは、僕達の行動が速かったからか?
「……過信は出来ないな」
言いながら、僕はその場で立ち止まると、アメル君をその場に降ろし、脇にある林へと立ち行っていく。
「ピストンさん?」
「すまない、少し時間をくれないか?」
「あぁ、はい……」
不承不承と言った顔で、アメル君は頷いて見せる。
村が目の前に見えたのだ。
彼女としては一刻も早く、盗賊達から村人を救いたいと思っているのだろう。
気持ちは分かる。
なればこそ、早めに済まさないとな。
「――よし」
太さ、堅さ。共に申し分なし。
手頃な樹を見付けた僕は、気合一発。刮目し、目の前の樹に向かって腰を振り始める。
カクカクカクカクカクカクカクカク――ッ!!
「ちょ!? ピストンさんッ!? こんな時に何をッ!?」
その姿を目撃したアメル君は驚き、咄嗟に両手で顔を隠しながら、此方に向かって叫び声を上げてくる。
やはり言われるよな。
しかし、僕も此処で止まる訳には行かない。
「必要な事なんだ! 黙って見ていてくれ!!」
「必要って……えぇ……」
どうやら彼女は、未だ納得が出来ぬ模様。
どう言えば伝わるのだろうか。
加護の内容は話したくない。
内容を話さずに、相手を納得させる言葉――
「ソレをしないと、ピストンさんは戦えないんですか……?」
「ッ! ――そうだ!!」
腰を振りながら口籠っていた僕に対し、アメル君は恥ずかしそうに視線を下にやり、これ以上ないベストな問いを返してくれる。
「けれど、だからって何も地面や樹を相手にしなくても……」
「む? 地面や樹以外、何を相手にするんだ?」
「それはその、そういうお店に行くとか……」
「……アメル君」
彼女の言葉に、僕は首を横に振る。
僕だって、好き好んで地面や樹に腰を振っている訳じゃない。
此処は、訂正しておかなければいけないだろう。
「――僕は、無機物以外だと駄目なんだ」
「……」
そう言うと、彼女から表情は消え、何も言って来なくなった。
僕の辛さが分かってくれたのだろうか?
神より授かった【愛淫の加護】は強力だが、守らなければならない制約は多い。
試した事は無いが、発動条件に"壁"に向かって腰を振ると書いてある以上、生物ではその効果は出ないのだ。
ステータス上昇が10分という制約を解消する為、戦闘の際に敵に向かって腰を振り、ステータスを上昇させ続けるという天才的な荒業を思い付いたのだが、この条件の所為でお蔵入りになってしまった。
全く、ままならないとはこの事だ。
……そうこうしている内に、10分間の腰振りは完了する。
腰振りと。直球のまま言うのも芸が無い。
僕は一連の作業に"チャージ"という名称を心の中で付ける。
ちなみに、今回チャージする前のステータスが、これ。
―――――――――――――――――――――――――
[ピストン=セクス LV.5(+3)]
総戦力:250(+66)
生命力:90/90(+12)
魔法力:25/25(+7)
攻撃力:43(+17)
防御力:32(+15)
素早さ:31(+9)
賢 さ:23(+8)
幸 運:6(+3)
スキル:解析LV.1
―――――――――――――――――――――――――
盗賊を二人倒した事により、レベルが三つも上がっていた。
魔物を倒す以外でもレベルは上げられるんだな……。
これは、知らなかった事実である。
上昇数値の合計は60。
腰振り600回の永続効果で+6。
腰振りの回数はもう少し上げる事が出来るのだが、安定性を取って今回も1秒1回の速度。
攻撃力を中心に【戦士型】としてバランスよく成長しているな。
目を引くのは新たに追加されたスキル欄。
そして、習得したスキルの【解析LV.1】だろう。
確か、相手のステータスを確率で覗き見る事が出来るスキルだったかな。自身より高ステータスだと失敗の確立も上がるみたいだけれど、コレは中々に嬉しい。
積極的に使用して、スキルレベルも上げていきたい。
このステータスに、チャージ分を加算すると……。
―――――――――――――――――――――――――
[ピストン=セクス LV.5]
総戦力:850(+600)
生命力:260/260(+170)
魔法力:55/55(+30)
攻撃力:133(+90)
防御力:207(+175)
素早さ:101(+70)
賢 さ:83(+60)
幸 運:11(+5)
スキル:解析LV.1
―――――――――――――――――――――――――
こうなると言う。
うーん、成程……今回は生命力と防御力に偏ったな。
前回チャージした時は素早さが171あったので、今回はそれよりは劣ってしまっている。
――が、全体的に見ればこれはこれで悪くは無いだろう。
相変わらず幸運値の伸びが悪いのに若干の引っ掛かりはあるが……今は別に必要でもないから、良しとしとこう。
想定される戦闘は多対一である。
であれば、防御特化は望む所だろう。
「準備は万端! ――さぁ、ヤリに行こうか!!」
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