004 初めての戦闘
さて、景気よく啖呵を切ったのは良いが、果たして勝てるかどうか……。
目の前にはいきり立つ悪漢が三人。
この僕、ピストン=セクスに対し臨戦態勢を取っている。
敵の装備する刀剣はシミターか。
武器商ではよく見かける曲刀である。
多く流通しているという事は、それだけ人気があるという事だ。短剣よりは使えて、長剣よりは安い。人一人、それも素人の人間を解体するだけならば、そんなもので充分なのだ。
対する此方は空手である。
武器の攻撃力補正などは皆無。
装備のみを比べれば、圧倒的に不利な状態であった。
――問題はステータス差だろう。
仮にも、セクス家次期当主として英才教育を受けていた身である。例え無手であろうとも、貧民上がりの盗賊に負ける気はなかった。
しかし、そんな小手先の技術を覆すのが、神による祝福。
ステータスの差である。
歴戦の兵がステータスの高い素人兵に負ける事など珍しくも無い。
神からの寵愛の差は、残酷なのだ。
……先程まで腰を振り続けていたおかげか【愛淫の加護】のバフはMAXまで上がっている。
一時的ではあるが、ステータス値は+600を示している筈だ。
念の為、確認はしておくか……。
―――――――――――――――――――――――――
[ピストン=セクス LV.2]
総戦力:784(+606)
生命力:283/283(+206)
魔法力:58/58(+40)
攻撃力:116(+90)
防御力:77(+60)
素早さ:172(+150)
賢 さ:55(+40)
幸 運:23(+20)
―――――――――――――――――――――――――
1秒1回のペースで600回腰を振り続けた事により、永続上昇が6付いている。
相変わらず、凄いな……表示されたパラメーターは、とてもLV.2の戦士のものとは思えない。
魔法力に+40程数値が振れてしまったのは痛いな……。
魔術の勉強はしていたが、今の所魔法スキルは何も覚えちゃいない。
完全に無駄になってしまっている。
出来れば防御力に特化して欲しかったのだが、ステータスを見るに、素早さが最も上昇している様だ。
個人的には、それでも中々な高ステータスだと踏んでいるのだが、何分他人と比べた事がないので分からない。
そもそも、祝福を受けた状態での戦闘自体が始めてだからな。
内心では不安も感じていた。
けれど――と、僕は怯えた様子でしゃがみ込む、少女の姿を横目で見やる。
僕にだって男として、元貴族としての意地がある。
「おらぁあああああああッ!!」
「!」
威圧する様な雄叫びを上げ、シミターを掲げながら、先頭の悪漢が僕に向かって突進してくる。
上段からの斬り下ろしか。
一目で予測が付く行動は、実戦に慣れない内はありがたい。
と、いう訳で――ありがたく小手を蹴り上げる。
「あ!?」
衝撃で取り零した曲刀は宙をくるくると舞い――僕の手へと吸い込まれる様に渡ってくる。
「――少し、出来過ぎだな?」
「あばっ!!!」
苦笑しながら、シミターの刃を悪漢の頭部へと落とす。
ステータス差の所為だろうか?
手応えを全く感じずに、相手の頭部を両断出来た。
「よし、次!」
叫び、残りの悪漢に向けて手招きをする僕。
チャッチャと行こう。
チャッチャと。
技術の差による優勢か、ステータスの差かは分からないけれど【愛淫の加護】のステータス上昇は10分と時間制限付きだ。
今この瞬間にも、僕のステータス値は下がっている筈。
時間を掛ける訳にはいかなかった。
「ひ、ひえぇぇッ!!」
「調子に乗りやがって……」
一人は及び腰となってしまった様だが、もう一人、三人の内のリーダー格と思しき男は僕の挑発に引っ掛かる。
とは言え無策で逆上して襲い掛かってくるという訳ではない。仲間が一人やられている所為か、その動きは亀の様に慎重だ。腰を落として構えを取り、じりじりと此方の間合いを詰めてくる。
……やり難いな。そう思った僕は"賭け"に出る。
「なッ! 速ッ!?」
「――シッ!!」
素早さ特化を生かした、速攻戦術。
一足飛びで間合いを詰めた僕は、右へ左へとステップを踏み、悪漢を速度でかく乱する。
「~~糞がッ!!」
目の前に現れた僕の顔に、曲刀を振るう悪漢。
だが残念。
――手を出させるのが目的なんだよなぁ!?
首を傾けて刃を躱し、ガラ空きとなった相手の首へ、お返しとばかりに曲刀を振るう。
……これで二人目だ。
悪漢の身体が崩れ落ちる音を背後で聞きながら、僕は最後の一人へと視線をやり――
「……あれ?」
そこに、誰もいない事に気が付いた。
「怖気付いて逃げたか? まぁ、正しい選択だな」
呟きながら、僕は戦いを見守っていた少女へと振り返る。
桃色の帽子に白いアルカンナの花飾り。長い髪を三つ編みに垂らしているのが特徴か。服装は平均的な農場娘の衣装と言った感じ。足首を捻っているのだろう。手で抑えて立ち上がれずにいるので、この僕でもすぐに分かった。
「君、大丈夫かい?」
「ひゃ、ひゃい! こっちは大丈夫ですッ!」
何か、話し掛けたら一瞬ビクッとされた気がしたけど……まぁ、大丈夫というのなら、気にしないでおこう。
「災難だったな。アレは、人攫いか何か?」
「盗賊です。村を襲ってきた……あッ!」
「ん?」
「そうだ私、助けを呼んで来ようと! 村の皆が……!!」
「落ち着け! ちゃんと聞くから、冷静に話してみろ!」
「は、はい……」
取り乱す少女を一喝し、彼女の事情を聞いてやる。
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