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021 炎のピストン


 頭でもおかしくなっちまったのか、あの兄ちゃんは!?


 溶解液が浸ってる地面に伏せたと思ったら、今度はそこで腰を振りやがった。


 生命の危機を感じた時、男は子孫を残したがると言うが――何もこんな状況で地面相手にヤらなくても良いだろう!?


 ちょっとばかりステータスが高ぇからって、期待するんじゃなかったぜ。


 ありゃあ、ただのド素人だ。


 冒険の"ぼ"の字も知らねえ若造。


 くそッ!


 何だって俺はそんな奴と死ななきゃいけねぇんだ!!



「欲……掻かなきゃ良かったなあ……」



 後悔、後に立たず。

 毒が回って来たんだろう。


 手足が痺れて、碌に動く事すら出来ねぇ。


 ステータスを見るのが怖えなぁ。

 俺は後、どの位意識を保っていられるんだ?


 生命力が0になると、強制的に意識を失う。完全に無防備になったその時、俺は植物の養分になるんだろう。


 畜生、怖え。


 怖えよぉ。



「ん……?」



 怯えていて、気付かなかった。

 兄ちゃん……ピストンが、俺の道具袋を漁ってやがる。


 無駄な足掻きだ。


 大したもんは何も入ってねぇよ。



「……おい」


「何だ?」


「毒消しでも探してんのか? 無駄だよ。そん中にゃ薬草の一つも入っちゃいねぇ。あったら真っ先に俺が使ってるからな」


「別に、そんなものは探しちゃいない」


「はぁ……? なら何を……いや、もう何でも良いかぁ……」


「なぁ」


「あん?」


「――この鉄板は?」


「何だよ、うるせぇな……」



 段々と、こいつと話すのも面倒臭くなってきた。


 頭がボーっとする。



「おれのよろいの、ほしゅうざいだよ……」


「……」



 呂律の回らない言葉でそう返してやると、奴は鉄板に視線を落としながら「ヤれるのか……いや」と、何かをブツブツと呟きやがる。


 ヤるって何だよ。ヤるって……。


 この状況で何が出来るっつーんだ。


 馬鹿馬鹿しい……。



「……ふぇ?」



 目を閉じようとしたその直前。

 俺の目の前にとんでもない光景が見えた様な気がした。


 慌てて首を持ち上げる俺。



「な、何やってんだ!? 兄ちゃん!?」


「黙って見ていろ……」


「はぁッ!?」



 道具袋から取り出した鉄板を地面へと差し、一心不乱にソレに向かって腰を振る兄ちゃん。


 黙って見ていろっつったって……ッ!


 声を失うってのはこういう時の事を言うんだろうな。


 時と場所を考えろとか。


 俺の私物に汚ねぇモン押し付けんなとか。


 頭狂ってんのか、とか。


 色々言いたい事はあるんだが――



「ははは……ははははは! はっはっはっはっは!!!」


「――」



 カクカクカクカクカク――ッ!!!



 目の前で狂笑を浮かべながら、一心不乱に腰を振る男を目の前にすると――何の声も出せなくなっちまう。



「何なんだ……」



 それは咄嗟の行動だった。

 意識して、何かを考えてやった事じゃねぇ。


 俺は、目の前の兄ちゃんに【解析】スキルを使用していた。


 そうして――見た。


――――――――――――――――――――――――――


[ピストン=セクス LV.12]


 総戦力:880


 生命力:85/180

 魔法力:80/80


 攻撃力:232

 防御力:153

 素早さ:110

 賢 さ:85

 幸 運:40



 スキル:剣術LV.1 性魔術LV.1 解析LV.1 


――――――――――――――――――――――――――


 ステータスが……上がっているッ!?


 さっき見た時は、総戦力580だっただろうが!?


 短期間に何で+300されてやがんだ!?


 レベルが上がった訳じゃねぇ。


 なら――



「加護の力か……ッ!?」



 だが、こいつはギルドで無能の加護と鑑定された筈!!


 鑑定石ですら、測る事の出来ない加護……ッ!?


 そんな事が――ある筈が――



「良いぞ良いぞ!! 溜まっていくぅ!! これだ!! この感覚が最ッ!! 高にッ!! 気持ち良いんだぁッ!!!」


「あ、あわわわ……」



 突かれる度に悲鳴を上げる様にギシギシと揺れていた鉄板が、奴の硬いモノに中央から突き破られてしまう。


 化物だ。

 間違いない、こいつは――化物だッ!!



「何なんだテメエはぁああああ――ッ!!?」


「うおぁぁあああああ――ッ!!!」



 咆哮すると同時に、その場で回転斬りを放つピストン。


 首が持っていかれそうになる風圧を喰らいながら、俺は頭上の葉が両断される様を目撃する。


 俺が全力でやっても、薄皮しか切り裂けなかったあの葉がだ。


 剣風だけで、こいつはヤッたのか!?



「……レベルが上がったな」


「!?」



 慌てて俺は、兄ちゃんに向かって再度【解析】を使用する。


――――――――――――――――――――――――――


[ピストン=セクス LV.18]


 総戦力:1300


 生命力:70/310

 魔法力:100/100


 攻撃力:300

 防御力:233

 素早さ:152

 賢 さ:155

 幸 運:50



 スキル:剣術LV.1 性魔術LV.1 火属性魔術LV.1

      魔法剣LV.1 解析LV.1 


――――――――――――――――――――――――――


 レベル+6……。

 いや、そんな数値の上がり方じゃねぇ。


 総戦力1300って。

 それって、最早Aランク冒険者並みじゃ――



「火属性か……試してみるか」


「!」


「はぁあああああッ!!」



 ピストンの掌から、炎の球体が出現する。

 火属性LV.1で使用できる魔術――ファイア・ボールだ。


 魔術の威力は、賢さの数値に依存する。


 低級であるファイア・ボールの威力倍率は低いが、ピストンの奴の賢さは155もありやがる。


 低級であって、中級の威力は出せるだろう。


 それを――奴は己の獲物に纏わり付かせた。



「ま、魔法剣……!」



 レア度の高いスキルだ。

 魔剣士の素質が無ければ、覚える事の出来ねえスキル。


 賢さ×魔術倍率+(攻撃力÷2)=つまりつまりつまり――



「喰らぇええ――ッ!!」



 ――超絶火力。


 ファイア・ボールを纏ったシミターを地中にあるキンダーバインの本体へと突き刺した瞬間、爆風が巻き起こる。


 剣に封じ込められた熱気が、一気に吹き出たのだろう。


 毒の煙や神経ガスを掻き消しながら、赤熱した刀身はキンダーバインを燃やしていく。


 暗い洞窟内を眩しく照らす、炎の輝き。


 だがこれは――



「く、空気が無くなる!!」


「! なら、逃げるぞ!」


「あ、ちょっ!? ま、待ちやがれ!!」



 燃えるキンダーバインを尻目にしながら、その場から駆け出すピストン。俺も――何処にそんな力があったのか、生きる希望が湧いた途端、置いてかれねぇ様に奴へと続くんだった。



 お読み頂きありがとうございます\\٩( 'ω' )و//


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