第27話 リンゴ食べたい
「38度9分か、ただの風邪っぽいな」
「まいねぇ、大丈夫?」
「大丈夫よ……すぐに良くなるから……」
明らか、大丈夫そうには見えんがな。
「とりあえず、家まで運ぶか、すぐだしな」
「でも、家には誰も居ないよ」
「……それは、ホントか愛?」
「うん、仕事で3日ほど、戻らないって」
困った、看病する人が居ないってことか。
それに運よく明日熱が下がったしても、下がらなかったら面倒なことになるし、仕方ないか。
「愛、今日は俺の家に泊れ、舞も今日はこっちで寝させよう。
で、明日1日、俺が看病するから、お前はちゃんと学校行けよ」
「それなら、愛も看病する!」
「ダメだ、お前は中3で部活のほうも最後の大会へ向けた大事な時期だ。
投打の中心のお前が居なきゃ、練習にならん」
「わかったよぉ」
そうすねるなって……
ふぁ~、眠いぜ。
朝練以外の目的でこんなに早く起きたの久しぶりじゃね?
朝食は適当にすませた、学校にも連絡入れた。
よし、後は舞の体調が良くなるのを待つだけっと。
「よく、寝てるな」
薄明りで眠る、美少女はなかなか、絵になる。
……俺は何考えてんだ?
「でも、改めて見るとキレイ顔してるよなぁ」
眠っている、舞の顔を覗き込みしみじみ1人呟く。
これで、性格がもう少し大人しかったら……いかん、相手は今寝ているんだぞ、煩悩滅却っと。
状況を間違えば俺は確実に変態だ。
「ん……?」
やべぇ、起きちゃいましたよ。
しかも、完全に目が合った。
「あ……よっよう。
気分どう?」
「……変態」
起きて一言目がそれかい!
しかも、布団で顔隠して背中を向けられました……
おかしいな、俺っていいことしてるはずだよな?
「なんか、食べるか?」
「いらない……」
「でも、なんか食わないと治らないぞ」
「……」
舞は依然として背中を向けたまま。
……出て行けってことですか?
「分かった、分かった。
出て行くよ、ゆっくり寝とけ。
何かあったら呼べよ」
「え? まっ待ってっ」
力の無い、細い腕で服を掴まれた。
「なんだ?」
「リンゴ食べたい……」
昼のスーパーは思っていたよりも人が少なかった。
つーか、リンゴってなぁ。
あいつ、リンゴ好きだったっけ?
「これでいっか」
果物売り場のリンゴを1つ適当に選んで、家へと帰った。
「皮をむくのって小学校の家庭科の授業以来だな」
よし、どれくらい長く出来るか試し……10㎝で終了だと?
……くだらないことしてないで、早く舞に届けてやろう。
「ほれ、ご希望のリンゴだ」
「ありがと……」
舞は出されたリンゴをつまようじで口へと運ぶ。
「上手いか?」
「……身が少ない」
「わがまま言うな」
「だって、ホントのことだもん」
まだ、遅く弱い声だけど、体調が少しは回復したみたいだ。
額から染み出た汗が舞の毛先を濡らし、女としての色っぽさを増幅させていた。
いかん、いかん。
よからぬことを考えている場合じゃない、相手は一応病人だぞ。
「どうかしたの……?」
舞の言葉に引き戻された俺は慌てて首を横に振った。
「また変なこと考えてたの……?」
「または余計だ」
「ねぇ……ちょっとこっち来て」
っ? なんだ急に
「うわ!」
舞に手を取られ、引きずられる形でベッドに舞とダイブ。
腕には舞の体のラインがハッキリと分かるぐらい密着している。
そう、ハッキリとだ。
「えーっと、離してくれるかな?」
恥ずかしすぎて、目を見れねえ。
「功はもしも、功が考えること何をしてもいいよって、言ったらどうするの?」
おいおい、こいつは何言ってんだ!
自分がやばい発言してることに気づいてないのか!?
「頼むから、離れてくれ」
「あたしを見て」
アホなこと言うなぁぁぁあ!
すでに、理性は臨界寸前だぞ!
直視すれば間違いなく理性が壊れ……
「お願い……」
……普段強気な女の子にそんな弱々しくお願いされたら、断れません。
持ってくれよ、俺の理性の防波堤。
「なんなんだ、突然?」
「功の顔、見たかっただけ」
それだけの理由に俺の理性を攻撃するな。
「毎日、見てる顔だろ?」
「……だって、寂しかったんだもん」
こいつ、熱にうなされて自分が何言ってるか分かってないんじゃね?
それに、俺の理性、限界突破だよ……
「舞、俺ホントにもう「スースー……」は!?」
物凄い可愛い寝顔で寝てるよ……離れてくれそうにもないし。
うん、あれだ、こいつの発言は無かったことになったんだな。
OK、それでいこう。
にしても、今日は早起きだったから眠いな。
少し、俺も寝るか。
脱出不可だからこのままで。
Side 斉藤 舞
「ん?」
なんか、功に抱きついてた夢を見……!?
どうしよ、ホントに功に抱きついて寝てる!
なんで、なんで!?
この状況に至るまでの過程が全然思い出せない。
どうしよ、変なこと言ってたら……にしても。
「無防備な女の子の横で平然と寝るとはどうゆうつもり?」
眠っている功の横顔を指でつついて呟く。
そりゃ、寝込みを襲うのはいけないけど、堂々と寝られると異性として見てもらえて無いみたいで結構ショック。
あたしは、今こんなにも心臓が高鳴っているのに。
「……君のことが大好きです。
他のものは目に入らないくらい」
いつか、君はあたしの思いに気づいてくれるかな?
もしかしたら、今のままかも知れない、だから……
今だけ、この時だけはあたしだけの君で……
Side out
次の日、風邪の治った舞の代わりに功が風邪をひき2日続け学校を欠席した。