1章 3話 面白い行動
最初は、ただの絶望だった。
——1回目。
何もできずに終わった。
一瞬で、首を刈られた。
——10回目。
逃げた。
でも意味はなかった。
どこに行っても、追いつかれる。
“位置”じゃない。“存在”を見られている。
——100回目。
殴った。
刺した。
武器も試した。
結果——
「……効いてねぇ」
手応えが、ゼロだった。
——1000回目。
ようやく“気づいた”。
「……こいつ、“そこ”にいない」
目の前にいるのに、存在がズレている。
触れているはずなのに、触れていない。
だから——
当たらない。
***
——そして。
1万回目。
「はぁ……はぁ……」
息が荒い。
当然だ。
死ぬたびにリセットされても、“感覚”は残る。
痛みも。恐怖も。絶望も。
全部、積み重なっていく。
「……普通なら、とっくに壊れてるな」
でも——
「慣れた」
それが一番、ヤバかった。
目の前には、あの化け物。
ノイズみたいに揺れる身体。
顔のない“それ”。
「——」
無音で、踏み込んでくる。
速い。
でも——
「見えてる」
俺は、一歩だけ横にズレた。
“完全に同じ動き”はしてこない。
毎回、微妙に違う。
だからこそ——
「パターンがある」
右腕が来る“確率”が高いタイミング。
踏み込みの“癖”。
ノイズの“揺れ方”。
全部、覚えた。
全部、見た。
全部、死んで知った。
「——遅い」
初めて。
攻撃を、回避した。
その瞬間。
化け物の動きが止まった。
「……あ?」
ノイズが、乱れる。
明らかに、“想定外”の反応。
「なるほどな」
確信する。
「お前、“対処できる範囲”でしか動いてないな?」
つまり——
予測外の動きに弱い。
「だったら——」
次の瞬間。
俺は、自分の首に手をかけた。
「——え?」
遠くで、あの女の声がした気がした。
「これも、“予測外”だろ?」
そのまま——
自分で、自分の喉を潰した。
***
「——はっ!」
教室。
夕焼け。
「……成功、だな」
今の一手で、わかった。
あの化け物は、“未来をある程度読む”。
だから普通に戦えば、絶対に勝てない。
でも——
自分すら予測できない行動なら?
「崩せる」
口元が歪む。
「やっと、“ゲーム”になってきた」
その時だった。
「……やば」
教室の後ろ。
あの女が、ドン引きした顔で立っていた。
「君……それ、やるんだ……」
「勝つためならな」
「いや普通やらないから。引くわ」
そう言いながらも、女は笑っていた。
「でもいいね」
一歩、近づいてくる。
「やっと、“主人公っぽくなってきた”」
「……どういう意味だ」
「この世界、“観測されてる”んだよ」
「は?」
「強いとか、賢いとかじゃない」
女は、楽しそうに言う。
「“面白い行動をしたやつ”が、生き残る世界」
背筋が冷える。
「……クソみたいなルールだな」
「でしょ?」
女は笑う。
「だから——」
指を、俺に向ける。
「君、今めちゃくちゃ“注目されてる”よ」
その瞬間。
天井に、“目”が現れた。
無数の。
こちらを覗き込む、目。
「……は?」
「観客」
女はあっさり言った。
「このゲームの、ね」
理解した瞬間。
寒気じゃない。
ゾクッとした。
「……いいじゃん」
俺は、笑った。
「見てんなら、楽しませてやるよ」
その日。
俺はただの生存者から——
“魅せる側”に変わった




