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第15話 工房の設立

 改築した騎士団の宿舎は領内ですぐに話題になった。

「あの古かった宿舎が急に綺麗になったそうだ。」

「職人を大勢雇ったのかな?」

「いや、フェアチャイルド家のウィリアム様がスキルで直したそうだぞ。」

「スキル?建物を修復するスキルなんてあったっけ?」

「生産スキルだそうよ。」

「生産スキルって、そんなことができるんだ。」

「どうやらウィリアム様の生産スキルはケタ違いらしいんだ。お作りになる家具も凄い出来栄えらしいよ。」

 辺境ではたいして新しい事件はないので、噂はすぐに広まっていく。

 そして、噂を聞いてすぐに具体的な行動を起こした者たちもいた。


 「ぜひ弟子にしてください。」

 目の前にいる屈強そうな若者たちを前にして、僕は困惑していた。

 「父上、この人たちは一体?」

 「ああ、ウィルの生産スキルが凄いという噂が領内に広まったようでな。この者たちは職人の息子たちなのだ。」

 若者たちは熱を帯びて話す。

 「俺は生産スキルというと小さなモノしか作れないと思っていました。それが、あんな大きな仕事ができるなんて感動しました。」

 「ウィリアム様の家具は物凄く精巧な装飾です。私はたまたま見る機会があったのですが、あれは家具の未来を拓くものです。」

 いや、褒めてくれるのは嬉しいけれど、僕はまだ子どもだ。

 困っていると父上が僕の肩にぽんと手を置いた。

 「ウィル、自分はまだ子どもなのに、と思っているだろう。」

 さすが父上、よく分かっていらっしゃる。

 「だがな、ウィルの才能はあのレバント商会の会頭が認めたんだ。才能に年齢は関係ない。」

 「おお、あの大商会のレバント商会が。」

 「さすがウィリアム様だ。」

 みんなさらにヒートアップした。どうするんだろう、これ。

 「私はあのときから考えていた。貴族の子であるウィルの作った物を商人に売るのは難しいが、ウィルが代表になって工房を立ち上げれば、その工房で作った物は商人に売れる。」

 父上はそんなことも考えていたのか。

 「ここに私は宣言しよう。フェアチャイルド家として新たな工房を設立する!」

 「「「おお!!」」」

 盛り上がりは絶頂に達した。これはもう断れないな。

 思い出してみると、祝福を受けた生産者なので周囲に影響を及ぼすだろうと神様はおっしゃっていた。

 覚悟を決めよう。

 「分かりました。僕は子どもで未熟ですが、微力を尽くします。みんなで良いものを作っていきましょう!」

 みんな歓声で応えてくれた。


 後で父上から聞いたところでは、集まった若者たちはみな生産スキルを持っていることは確認済だった。

 それだけじゃなく、人柄に問題がないかどうか、家令のスミスが事前に面接をしてくれたらしい。

 いつの間にか、お膳立てをしてくれていたんだな。

 僕に相談しないで話を進めたことを父上は謝ってくれたけれど、慎重で目立とうとしない僕は事前に相談すると話を断りかねないと思ったのだそうだ。

 強引にでも話を進めたほうが将来の活躍につながると考えたと言われると、感謝するしかないな。

 工房の場所も、辺境伯の館の近くにスミスが用意してくれていた。建物は僕が思うように作れるようにと材料だけ集めてあった。

 ほんとにスミスは優秀な家令だ。

 好きなように建物を作っていいのは嬉しいな。

 この世界で見たことのない形にしたくて、大きな窓のある六角形の建物を作った。

 建物の中には住み込みで働く職人たちの居住スペースもつくり、騎士団に好評だったお風呂も付けた。

 出来上がった建物を工房の弟子たちに披露すると、

 「おお、美しい建物ですね。しかもこんな形は見たことがありません。」

 「うわ、何ですか、この豪華な風呂は。」

 「こんな立派な工房で働けることを誇りに思います。僕らもいつかこんな立派なものが作れるよう頑張ります。」

 好評で良かった。

 領内の発展のためにみんな頑張ってくれると嬉しいな。

 気の早い者はその日の夕方にもう引っ越してきた。

 翌日、弟子たちが揃ったところで生産スキルを使って見せると、みんな熱心に取り組み始めた。

 うまくできない人には個別にアドバイスをする。

 僕の説明は感覚的になっちゃうけど、みんな一生懸命聞いてくれる。弟子たち同士でも教え合っているようだ。

 良い雰囲気だなと思う。これも家令のスミスが面接してくれたお陰だ。

 みんな将来を期待できる職人たちだ。

 ただし、一つ分かったことがある。それはテオほど飲み込みの早い者はいないということだ。どうやらテオは特別な才能を持っているようだ。 

 それでも、みんな意欲を持って取り組んでくれて、しばらくすると品質の良い家具を工房で作れるようになった。

 そして大きなものを扱いたい者には建物の修復を教えていて、そちらもだいぶ形になってきた。

 ちょうどその頃、王都から客が訪れた。

 「聞きましたぞ、工房を設立されたそうですな。」

 興奮しながら現れたのはレバント商会会頭のアレックスさんだ。さすがの早耳で、もう話を聞きつけたらしい。 

 「ぜひ品物はうちの商会で扱わせてください。」

 「ありがとうございます。まだこれからの工房なのに、レバント商会のような大商会が扱ってくれるのは心強いです。」

 また会える予感はしていたけれど、こんなふうに再会できたのは嬉しいな。 


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