第14話 騎士団宿舎の改修
「実はうちの騎士団の宿舎が随分古くなっていてね。そろそろ修繕をしないといけないんだ」
騎士団の宿舎は三階建ての大きな建物で、領都ノーザンフォードのランドマークの一つに数えられる。
そういえばだいぶ古くなって痛んでいる様子だった。
「領内の大工たちに頼もうかと思ったんだが、騎士団の宿舎は武器庫も兼ねていて領地の防衛に関わるものだから内部の構造なんかは秘密にしないといけない」
「でも厳重な守秘義務を課されることを大工たちは嫌がるんだよ。
実は宿舎を作ったときには王都の貴族御用達の工房に依頼したんだ」
「だが王都の工房に頼むと職人たちの旅費や滞在費もかかって費用が嵩むし、
中には気位の高い職人もいてうちの騎士たちを田舎者と軽く見るような者もいるんだ」
「だからなかなか修理できずにいたんだ。
そうしたところで騎士たちはウィルがドワーフたちの家を建てたことを知って、できれば自分たちの宿舎もウィルに修繕してほしいと言ってきたんだよ」
そうなんだ。なるほど領主の息子である僕なら軍事機密に触れても問題ないし、騎士たちが僕に期待してくれるのは嬉しいな。
「分かりました、父上」
「おお、引き受けてくれるか。よろしく頼んだぞ」
初めて父上から頼まれた仕事だから、気合が入る。
ただ傷んだ所を直すだけではつまらないよね。
この機会に騎士団の要望を聞いて、可能な限り改修しよう。
「リアム、騎士団の宿舎を修繕するよう父上から頼まれたんだ。
この機会に改善できる部分は改善したいと思うんだけど、騎士たちから何か要望は出ていないかな?」
「いえ、修繕してもらえるだけで十分ですよ。
まあ、もし風呂があると嬉しいと夢を語る者もおりますがな」
そうか、お風呂かあ。
確かに訓練で汗をかいた後はお風呂に入りたいよね。
でもこの世界ではお風呂は贅沢品だ。今は、たらいで汲んだ水で汗を流しているらしい。
よし、何とかお風呂を作ってあげよう。
翌日からテオにも手伝ってもらって、宿舎の傷んだ所を直していった。
いくら魔力量があっても僕一人だと手が回らない。
テオは厳重な守秘義務の課される仕事を少しも嫌がらずに手伝ってくれたからありがたい。
木が黒ずんだり凹んだりしているところは新しい木材に取り換えて、石造りの部分で欠けた所は新しい石材で埋める。
生産スキルだと作業は早い。しかもテオは十分戦力になってくれた。
三階建ての大きな建物だけれど、一週間もたたずにひととおり修理できた。
さあ、次はお風呂だ。
まずは一階の食堂の隣にお風呂場を増築しよう。
材料の木と石を用意して、生産スキルを発動する。
そして部屋ができたら内装だ。床は石じゃなくてタイル張りにしたいな。
最近になってドワーフたちはタイルを焼き始めている。
だから頼んでもらってきたんだ。
世話になっているからお代は要らないと言われたけれど、そうはいかない。
ちゃんと代金を払ってきた。
敷き詰めたタイルの隙間は漆喰で埋めていく。
漆喰の原料は消石灰で、消石灰は石灰石を焼いて水を加えたものだ。
元の世界で見た何かのドキュメンタリーで説明していたことを覚えていた。
石灰石を探すと、樹海にあったので採取した。
そして近くの川で水を収納したら、あとは生産スキルで仕上げよう。
出来上がりの床をイメージして、騎士たちが寛げるお風呂場にすることを集中して生産スキルを発動する。
手の先に魔力が集まって光り出し、魔方陣が宙に浮かぶ。
そして温かい光が消えると、そこにはタイル張りの床が現れた。
デザインは二色のタイルを組み合わせて、騎士団の紋章を描いてみた。
「師匠、凄く綺麗な床ですね! タイルで紋章を描くというアイデアも斬新です」
テオが褒めてくれる。
うん、可愛い弟子がいるとモチベーションが上がるなあ。
浴槽の仕上げには大理石を使う。
残念ながら樹海の浅いところでは大理石は見つからなかったので、ノーザンフォードの商人から購入した。
父上から必要な材料は買っていいと言われている。
大理石は値段が高かったけれど、他の材料は自力で用意したから予算には余裕がある。
材料を揃えて、再び生産スキルを発動する。
温かい光が消えると、高級感あふれる大理石の浴槽が現れた。
うん、イメージどおりだ。
最後に、やはりドワーフから売ってもらった鉄を使って、薪を燃やして温める風呂釜を作った。
さて、騎士たちは喜んでくれるかな。
修理が終わったと連絡すると、領内の宿屋や実家に泊まっていた騎士たちが集まって来た。
「おお、随分と綺麗になりましたな」
建物の外観も内装も綺麗になっているのを見て、リアムが感嘆した。
「あのボロ屋が見違えるようです」
「これで隙間風に悩むこともなくなります」
「ウィリアム様、ありがとうございます」
騎士たちが次々に感謝してくる。
うん、喜んでもらえて良かった。
「リアム、実はちょっとしたサプライズもあるんだ。一階の奥を見てもらえるかな」
「サプライズですか?こんなところに部屋は無かったはずですが」
大食堂の奥に増築した箇所の扉を開けたリアムは、呆然と立ち尽くした。
「こ、これは……」
「団長、どうしたんですか?」
後に続いてやって来た騎士たちも、扉の向こうを見ると言葉を失った。
リアムは嬉しいような困ったような顔で振り向いた。
「ウィリアム様、こんな立派な風呂を作って頂けたのは大変ありがたいのですが。辺境伯様の館の風呂より立派になってしまったのはいささか問題なのではないかと」
ああ、言われてみればそうかも。
後で報告すると、父上には別に騎士団宿舎の風呂のほうが立派で構わないと言われたけれど、うちの風呂もタイル貼りの床と大理石の浴槽に取り換えた。
少しやり過ぎてしまったけれど、騎士たちの士気は上がったようだから、良かったかな。




