番外編 二
日付が変わって、今日はもう土曜日。お店は臨時休業にするだのなんだので、大人たちはまだ飲んでいる。
俺と紫雲さんは、そんな大人たちをほっといて、紫雲さんの自室へ。
「あんなこと言ってたけど、お兄は、空木君を認めてるよ」
「そうなん? そうなんだ?」
「うん。術師として、まだまだ伸び代はあるけどって」
「えっ、え……」
「術師になってくれて、ありがとう。空木君」
「全然。感謝したいのは、俺の方で。今まで、霊魔と戦ってくれて、ありがとう」
アルピスの原液と、炭酸水とコップを持ってきて、正解だった。
多分、今の俺の顔は真っ赤だ。夏の暑さのせいで。
ローテーブルを挟んで、真正面に向かい合う俺たち。
お互い手持ち無沙汰で、会話が進まない。
「幻覚の中で、竜也に、竜也に化けてた七将に、キスされたでしょ?」
「うん。あったね」
「もう少し早くに、結界を突破出来てたら、あんなことにならなかったのにって、後悔してるんだ」
「あれは、私も逃げれたら、良かったのにって、思ってるの。初めてが七将なんて、考えたくない」
でも、これ以上言ってしまったら、ここから先に進んでしまったら、俺たちの関係は変わってしまう。
だけど。今しかないと、本能は言っている。
「悔しかった。幻覚だって分かってても、紫雲さんの彼氏とか。紫雲さんの隣にいるのが、俺以外の男とか」
「それって、つまり。そういうこと? 私たちは」
「好きです。紫雲さんのこと。術師としても、一人の女の子としても。これからもずっと、俺の名前を呼んで欲しい」
言えた。矢継ぎ早に、言葉を紡いで、紫雲さんに。
紫雲の顔を直視できないから、アルピスの原液をコップに注いで、炭酸水で割っていく。
紫雲さんがどう思ってくれているのかなんて、神のみぞ知ることなんだ。
「何度も、何度も、生死をさ迷わせていたのに。七将相手に、助けてくれたのに。私は、空木君に高望みしちゃって。空木君なら、私の呼ぶ声を聞いてくれるって、側にいてくれるって思ってるの」
紫雲さんも言葉を紡いでくれてて、俺のことを、友人や仲間だと思ってくれるだけでも、俺は嬉しい。
「今のこの関係のままでいたいのに、七将にキスされて、何で空木君じゃないんだろって。斉木君に化けずに、空木君だったら良かったのにって」
涙声になっていく紫雲さん。俺は顔を上げ、考えるよりも早く、気づいた時には、紫雲さんを抱きしめていた。
「俺だったら、良かったの?」
「……。うん」
「それなら、上書きしよう」
「好きだよ。空木君」
「俺も」
重ねられた唇。今日から俺たちの関係は、変わっていく。誰にも邪魔なんてされない。させない。
「さーくーくーん? かーぐーら?」
はずだった。
俺たちが気づかないうちに、大人組の三人が、紫雲さんの自室のドアをほんの少し開けて、俺たちの様子を見ていたらしい。
晴斗さんが勢いよく入ってきてしまった。
「香楽に、手出したねぇ?!」
「晴斗さん!? ここここ、これは、ですね!」
「言い訳無用! よくも香楽に!」
「お兄、落ち着いて! 今何時だと思ってるの!?」
「関係ねぇ! 朔君。君を信用した俺が、間違ってたよ!」
「すみませんでした! 姉ちゃん、風吹、助けて!」
なんて眼差しを向けても、姉ちゃんも風吹も、お手上げといった様子。
『晴斗。近所迷惑もいいところだ。おとなしくしろ』
「それにしても、ドラマとかで聞くセリフだったね。上書きしようなんて。ねぇ、朔」
「姉ちゃん! ニヤついてないで!」
夏の夜は静かになど明けていかず、喧騒の中に沈んでいった。




