後編
かけられる準備をしていなかった言葉で戦いていることを感じた。殺すって言ったよね?今
「私はあの人を殺すために色々考えてきたんだ。ううん、あの人だけじゃない。あぼ魔法学校で働いてる人全員を殺そうとしてる」
一瞬、真面目に言っていないのでは、と思い顔を見たが、覚悟を決めたような顔だった。私も殺したい気持ちはわかる。こんなことをされて、しかも、魔法学校の従業者全員がこの事実を知っていて隠している。当たり前に恨んでるよ。死ねばいいと思ってる。だけど、殺せるわけなんてないのに。
「私は本気だよ。ちゃんと作戦だって練ってきたんだ。これは私刑になるけど、誰かがやらないといけない、から。でもこれはれっきとした犯罪になる。それでも付き合ってくれる?」
言うまでもなく、付き合うよと答えた。
「でも、作戦って一体どんな作戦なの?」
「まずここに学校のグラウンドに書かれたものと同じ魔方陣が書いてある紙が2枚ある。これを使うんだよ」
「そ、そんなのどうやって手に入れたの?」
「一緒と言っても性格には違うんだ。この魔法陣は一日しか効果がない魔方陣。昨日書いてもらったんだ。そういう店があるんだよ」
そうなのか。知らなかった。私は社会を本当に知らないな。よく学校でも騙されやすそうな人間だと言われるほど私は知識が少ない。
一緒に戦ってくれる人がよかった、そう思う。
「魔法の効果はあくまで魔方陣が書かれたグラウンド上でしか効かないから、私たちが使える魔法はあそこにいるどの先生よりも上。感覚を操って、生徒や職員を動けなくして、職員だけ殺すの。技術は劣るけど、魔法の使い方で勝負すれば勝機はあるわ」
なんて賢いんだろう。一日で考えられるのが本当にすごい。
「ううん、執念だよ。それにやろうとしてることは犯罪だし、何よりあなたを巻き込んでしまった」
「それでもすごいよ。褒められたことじゃないけど、でもこの社会では必要なことだと思う」
「あなたがそう言ってくれると嬉しいわ」
彼女は莞爾として笑っていた。
確かに良いことでは無いと思う。ただ、それを上回る狼藉が行われているんだ、たとえ刑務所に行ったとしてもこの行いは讃えられると思う。いや、讃えられるべきだ。
「じゃあ今から行くよ。早く行かないとこの魔法陣の効果が切れちゃうから」
「まって、まだ心の準備が、」
「準備なんてできたらおしまいだよ、こんなの」
私の腕を掴んで外へ連れ出した。その言動や振る舞いは水の流れのように綺麗だと思った。
「ねぇ、上手くいくかな」
「上手くいくって。私たちは二人だよ?」
このような宥め、慰めを数十回はやってもらった。本当に申し訳ないと思う。
「着いたよ。」
まさか卒業してまで来るとは思わなかった忌々しいこの学校。昨日見た景色とは違って妙に気持ち悪く見える。足が震え出した。
「どうしたの?」
「昨日......お、犯されたことを急に思い出したんです。記憶が戻ったと言ってもまだ実感がなかったみたいで、でもこうして景色を見ることであの場所で....その、色々されたんだって言うのが甚だしく私を苦しませ始めてきて」
「よしよし。そうだよね。ごめん。でも、これから復讐しよう。復讐すれば、少しは落ち着くよ、きっと」
背中をさすられた。優しい手だ。
涙が零れてしまった。すごいなこの人は。だって、私と一緒の経験をしたはずなのにこんなに気丈としてる。私より一日前にされたからとはいえ、同じぐらいの苦しみがあるはずなのに、それを表に出さないで私のためにこうして優しさを...なんて素晴らしい人なんだ。
「落ち着きました。すみませんありがとうございます」
「よかった。じゃあ学校の中に入るね」
グラウンドの土を踏み付ける。グラウンドで魔法の練習をしている人達は知らないんだろう。これから先生が大量に殺されることを、そして私が犯されたことも。全部を知ったらどんな顔になるんだろうか。巻き込まないで、なんて言われたりするんだろうか。だとしたら大罪人だな、いやそもそも殺すって時点で大罪なんだけどね。でも、悪いことをした人間だと思うと、私にあんなことをした人間なんだって思うとつい罪の意識がなくなってしまう。そうだよ、私は悪くないんだから。私だって被害者なんだから。
学校の扉を開いた。
「じゃあ手筈通りにやるよ」
「わかった」
と言って魔法を使う。
「あれ、なんだこれは?」
職員並びに生徒の手が止まった。確かに魔方陣の威力はあるみたいだ。口々に動けなくなって焦っている声が聞こえる。
「さぁナイフを出して、殺すのよ」
彼女が魔法を使ってナイフを精製し、私に手渡した。このナイフを着き挿せば復讐できる。私の苦しみを晴らせられる。私がどれだけ苦しんだかわかる?すごく辛かったんだ。それにこれからの犠牲者を出さないためにこのナイフを指すんだ、そう思いナイフを刺した。
はずだった。
「どうしたの?何をしてるの早くナイフを刺しなよ」
「その、ナイフを刺したらこの人は死ぬんだよね?」
「何当たり前な事言ってるの。私たちは殺しに来たんでしょ?」
「でも、今更で申し訳ないんだけど、その、私が殺すんだって考えたら怖くなってきて」
驚いた。私はとても真面目だった。どれだけ辛いことをされても私は人を殺せなかった。人を殺すことは悪い事だと知っていたから。死ぬということがどれほど怖いかということを知っているから。どれだけ殺す理由を作ったって私にはこの人は殺せない。だって生きてるんだもの。殺せないよ。
「チッやっぱ使えない女だったか」
態度が急変した。
「え、何どうしたの?」
「はぁ、こうなることを見越しといてよかったよ。アンタには殺してもらわないと困るからな。あんたには失望したよ。ここで普通に殺せばよかったのに。そうすれば何も無かったのにな」
そう言って私に近づいて私の頭に手を乗せた。瞬間頭痛が走る。
「なにこれ、苦しい」
「殺せないなら、私があなたを魔法で操って殺してもらうしかないでしょ?全く手間がかかるんだから」
意識が遠のいていく、だんだん私じゃなくなっていくような。なんだろう、倫理が上書きされていく感覚がある。だんだん犯罪を犯してもいい気分になってくる。
「犯罪は犯すもんだよ。もう世の中誰だって犯罪してるんだ。だいたいよく考えても見ろ、人を殺すなんてすぐに終わることだよ?何が悪いの?なんにも悪くないでしょ?」
確かに。そうだよ。何も悪くないじゃないか。ましてや理由だってある殺すことなんて簡単だ、そして楽しいはずだ。
ナイフを頸動脈に近づけて頸動脈を切った。
男性の苦しむ声が聞こえた。命が消えていく声だ。
「どう?楽しいでしょ?」
「うん、これすごくたのしいよ。頭がすごい楽しくなってこれすごい楽しいよ」
どうしよう。人を殺すのが楽しいことに気づいてしまった。人が苦しむってこんなに興奮するんだ。血液の匂いってこんなにいい匂いなんだ。もっと殺したい。もっと、もっと。
一心不乱に遮二無二ナイフを振った。
いつの間にか見える範囲に生きている人間は彼女だけになった。
「なんですか、この騒ぎは」
ついにあの私を犯した先生が現れた。
「殺すのって楽しいですね。こんなに楽しいとは思ってませんでした。どれもこれもあなたのおかげです。あなたには感謝してますよ。こうして殺しの楽しみを覚えられたんだから、そしてあなたを殺せるんだから」
「やばい、逃げなければ」
逃げようとする先生を魔法で止めた。
「動けない、しかも魔法も使えないじゃないか、なんだこれは」
「残念でしたそんなことするのはわかってるんですよ。逃がしませんよ、あなたはここで死ぬんです」
私の高笑いが学校に響く。
「なんでこんなことに。あなたは罪悪感を覚えないんですか」
「覚えるわけないでしょう?そもそも犯した人間に言われたくないよ」
「頼むよ、勘弁してくれ俺を殺すのはやめてくれよ。だいたい、俺を殺したらお前だってどうなるかわかったもんじゃないぞ。あとで報復が訪れるぞ」
「そんなのこんだけ殺しちゃったんでわかってますよ。一人や二人もう変わりません」
「やめてくれ、やめてくれ」
ナイフを突き刺した。我ながらいいナイフの刺さり方をしたと思った。
「痛い。痛い。痛い痛い痛い」
「そうでしょう。これが私があなたに貰った痛みですよ。いやこれ以上です。この痛みを受けることがあなたの贖いですよ」
流れ出る血液とナイフを見てさらに興奮が高まってきた。やっぱり人を殺すことは楽し...
あれ?
次の瞬間私は口から血を吐いていた。
え、これ私の血液?なんで?どういうこと?
「はははは、馬鹿だねぇ君は」
刺された先生が私を嘲笑する。
「君は騙されたんだよ、彼女に」
そう言って見るやいなや、彼女は先生に抱きついた。
「彼女はね、僕の恋人なんだ。僕がどうやったらこれ以上の地位を上げられるかについて熱心に考えてくれてね。ここまで彼女の作戦通りになった」
作戦?作戦ってどういうこと?
「馬鹿ねぇあなた。まず私は犯されてないわ。犯されたのはあなただけよ。私はまずあなたに仲間意識を持ってもらうために8ヶ月間仲良くした。そして、あなたがこの学校に恨みを持ってもらうために、この人に犯してもらうことにしたの」
「犯してもらって、私も犯されたふりをすれば、あなたは私を信頼してこの作戦に乗ってくれるだろうってね。あなた世間知らずの顔してたから絶対いけると思ったわ」
「ありがとうな。俺のために色々考えてくれて。しかし、いい体してたな。もう犯せないのが残念なくらいだ。」
「あら、私の体じゃ不満っていうの?」
「そんなことは言ってないさ。君がいれば僕は満足だよ」
「いやだわ、そんなこと言って」
今度は2人の笑いがこだまする。
私は騙された?しかも最初から?
彼女のは全部嘘だったっていうの?
「私をこんなにしてどんな利益があるって言うのよ、だいたいなんで私は攻撃したはずなのにこんな状態になってるの」
「その質問にはまず後者から答えた方が早いわね。世の中には魔法とは別に『呪い』というのが存在するの」
呪い?何を言ってるんだ。
「私達は誰かを恨んだりするでしょう?その時に発動するのが呪い。まぁちょっとコツはいるけどね。でも死ぬあなたに教えたって仕方ないから、そういう概念はあるってことだけ教えておくわ」
「いやーこの練習が大変だったよ。大変だったから8ヶ月もかかっちゃった」
まさか、私が合格できなかった理由って、
「僕のスケープゴートになってもらうためさ。呪いをかけられるようになったから、この計画を実行に移したんだ」
「全く、時間かかりすぎよ。無駄に学校通うことになったじゃない」
「悪い悪い。まぁこうして成功したんだし許してくれよ」
私が学校で苦しんでた時間は無駄だってこと?急いで卒業しなきゃって焦って、ずっと悩んでたのに、そんなこんな計画のためだったなんて、私はなんのために。
「そうそう、それでさっきの質問の片方に応えると。私たちは地位を上げたい。地位をあげるためには、何か良い功績を残した方がいい。そうして、私たちはこの作戦を取ったの」
「この作戦なら、俺は生徒と一緒に働いていた職員を殺された可哀想な人で、かつ、殺人者の暴走をとめた人間で、しかも手を直接下していないから犯罪にもならない。一石三鳥ってわけだな」
「ありがとう。私たちの踏み台になってくれて。じゃあね」
待って
いつの間にか倒れてうつ伏せになって絶え絶えな私の声は届かずに、二人の後ろ姿を見続けるのみだった。私は、何も間違ってない人生を歩んできたつもりだ。なのにどうしてこんなに酷い騙され方をするんだろう。私の何が悪かったんだろう。何も悪くはずなのに。
「というか、これすごい痛いんだけど。呪いかけるために刺されろとか言われて死んだらどうしようかと思ったよ」
「一応私は痛み止めの魔法かけたしあなただって体が固くなるような魔法使ってたんだし死にはしないでしょ」
「まぁ死ななかったけどさぁ。それにしても、どうしよう、警察に話聞かれる時にちゃんと不幸者ヅラできるかな」
「できるわよ。だって、あの女を騙せたんだから。警察だって騙せるわ」
私はただ最期の一時をそんな、下らない会話を聞く事で終えようとしていた。私は自然から魔法を授かったみたいだ。それは時を止める魔法。私の人生を止める魔法、だった。




