中編
「よかった、来ていただけたんですね。」
気持ち悪い笑顔で迎えた先生は、先生という顔を持っていなかった。私の少ない語彙で表現すると、「化け物」に近かった。
「では、話しましょう。なぜ彼女が卒業できたのか。それは私に身売りしたからです」
「身売りってなんですか?」
「つまり、売春をしたってことですよ」
売春?
言葉が出なかった
「私はね、彼女も監督していたんですよ。いい体つきだなと思っていました。脱がせたらどうですか、いい体じゃないですか。美味しかったですよ、細部まで頂きました」
「じゃあまさか、私たちが卒業出来なかった理由って」
「そうです。私がさせなかったんですよ。あなたたちに売春してもらうためにね」
私たちの共通点は、同じ先生に教えて貰っていたということでもあったことを遅まきながら気づいた。なんで気づかなかったのだろうか、私は自分を責め続けた。せめて、せめて先生を変えるという手段を取っていれば、なぜ取らなかったんだろう。
「あぁ、先生を変えたって無駄ですよ。あなたたちは私に気にいられてしまったのですから。あなたたちが私に売春をしない限りここを卒業させないようにすることだって可能なんですよ。私は何せこの学校で権力が高い方なのでね」
なんて卑劣なんだ。
「訴えますよ、こんなことがまかり通っていいと思ってるんですか?こんなの犯罪じゃないですか。いくら免許を貰うためだからってこんなことできませんよ」
「おっと、待ってくれよ」
腕を引かれた。男の力だ、強すぎる。逃れられなかった。
「ここから逃げられると思うか?周りを見てみろよ」
すると、周りは封鎖されていた。まるでこの学校から逃さないと言わんばかりに囲われていた。
「これも魔法さ、君を学校から出られないようにしたんだ。魔法学校を舐めるなよ。もう敬語を使うのはやめだ、早く俺に従って売春をするんだ、そうすれば楽になるぞ」
「いやです。絶対にしません。私はこんなことのためにここに来たんじゃないんです。警察に後で訴えますからね」
「まだそんなことを言ってるのか。お前はこの魔法陣の意味がわかってないようだな」
魔法陣の意味?考えたこともなかった。魔法学校のオブジェクトの一つだと思っていた。
「あれは感情を操るためにあるんだよ。よくこの学校で暴れる奴がいてな、それを抑えるために国が作ったものなんだ。これを使えば普通はできない人間の精神にすら魔法で変えることが出来るんだよ。つまりな」
記憶を消すことができるんだよ。
「お前がどれだけ犯されても明日になればきれいさっぱり忘れるってわけさ。ラッキーだな、お前は学校を卒業できる。俺はお前を犯すことが出来る。それでいてお前はその記憶をなくしてさっぱりしたまま明日を迎える。どうだ、ウィンウィンな関係だろ?」
「どこがですか、私が痛い思いをするだけじゃないですか」
知らねーな
そう言われた瞬間腹が立った私は先生に攻撃をしようと考えた。だがその瞬間自分が動けないことを知った。
「魔法を使ってお前を動けないようにしたからな。簡単だなぁ本当に。女って言うのはつくづくやりやすいぜ」
見ると私は鎖につながっていた。
「どうだい、こっちからは届かないだろう」
「早く外してください」
「仕方ないな」
そう言って外された。と、同時に私を押し倒した。
「痛い」
「これで準備完了だ」
みると、地面にくい込んだ鎖で手と足が動かないまま仰向けにされてしまった。
絶望以外で語れることがなかった。
「いい体だねぇ本当」
私の首を舐めながら彼は言った。
「その反抗的な目が嫌だねぇ。でもその反骨心は好きだよ。すぐにみんな諦めちゃってねぇ。果たしてそれがいつまで持つか」
いつも教えて貰っていた先生とは違う顔だった。こんなに気持ち悪くなるなんて、思ってもなかったのに。
「さて、精神がいじれるということは、快楽もいじれるってことなんだよ?でも、僕はそんなことをしない。そういうのはつまらないからね」
そんな気持ち悪いことも言いながら今度は胸を揉まれていた。
「優しい僕に感謝して欲しいな、僕はなんて優しいんだ。ほら君もそう思うだろう?」
....
「おい喋れよ豚が、使えないな、体つきだけいいからって調子に乗るなよ」
ビンタを顔に右手と左手で二回打ってきた。
「痛いか?俺も痛いんだよ心が。俺の言う通りにしてればこんなことにはならないのになぁ」
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
「楽しいなーこれだからやめられねーんだよ。魔法社会万歳だ、あはははは」
そんな声が高らかに響く。
「やっぱり女は最高だ。楽しいなー本当」
そう言いながらお腹を殴られた。
と、同時にここで私の意識はなくなって行った。
目が覚めた。昨日の記憶が全くない。
昨日は本当に存在したのだろうか?
そんな哲学に走ってしまうほどだった。
いやいや、存在してるはずだ。
全く、最近忘れっぽいんだろうか。
と思っていると、右手に指輪があることに気づく。
これは魔法が使える指輪じゃないか!
どうやら私は合格したらしい。
やった!嬉しい。これで私は会社にいられる!やれることも増える。
記憶が無いということだけが不安ではあるが、それが問題でないほど私は嬉しかった。
携帯を見て今日の日にちを確認する。確かに明日になっている。明日というか今日なわけだけれど。
そして、メールが届いていることに気づく。差出人は一緒に学校を通っていたあの女性からだ。
「昨日、会う予定してたよね。11時に会おう。まさか、学校卒業してないよね?」
昨日会う約束をしていたことにも驚きだが今日は休日なのでまぁ会えるには会える。
ただ、何故か彼女は卒業して欲しくないらしい。
とりあえずわかったよ、とだけ返信をした。
そして11時。待ち合わせの場所につき、あの女性と会った。学校以外で会うのは初めてだった。
会った瞬間、私のことを見て最悪だと言わんばかりの顔をした。
「あなた、魔法学校卒業したの?」
「うーんなんかしたみたいだよ」
「なんでそんなことしたの。あれだけするなって言ったのに」
「聞いてないよ?それに昨日のこと全く覚えてないや」
「そうか、なるほどね。あなた鏡見てないでしょ」
え?
「私の家に来てちょうだい。詳しい話はそこでしましょう」
腕を引かれてなされるがままについて行った。
「ここが私の家よ。入って」
そこは普通のアパートだった。
「はいこれ、鏡」
鏡を当てられるとそこは酷い有様だった。
肩や首、太ももなどにキスマークがついていた。
え、なにこれ。
私は必死で手で擦り落とそうとする。
「無理だよ。キスマークなんて手で落ちるわけないでしょ」
「だって、私こんなことする人間知らないよ。こんなの絵でしょ?ありえない。私がこんなことするなんて」
そんな取り乱した私を彼女は手で押さえつけた。
「あなたは記憶をなくしているの」
記憶を?確かになくしているけど、そんな一日の記憶だけなんてなくすことできるわけ...
「思い出させた方が早いわね」
彼女は私に手をかざした。
すると昨日の記憶が戻ってきた。
私が何をされたか、忘れていたこと全て思い出してしまった。
そして私は気持ち悪くて吐いてしまった。
「よしよし、大丈夫?辛かったよね」
「なにこれ?これが本当の私の記憶なの?」
「それがあなたの記憶。さしずめ、先生、いや、あの男に犯されたんでしょ?」
「そう、だね。」
「だから卒業するなって言ったのに」
頭を抱えられてしまった。申し訳ない。まさかこんなことになるとは思ってもなかったんだ。
「ねぇ、なんであなたは記憶があるの?」
「私は学校の魔法の指輪を持ち出してたんだよ。何があるかわからなかったから。幸運なことに、あれでも微小な精神の操作はできるみたいで辛うじて抜け出せたの。もちろん、あの男にはバレないように演技してたけど」
なるほど、なんて賢いんだ。
「すごいね、よくそんなこと思いついたね」
「夜遅くに男が呼び出すなんて、怪しさ満載でしょ?まぁ、でも結局着いてっちゃったから私もあなたと一緒。辛い思いはしちゃったけどね」
確かに。私が頭悪かった。卒業という甘い言葉に誘惑されてしまった。
「でも、あの男は政府にバレないの?全部政府に情報が流れていくんだよね?じゃあ私たちに何をしたかってこともわかるんじゃないの?」
「わからないんだよ。先生たちがどんな魔法を使ったかはね」
「それはなんで?」
「魔法学校の先生はどんな魔法を使ったかの通知が行かない特別な指輪をつけてるの。昔、まぁ今もそうなんだけど魔法を使い始めの人間が魔法を使って暴れるようなことがあってね。それが頻繁に起こるものだから政府も手を焼いたんだよ。使った履歴は残っていても、どのような状況で魔法を使ったのかがわからないから一応聴取する必要があって、それが魔法学校と政府にとって煩雑だということになってね。それで先生の指輪には特別にどんな魔法を使ったかがわからないようになっているんだ」
なるほど。確かにそれもそうだ。
魔法を使ったことの無い一般市民が、いざ使えるようになれば試したいと暴走する。そういうこともあるのだろう。それに、これだけ魔法社会となれば、その数は多いはずだ。
「でも、そんな指輪をずっとつけ続けるたらどんな犯罪でも可能なんじゃない?」
「いや、それは無理なんだよ、本当は。その指輪は学校でしか付けられないようになっているんだ。受付で先生用の指輪を貰って教鞭をとるだけで普段は普通の指輪をしているはず、なんだよ」
「じゃあ、もしかして魔法学校ぐるみで私たちにされた犯罪を隠蔽してるってこと?」
「そういうことになるね。しかも、一応本当に間違った使い方をしていないかどうか政府には魔法の履歴が転送されない代わりに、魔法学校の履歴が転送されているんだ。だから、魔法学校の人は当然全員知っていることになるんだよ」
「ということは、私が最後にあった受付の人も、それからすれ違った教師みんな知ってて、私が会うことを止めなかったってこと?」
「残念ながら」
愕然とした。
私は国家試験であるから、枠組みがしっかりしているものだと思っていた。もちろん、昨日の事件でそうではないことはわかってしまったが、それでも他の人は無罪だと思っていた。まさか全員が犯罪を犯し続けてるだなんて、思っていなかった。
「どうにかして復讐はできないの?早くここで問題にしないと、私たちのような犠牲者も多く出てしまうし、なにより、この私の苦しみが鎮火されないよ」
私は怒声を混じえながら言った。
「ありがとう。そう言ってくれるのを待っていたんだ。だから復讐の計画を立ててあなたを呼んだの」
そうして、彼女は前かがみになって一番大事な話を話すような姿勢になった。
「私はね、あの先生を殺そうとしてるんだ」




