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前編

魔法は誰でも簡単に使えるようになった。ただあまりに簡単に使えるので、電気を使うのならそれ相応の資格が、火を使うならこれ以上の火は資格が、など法に触れない程度で使える魔法は数少ないものとなった。

つまり、魔法を使えるというのは前提条件なのだ。魔法を使えてそれに別の資格が重なることでやっと実力者と認められるのだ。

ただ、最初から魔法を自由に使えるわけではない。魔法を使うという資格も必要になった。その試験に受かってやっと魔法が使える指輪を与えられる。この指輪は特別なもので、いつにどんな魔法を使ったかというのが全て政府に情報が行くのだ。これによって魔法の犯罪が取り締まられている。

魔法を使う資格を得るためには、魔法学校に通わなければならない。そこでは、教師が技術面を教え魔法についての授業もあり、テストに合格し、かつ技術面でのテストに合格すると晴れて資格が貰えるという流れだ。

普通はこの工程を3ヶ月程度で終了できる。それほど魔法を扱うということは難しくないからだ。ただ、私はなぜか8ヶ月もの間卒業できないままだった。仕事に行きながら学校に通っているのだ、時間も奪われる上、何よりお金が飛んでいく。

魔法を使うのをやめようか、とも考えるが、なにより、この国では魔法を使えることが当たり前になっている。今では八割の人間が魔法を使える資格をもっている。そのため、資格を持っていないと不便であることが多い。例えば、重労働をする時に持ち上げるものを軽くするという魔法を使うのが一般的なのだが、私はそれが出来ない。出来ないと作業効率がかなり落ちてしまうため使い物にならなくなっていく。今の職場だってそうだ、魔法が使えない私に一体いつまでいられる職場なのかわかったもんじゃない。

嫌ではあるが、頑張らなきゃ行けないのだ。

今日も重たい足取りで魔法学校に向かった。

魔法学校には受付があり、その受付で自分の名前を言うと自分専用の指輪を貰えるという仕組みだ。授業が終わるとその指輪を返して、また次に通う時に貰うという仕組みだ。ただ、いつまでこんなことをするのだろうか。

「お疲れ様です。私たち一体いつ卒業できるんでしょうかね」

魔法学校につくと、そこには同時期に入った同世代の名前も知らない女性がいつものように話しかけてくれた。

魔法学校は短期間で卒業するため、通常他人と仲良くすることは無い。ただ、この女性と私は知らない人がどんどんこの学校に入ってくる中で、唯一自分以外で魔法学校に残っている人だったため、名前は知らなくとも多少は仲がよかったのであった。

「お疲れ様です。本当ですよね。私たちだけ何かあったんでしょうか」

「...今日、流石に聞こうと思うんですよ。どうして卒業できないのかって」

そう思うのも無理はなかった。

なにせ、学力の試験は私もこの女性も何も問題がなかった。じゃあ、技術面での試験は問題があったのか、と言われればそうでもなかった。

なのに、技術面の試験は不合格だったのである。これはなにかの因果が働いているのではないかと疑念を抱くのも無理はなかった。

「いいと思います。私もさすがにおかしいと思います。頑張ってください」

本当に頑張って欲しかった。これは私の知りたい情報でもあったし。

ありがとうございます。と言って彼女は技術面の授業に向かった。技術を監督してもらう先生は一対一のツーマンセルで教えてもらうため、技術面の授業ではこうしてバラバラになるのだった。

そして私は学力の授業へ向かった。不服なことに、技術面の試験が不合格であったため、学力の授業も受けなければ行けなくなったのだ。一体いつまでこんなことをするのだろうか。

授業が始まった。もちろん前にも受けたため内容は全て知っている。なんて無駄な一時間だろうか。そのため、授業のことよりも朝に話した女性のことを考え続けた。なぜ私たちはこんなに遅いのだろうか。あの人と私には一体どんな共通点があるのだろうか。

一つは女性であること。一つは入った時期が一緒であること。一つは年齢が似たような年齢であること。あとは、、

あとは?

何も思いつかなかった。それぐらいにあの人との接点がなかった。名前も知らなければ、どんな人かも知らない。

じゃあ私たちは何が悪いのだろうか。

いや、悪くないだろう。

なぜなら普通の人よりも2倍の月日ここで勉強しているのだ、悪いはずがない。ましてや、現代において魔法は簡単に扱えるようになった。なったのだから、こんなに時間をかける方がおかしいのだ。

将来に不安しかないというのに、こんなところで足踏みをしている場合じゃないのに、一体何でこんなところで。

と思っているうちに授業が終わった。

次は技術面の授業を行うことになっていたため、先生に会いに行くことにする。

それにしても今日は天気が悪かった。といっても、私は天気が悪い方が好きなので構わないのだが。

技術面の授業は学校らしく魔法陣が描かれたグラウンドがあり、そこで行われる。魔法は体力も使うため、ここで運動して体力を向上することもできれば、見渡せるほどに何も無いために魔法の練習もしやすいという一石二鳥である。

「お疲れ様です。今日も頑張って早く卒業しましょう」

もう充分遅いですよ、と突っ込みを先生に入れたくなったが押さえ込んだ。

それにしても今日はやけに先生の気分が良さそうにも見えた。

これまた授業も一度やったことであった。魔法の出力の仕方を丁寧に。一度教えられたはずのことを皮肉にも優しくまるで初めて聞かせるかのように丁寧に教えられた。

もう私はわかっている。魔法を想像することで指輪に動力が伝わって魔法が出せることも、この指輪は魔法学校用のものであるため、出力が弱いことも、その他全てを知っている。もう、既に聞いたことなのだから。

「これで今回の授業は終わります。お疲れ様でした」

ありがとうございます。と思っても無い感謝を述べて魔法学校を去った。

次の日、偶然にも仕事がなかったために魔法学校で授業を受けることにした。

すると、いつものあの女性はいなかった。まぁ、そういうこともあるのだろうかと思って話す相手もいないので携帯を見ていた。

すると一通のメールが届いていた。

差出人はあの女性だった。そういえば、メールアドレスを交換したような気もする。

「明日、会って話したいことがあります。絶対に学校を卒業しないでください」

会って話したいことがあるというのもよくわからなかったが、卒業しないでくださいというのもよくわからなかった。あれだけ卒業しようと言い合った仲だったのに急にそんなことを言われることが理解できなかった。

先生に聞いた方がいいのだろうか。

でもまぁ、一日で卒業することは無いだろうし大丈夫だろうとタカをくくって、「わかったよ、明日会おう」と返信したのだった。

「お疲れ様です。今日も頑張りましょう」

「すみません先生。私は本当に卒業できるのでしょうか」

「できますともできますとも。昨日も卒業した人がいましたよ」

「それってまさか、私と同時期に入った女性ですか?」

「よくわかりましたね、その通りですよ」

なんとなくそんな気はしていた。卒業しないでということは卒業して、その結果彼女に何かあったということだと思ったからだ。

「ですが、昨日は試験がありませんでしたよ?卒業することは不可能じゃないんですか?」

先生がその言葉を待っていたというような顔をしていた。

「どうして卒業できたのか知りたいですか?」

「知りたいです」

「では、午後10時にこの学校に来てください。お待ちしていますよ」

はぁ、

よくわからなかったが、同じ方法で卒業できると言うのならば喜んでその方法を取りたいというのが私の考えだった。早くここから抜け出して魔法を使いたい。そうしたら今の会社にだって長くいられるのだろうから。

そうして私は、メールを無視して卒業するために10時に学校に来たのだった。


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