80話・共に生きる―最終回
月光の下で、私とギルはいくつかの約束を交わした。
束縛しない。
互いの仕事に口は出さない。
不審に思うことがあるなら、迷わずに問う。
時間が許す限り、共に過ごす。
そして最後に、心変わりを隠さない、を加えた。
難しい約束ばかりだと、ギルは苦笑いしながら後ろ首を掻いた。
『絶対に』なんていう不確かな言葉で甘く囁くことなく、難しいと本音を告げるギルに信頼感が増す。
本当に大変よねーと、私は肩を竦めた。
私とギルの心の底には、さまざまな蟠りや疑心が石ころのように転がっていて、何かあるたびに揺れて転がり痛みを呼び覚ます。今回の旅でいくつかの石ころは消えたけれど、すべてなくなったわけじゃない。
以前は、痛い痛いと蹲って悲鳴を殺して耐えてきた。そんな悲しい行為はもう終わり。
そばにいて、互いに癒し、話をしよう。
傷を舐めあうのではなく、傷が気にならないくらい幸せになればいい。
「では、行ってくる。暇を見つけて荷物を運び込むから、準備を頼む」
「いってらっしゃい。部屋を空けて掃除をしておくわ」
休暇の最終日の朝、ギルは庭に真っ黒な扉を出現させると、躊躇なく潜ってゆく。
目を見開いて呆然とする私に、『漆黒の魔法士』のスキルに【空間移動】があったのだと教えてくれた。
『漆黒の』能力は闇属性の空間魔法が主で、だからショーティーは私の鞄の中から出現できたし、ギルは私を追って列車に乗り込んだり、マジュの森で私を救ってくれたのだ。
経験を積んで練度を上げないと複数での移動は無理だとかで、だからといって軍に都合よく使われる気はないから、マジュの森と宿舎の行き来だけにするのだとか。
異名の発現を軍に申告したのかと問うと、ギルはちょっとニヤリと笑んだだけで答えてくれなかった。
「行ってくる! だって~」
庭先まで一緒に見送りに出たショーティーに惚気てみる。
呆れた様子の半眼で私を見上げた後、フンと鼻息荒く森の中に駆けて行った。
◇◆◇
気づけば、私たちは背中合わせの生活を始めていた。
自分の視線は自分の未来を望み、迷い、考え、悩みながら人生を辿る。けれど絶えず背中は温かく、そばに存在を感じて安堵する。そうして時折向き合い、たわいない雑談を交わしたり相談を持ち掛けたり――キスをして触れ合う。
すこしだけ腰を折るギルに、私は精一杯の背伸びをして。
「私のどこが気に入ったの?」
「潔く自分の足で立つ姿……だな」
「ちょっとくらい、可愛いって言ってよっ」
「言っても信じないだろう?」
「……まあね」
「肩に感じた弾力と柔らかさは、申し分なかったぞ」
「っ! ばっ、ばかーーーーっ!!」
END
これで本編終了です。
長々とお付き合い、ありがとうございました。
続いて、ギル編が始まります。
その前に、新作を☆




