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25話・誰が誰を守るのか

 シェルク様は素早く防諜魔道具を解除すると、扉の鍵を解除して開け放った。蒼白な顔色した侍従が、すぐに端に寄って跪く。

 リカルド国王はすっくと立って部屋を出ると、侍従を伴って去っていった。物騒な気配を纏っての、ご退出。

 私も立ちあがり、シェルク様と一緒に部屋を出た。

 こんな場所にひとり残されても、玄関まで到達できそうにないからね。

 階段を下り、いくつかの角を曲がって足早に進んでいるが、リカルド国王の姿はどこにも見えなくなっていた。

 どこをどう通ったのか混乱しながらシェルク様の後を追いかけ、やっと前方に広い空間が見えてきたと安心した途端、とっても耳障りな金切り声が響いた。

 私の前を歩いていたシェルク様がすっと足を止め、視線を向けた。


「リンカは、ここにいなさい」


 廊下の外れでシェルク様に囁かれ、私は頷くと隅に身を寄せた。

 シェルク様は私ににっこりと笑いかけると、すっと背筋を伸ばして歩きだした。

 なんだかわからないが、いまだに複数の人間が言い争い喚いている。その中でいちばん通る甲高い声がシーラだと気づき、そっと角から覗き見た。

 私が潜む廊下の先は小さな広間だ。外に面した壁一面にガラス扉が並び、それは見事な庭園が観覧できる場所になっている。

 今も温かい陽射しが広間に差し込み、可笑しな騒ぎが勃発していないなら庭園を見ながら一息つかせて欲しいくらいだ。

 しかし、現在は外の楽園とは裏腹に、広間は殺伐とした空気に満ちている。

 まず、シーラを挟んでふたりのパトロンが並び、カルミアの保護局員らしき男ふたりがその両端に立っている。そんな彼らの後ろには、アーデルベルトの特殊部隊員四人が、緊張した面持ちで護衛についていた。

 その中にギルバートさんを見つけた私は、さっと顔を引っ込めてしゃがみ込んだ。


「――そなたに依頼しておらんが?」

「ですが、私はそう聞きました! あの不細工な女より、私のほうが適役だからとお伝えしたはずですわ! だから、辛い旅も我慢して……」

「どうも勘違いしている様子だが……そなたは『光の魔女』であろう? 儂が『翠の魔女』殿に依頼したのは――」


 冷静なリカルド国王の物言いに、感情的になって食ってかかっているシーラ。どう聞いても無礼な発言だってのに、シーラ側の誰も止めない。

 これって、国際問題に発展しそうじゃない? 大丈夫なの?

 それに何? 不細工って! 美人でも可憐でもないけど、不細工の範疇には入ってないつもりなんだけど!


「ですから! リカルド陛下や『星の魔法士』様には、私のような女がお似合いなのですわ!」


 こんな場合って、他人事ながら同国民がやらかしてるのを見てしまうと、恥ずかしくて申し訳なくて……。はぁー。

 誰も止めないなら、私が出ないといけない気がして来て、腹を括って立ち上がった。

 私に責任はなくても、シーラが事を起こした要因ではあるんだ。

 この容姿なら、保護局を通さなくても一般窓口で出国手続きしてもらえた気がするし。

 ドレスの裾を払って、手にした荷物を鞄にしまう。準備万端、と胸を張って一歩踏み出そうとした。

 突如、怒気を含んだしわがれ声がその場に響きわたり、次の一歩を出せなくなった。


「アーデルベルトは、いつから異名持ちを高級娼婦として扱うようになったのかね? それとも親善外交の献上品かね?」


 お年寄り特有の掠れ声なのに、威厳と風格の篭った声音だった。


「しょ、娼婦!? 何をいってらっしゃるの!!」


 シーラの声に動揺と屈辱が混じる。


「聞いたままだが? あちらは不細工だが己は適役だの、陛下にお似合いだの、どう聞いても娼婦が男を口説く時に使う常套句ばかりじゃないかね?」

「ククッ……ジャルジェ、女性に向かって本当のことを口にするでない。外交問題になったらどうする?」


 リカルド国王は、ジャルジェと呼んだ老人を嗜める物言いを装いながら、シーラに冷笑と痛烈な嫌味を返した。


「私に向かってなんてこと! 失礼にも程があるわ! 罰を受けなさい!!」


 美しいと評判の顔を真っ赤にして歪め、シーラはたくさんの指輪をした左手を振り上げた。

 あっ、と自分の声が耳に届いた時には、私はご老人とシーラの間に向かって走りだしていた。

 後になって振り返ってみれば、その行動は間抜けとしか言いようがないことだった。私が飛び出さなくたって、どちらにも護衛がついているんだ。むしろ邪魔になったんじゃないかなと思うくらいだ。

 でも、その時の私はシーラの傍若無人をこれ以上許しておけなかった。

 ご老人を背に庇ってシーラの前に立ち塞がり、いい加減にしなさいよ! と叫んだ私の視界がふっと陰った。

 誰かの広い背中が、私の視界を覆っていた。 

 それと同時だった。

 シュパン! と何かが破裂したような音が背中越しに聞こえ、周囲からおお! と声が上がる。

 私は、何が起こったのか分らず、ただ目の前の誰かの広い背中をあんぐりと口を開けて見ていた。


「何をやってるんだっ、馬鹿者!」


 呆然と突っ立っている私に、背中の上についている頭がぐりんと振り向き、私を大声で叱りつけてきた。


「ギル……バートさん……」


 自分の行動すら無我夢中だった私は、何が何だか分からず頭が大混乱して、ただ彼の名を呼ぶしかできなかった。

 その間にも、周囲は大変な状況になっていたのに。

 

「防御も攻撃できないお前が飛び出して、何のつもりだ!!」


 ギルバートに腕を掴まれて引きずられながら広間の隅に連れていかれ、頭ごなしに怒鳴られて、私は肩を竦めて震えた。


「で、でも、お爺ちゃんの代わりに叩かれるくらいは……」

「大馬鹿者! あの女は攻撃魔法を行使しようとしたんだ!! 当たっていれば大怪我ではすまなかったんだぞ!!」


 彼の厳しい叱責に、私は蒼褪めながら頭一つ分高い所にある顔を見上げた。

 私の家で見た戦闘直後の時とは違う、痛みを堪えるような険しい彼の表情を見て、私はとても無謀で危険なことをやらかしたのだと自覚した。

 冷汗と共にがたがたと身体が震え出し、それを抑えようと自分を抱きしめ顔を逸らせた。

 向けた視線の先には、痛ましいくも情け容赦のない光景があった。


「――その女を残して、後は即刻送り返せ!」

「横暴だぞ! 我が国の異名持ちを!!」

「お、お前たちは、どうして我々を拘束しておるんだ! 我が国の兵だろうが!!」


 リカルド国王の前には、捕縛スキルで自由と言葉を奪われたシーラが転がされ、彼女のパトロンたちは後ろ手に拘束されて跪かされていた。それに加え、可笑しなことに三人を押さえ込んでいるのは、アーデルベルトの特殊部隊員三名。

 混乱が増すばかりの私は、たった今避けたギルバートの目をもう一度見上げた。


「どういうこと……?」


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