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18話・船旅のお楽しみ

2話更新。こちらは二話目。

リンカ視点に戻りました。

今度はガールズトーク。


 私に与えられた女性専用の一等個室は、洒落た内装のゆったりくつろげる広い客室だった。主寝室、居間、応接間と部屋が三つに分かれていて、その内の応接間では『光の魔女』ご一行に同行していた女性たち全員が、思い思いの格好で寛いでいた。

 なんで、こんなことになったのか。

 シーラに接近拒否された同行女性たちは、結局は一行から外されて、別行動を余儀なくされたらしい。食事や遊技場などの、一同が会するような場所は特に。

 私は乗船したその日の夜で早々に懲り、ご一行様とは別の乗船客として扱ってもらうよう客船の統括支配人にお願いした。元々別口のお客なのだから、当然の申し入れだ。

 私が距離を取ったその後、それはそれは大変だった様子。

 仕事として同行してきた女性たちは、酷い扱いに耐え切れず上司や主に直訴したそうだ。当惑した雇い主たちは、最初は返答保留にしていたのだけれど……。

 

 護衛部隊の紅一点。第三部隊員ファミーナさんは、護衛対象が女性だってことで選ばれたのに、その対象者から「目障りだわ! 私の視界に入らないで!」宣言されてしまって護衛任務から外された。


「いいのよ~。報告書作成や移動先の室内点検作業なんて仕事もあるし~。楽して優雅な豪華客船&国外旅行が楽しめるなんてね~。し、あ、わ、せ~」


 任務中は長い灰褐色の髪を結い上げて、きりりとした表情で颯爽と歩いていた大柄美女は、今は豊かな髪を解いて背中に流し、ふんにゃり歌うような調子をつけて幸せそうに宣う。

 その手に、高級ミード酒がたっぷり注がれたグラスが納まってますが。


 シーラのパトロンその一、某中央議員の女性秘書ミランダさんと、その二の大財閥当主の女性秘書マーリアさんのおふたりは、「秘書を連れ歩くなら、私の側に寄らないでくださる?」とシーラに告げられてしまった上司や主から同伴を免除された。


「私たちだって裏方作業がびっしりあるわ。議員が仕事そっちのけですから、遠慮なしに仕事を進められてありがたいくらいよ。何十倍も気が楽だから、快適よね?」

「ええ! あんな女に侍女扱いされてまで同行するなんて、こっちから願い下げよ。お役御免に感謝だわ!」 


 きっちりかっきりした簡素なドレススーツに身を包み、静かに目立たず上司や主の一歩後ろに無表情で控えていたおふたりは、今や百花繚乱の勢いで自分を開放し、妖艶な美女たちが希少ワインを次々と飲みまくっている。


 そして最後の四人目。軍のお偉いさんの補佐官カーリーンさんは、シーラから直接攻撃をされて参ってしまった女性。驚いたことに、食事の席でいきなりグラスの中身をかけられたり、気に入らない料理をお皿ごとぶつけられたリ……。お偉いさんが見かねて、こちらも同伴義務を解除してもらえた。


「うふふ。私ね、公では将軍の秘書扱いなのだけど、実は保護局からの出向局員なの。お仕事はぁ、シーラの安全保障を建前とした監視」


 艶やかなダークブルーの巻き毛をふわふわと弾ませて、下戸の彼女は私と一緒に彩り豊かな素晴らしい夕食を堪能中。

 オイルに濡れた形良い唇をぺろっと舐めて、長い睫毛の下から私を見詰めて、さらりと告白した。

 当然、私を含めた三人は「え!?」と声を上げて、彼女に注目する。

 綺麗にお皿の上を片付けたカーリーンさんは、軽い果実酒を一口含んで食事を終えると、ナプキンで口元を拭いながらチラチラッと私たち一人ひとりを見やって微笑んだ。


「ねぇ、リンカさん、どうしてシーラが軍の治療院なんかにいると思う?」

「へぇ? どうしてって……『光の魔女』だからですよね?」

「はずれ。彼女は『光の魔女』だけど、治療士じゃないわ。ただの無職の女よ」


 とんでもない衝撃が他の女性たちを硬直させ、私はぽかんと口を開けて間抜け面を晒した。

 開けていた口の中に、悪戯な目をしたカーリーンさんが、ぽいっとベリルの酢漬けを放り込んだ。目を白黒させてのどに詰まりそうになったベリルを噛み砕いて飲み込む。

 私の口が塞がっているため、代わりに酔いに頬を薄っすら染めたファミーナさんが眉を吊り上げ叫んだ。


「じ、じゃ、なんで軍の治療院にいるのよー!?」


 彼女は軍人だ。シーラといちばん近い場所にいるんだもん、腹立たしいよね。

 私も同じことを問いたい! 問い詰めたい!


「あの女はね、軍本部に匿われてるの。お外でいっぱい恨みを買ってしまったから。それもね、上流階級の方々からね。もう、大変」

「恨みって……色っぽい話?」

「それなら、別に誰も気に止めないわ。異名持ちとはいえ、所詮は一般人ですもの。血筋が最優先の方々が、お遊び以外で優遇する相手ではないし。あの女が犯したのはね、大金を請求しておきながら満足な治療も施さずに逃げたこと。告訴状が六通届いたわ」


 カーリーンさんが、また意味深長な眼差しで私を見る。

 なんだろうと考えて、はっと思い至った。


「その六件って、もしかして私に来た依頼……の?」


 私はまだ残っている食事の手を止めて、水を一息に飲み干した。

 思い当たるのは、あの忌まわしい出来事が起こった依頼だ。

 保護局に登録している異名持ちの中で私のように自営業を営む者に、保護局が仲立ちして依頼が届けられることがある。保護局の仕事ではないけれど、登録異名持ちに向けた待遇の一環として行われている。

 共和制国家だけに、公には国民全員が平等と国法に定められているため、依頼人が誰であれ、受けるかどうかは異名持ち側の意思が尊重されている。

 異名持ちとはいえ、平時は一般の治療士や薬師と同様に町や村の治療所を回ったり、信用の上で主治医になったりが普通だった。私はその場に異名は持ち込まず、ただの治療薬師として仕事を続けていた。

 そんな順調な生活の中に、突然保護局から連絡が入った。

 どんな治療を受けても治らない患者がいる、と。

 初めの二件は順調だった。ロンド婆ちゃんと顔馴染みの老婦人だったおかげで、こんな私でも『翠の魔女』だと疑われることなく、何ごともなく無事に快癒した。

 ところが、三件目で問題が起こった。

 先の二件が上手くいったため、私も保護局も油断していた。

 あの二件の患者さんは、ロンド婆ちゃんから私の話を聞いていたから穏やかに事が済んだだけなのに。

 なまじ二件の依頼人をあっさり治してしまっただけに、『翠の魔女』の噂が先行して異名だけが注目されてしまった。

 結果は、悲しい現実だ。

 心の痛みと肉体の痛みを立て続けに味わい、私は保護局に入る依頼が怖くなった。

 人の病を治す仕事なのに、私のほうが病んでしまいそうだった。


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