19話・酔っぱらい美女は、大暴露する
注意:昨日分の更新ですが、予約機能設定ミスで一話のつもりが間違って二話更新してしまいました。
案内を書き入れていなかったため、読み忘れをした方がいらっしゃるかと思います。
どうも変だな?と思われた方は、ご確認くださいね。
私とカーリーンさんは夕食を終えるとおのおのグラスを片手に、食事用のテーブルから部屋の隅に設けられた寛ぎの空間に場を移した。
酒豪さんたちは夕食の料理を酒の肴にして、初めからソファやカウチで羽を伸ばして酒宴を開いている。高級料理にレアなお酒をバンバン消費している割には、すこしも乱れないところ尊敬に値する。
女同士の飲み会だけに、彼女たちは品格は保ちつつも態度は大胆だ。普段は隠している素肌を惜しげもなく晒し、無防備な部屋着でさまざまに心身を休めている。
「異名持ちの紹介って、保護局から証明フォトを出したりしないの?」
酔いの欠片も見せずに飄々と尋ねたのは、胸の谷間も露わな姿勢のミランダさんだ。亜麻色の髪を小花を散りばめたリボンと緩く編んで、片側から垂らし、お堅い秘書から色っぽい女性に変身している。
私は草木で染めた柔らかいリネンの室内着で美女軍団の中に混じり、シードルを水で割った軽いものをチビチビと舐めながら、カーリーンさんに目をやって助言を求めた。
保護局員だと自ら暴露した彼女は、仕方ないといったふうに溜息をつくと話しだした。
「異名持ちが受諾したのち、身上書や契約書と一緒に小さなフォトを添付したマギ・ディスクを依頼人宛に送るの。ただし、誘拐や付きまとい、悪戯防止のために、添付するフォトは小さくてすこし不鮮明な物って決まってるのよ。でも、身上書をきっちりと確認して、家人や使用人にも通達しておけば問題は起こらないはずなのだけどねぇ……」
結局は、人間性の問題。
私を不審に思っても、正常な精神構造をしてる人はいきなり暴言や暴力なんて使わない。私だって、こっちからお願いした仕事じゃないんだから「残念ですが、依頼は下げます」と明確にお断りされたら、さっさと退散する。
「異名持ちは美人麗人が常識ですから、誤解を招くのは仕方ないと納得してますよ」
私も飄々と返してみる。
四人の美女は、目を丸くして私を見詰めた。
私は、気概を見せるべき時と相手を間違えないようにしているだけ。
異名持ちだから、職業に関しては人より多くの選択肢を持っている。何度も転職を考えたけれど、やっぱり私は薬師の仕事が好きだし、異名に負けないくらい努力していると自負している。
目を濁らせた人を相手に、無駄な時間は使いたくない。
「私は、異名持ちであると同時に治療薬師です。私の能力を必要とせず、美しい異名持ちと会いたいだけの方々とは縁がなかったんだと、思うだけです。困るのは私じゃないですし?」
「最後の一言が、本音ね~」
ファミーナさんが、大口を開けて後ろにのけ反って笑う。
カーリーンさんも腕組みをしながら、ひとり頷いている。
「あの女に、リンカの爪の垢を煎じて飲ませたいもんだわ!」
「それにしても、よく軍のお偉方はシーラの行動を許してるわね? 人死にがでそうじゃない?」
「すでに危なかったわよ~。 第四の隊長が犠牲になりそうだったわ~」
ファミーナさんが、恐ろしいことを柔らかな口調で言い放つ。
「あれは、リンカが来てくれて助かったわ……。匿っているのに、内部でバカをされちゃ目も当てられない」
「じゃあ、さっさと追いだせばいいでしょ? ダメなら閉じ込めておくだけでもいいのに、なんで自由を与えてるの?」
「軍の上層部が色ボケ揃いなのよ。パトロンになれない代わりに、避難所を提供したのよ。内部にお色気魔獣を引き込んで、尻拭いは現場に丸投げだけどね……」
「監視役は何してるのよ!」
シーラの批評から、今度はそれを放置している軍部と保護局に批難が移った。
庇いたいけれど、いちばん被害を被っている私じゃ口を挟めない。それに、私が問いたかったことを、彼女たちが代弁してくれてるしね。
カーリーンさんが困ったように眉を寄せて、ため息混じりに自嘲した。
「……リンカには本当に申し訳なかったけれど、脳内お花畑女を放逐するため、今回あの我がままを逆手に取ることにしたのよ」
またもや恐ろしい裏の暴露がきた。
私は自分の顔色が変わるのを感じながら、カーリーンさんににじり寄った。
「では! あの情報漏洩も……?」
「あれは別口よ! あの女、軍内部でも好き勝手してるけど、保護局でもお金と色気で局員を買収して情報を集めてたのよ」
うわーとしか感想はない。
あの情報流出の速さは、やっぱり故意に漏洩があったのかぁ。保護局主導じゃなく個人的にだけれど、そんな状態がまかり通ってるってのは局自体に責任を問えるよね。
「でも、放逐って。外国へ連れてって捨ててくるってことですか?」
「まさかぁ! それをしちゃったら、保護局全体の責任になっちゃうわ。つまりね、あちらの誰かに貰ってもらおうと計画中」
ぷっと誰かが噴き出し笑った。
つまりは、惚れっぽいシーラのお嫁入先を探しての旅ってことか。
「いいの? 異名持ちよ?」
本気で心配しているわけじゃない調子で、マーリアが言う。
腐っても異名持ちだ。表向きでは、異名持ちは大切にされて国外に出ていかないようにされている。
他の大陸と比べて異名持ちが多いアーデルベルト共和国だけど、だからといって亡命されるのは困るらしい。
「異名があるだけの無能ならいいけど、問題行動ばかり起こす異名持ちは必要なしなのよ。異名があるだけに、上流階級のバカ子息並みに有害認定したのよ!」
カーリーンさんは、すくっと立ち上がると両手を腰に胸を張って、そう宣言した。
気圧された私たちは、黙ってこくこくと頷いた。
「でも~、大丈夫なの? 彼女は現在、軍内部ではロベルト・アーベルングの死亡原因の重要参考人なんでしょう?」
「え……そうなんですか!?」
深刻な顔で水を差したファミーナさんの話に、私は飛びついた。
治療薬師の立場から見て、人の命を軽視するシーラが国内からいなくなるのには大賛成(他国の人、ごめんなさい)だけど、ロベルトの死因と関係があるなら見逃せない。
「そうなのよ~。なんでも、ロベルトとカークベル少尉がシーラの寵愛を競い合った末に、カークベル少尉が毒殺したって噂が流れているの~」
「はぁ!? な、なんでギルバートさんが……。で、でも、ギルバートさんはずっと入院してましたし、完治直後に私を捜しに来て……ロベルトさんが亡くなってから帰還しましたよ? それまでずっと私と一緒でしたし!」
「うん。知ってるわ~。でも、毒は遅効性の物もあるでしょう? あなたの捜索任務に出る前にって疑われても、ね?」
「あの! ギルバートさんはロベルトさんが私を殴打した事件自体、まったく知りませんでしたし!」
考えるより先に、ギルバートを擁護するための言葉が溢れる。
人が嘘をつける生き物だと知っている私は、冷静だったら言わない訴えすら。
私の必死さに気づいたファミーナさんは、前のめりの私の頭を優しく撫でた。
「わかってる~。私だってカークベル少尉が、そんな無意味なことをしでかす人ではないって知ってるわ。だいたい、追いかけ回していたのはシーラのほうで、少尉の眼中にあの女なんてなかったわよ~。基地のほとんどの連中が知ってる事実よ~」
「じゃ、なんでそんな噂が……」
「少尉を、そのくらい気に入らないって奴もいるってことよ~」
なるほど。
ギルバートがふと零したあの「今は、ありがたい」って台詞は、こんな背景があったのか、と私は納得した。
辛いなぁ。彼も私も。




