表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/22

最終話:ここより永久に

蛇足の後日談です。

ストーリーとしては前話で概ね纏まってます。

「あんたの幼馴染の勇者ちゃん、とうとう刺されちゃったって」

「…………はぁ?」

「バカよねぇ、勇者ハーレムなんて物語の世界だけの絵空事なのに。現実でそれやろうとしたら、単なる浮気性のユルい男認定されるってのにね」


 シーナは未だどこにも定住することなく、あちらこちらを冒険して回って……と言うと聞こえはいいが要するにふらふらと落ち着きなく旅して回っているのだそうだ。

 以前仲間として傍についていた女騎士レイナは、このクロイツェルから撤退する際に立ち寄った国で士官することに決めたらしく、メンバーから外れている。


 故に当初はイリスとシーナの二人で旅をしていたのだが、徐々にイリスの束縛が激しくなってきたためそれを恐れたシーナは、旅先で出会った冒険者二人組と同行することにしてまたしてもハーレム状態を作り上げてしまった。

 イリスにしてみれば浮気行為に他ならず、新たに参入した二人にしてみればこれまで仲間だと思っていたお互いがライバルとなり、ただでさえ気が休まらないところに古参のイリスにはきゃんきゃんと口煩く牽制され。

 ついには醜い奪い合いになってしまったところで、とうとう禁断の刃物を持ち出したイリスが諸悪の根源であるシーナを刺した、ということらしい。

 しかもよりにもよって、新規参入した片方との同衾中に……だというから悲惨極まりない。


「あのイリスって女、ヤンデレだったみたいね。勇者を滅多刺しにした挙句、息絶える前に最大級の回復魔法をかけて復活させちゃってるんだから。生かすも殺すもわたし次第、とかつまりそういうことなんでしょうね……」

「……怖いですね」

「そうよねぇ。カイト、あんたも気をつけなさいよ?」

「…………は?」


 わけがわからない、とでも言うようにきょとんと目を見張ったカイト。

 その背後からわざとらしい咳払いが聞こえたことで、ヒルデベルトは苦笑した。


「あら、タイミング悪いわねぇ。男同士の話に女が割り込んでくるものじゃないわ」

「それは大変失礼を。ですがここには『男性』と『オネエ様』しかおいでないようでしたので」

「…………」

「カイト、用意ができたからこちらにいらっしゃい」

「あ、はい」


 睨まれても我関せずといった様子でさらりとスルーしたクリスティアナは、それまで準備をしていた別室に己の従者を誘う。

 従者の方も素直にそれに従って立ち上がり、それを見ていた魔王陛下は「はいはい、アタシはお邪魔だから帰るわよ」と少々拗ねたようにそう言ってさっさと部屋を出て行った。





 こちらへ、と誘われた部屋の中央には大きな魔法陣が浮かび上がっていた。

 その中央にカイトを立たせると、クリスティアナはゆっくりとその大きな陣に魔力を流し込んでいく。


「カイト、お願い事は決まった?」

「はい。もう決めてあります」

「わかったわ。それじゃ私の宣誓に続いて、それを宣言してちょうだい」


 今日で、カイトがこの城にきてちょうど1年。

 そして、死にたがりだった少年がクリスティアナの従者になる誓約をして……その期限がちょうど1年、今日はその【誓約の腕輪】が効力を失う日だった。


 本来この腕輪は何らかの誓約を交わし、それが叶えられれば効力を失って外れるものなのだが、今回の誓約は『期限に達した際に何らかの望みを叶える』という条件をつけられていたため、その望みが叶えられないと誓約が果たされたとみなされず、腕輪も外れることはない。

 故にもしカイトの望みがクリスティアナの能力の範疇を超えるものであった場合、腕輪が彼に悪影響を与えないようにと彼女は自らの陣でカイトを守護しておき、その状態で誓約の解除を行おうとしていた。


 ではまずわたくしから、とクリスティアナは腕輪に指先だけで触れながら厳かに宣言する。


「わたくし、クリスティアナ・レクターは従者イジュウイン・カイトとの従者の誓約が果たされたことを認め、この者の願いをひとつ叶えることで誓約の解除とする。……さあ、願いを」


 促されたカイトは、ごくりと唾を飲み込む。

 先ほどから緊張して、口も喉もカラカラだ。

 彼の心は決まっていた、後はそれを口に出すだけなのだが……どう言ったらいいのか、どう言えば上手く伝わるのか、この期に及んで彼はまだ迷い続けている。


「…………願いを」


 再度、急かすように促された彼はついに覚悟を決めた。

 一世一代、ここで噛みでもしたらきっと目も当てられないだろうと、必死になりながら。


「伊集院海斗は願う。……どうか、生涯お傍に侍る栄誉を。我が生涯をかけて、クリスティアナ・レクターのために尽くすことを、どうかお許し願いたい」





 今度は、クリスティアナが言葉を失う番だった。

 それまでの毅然とした態度はどこへやら、何度か口をあけたり閉じたりしながら物言いたげにカイトを見るが、視線が合うとまたそれをそらしてしまう。


「姫様、返答を」

「えぇと、そうね……どうしたものかしら」


 その白磁の頬が薔薇色に染まっているのは、カイトの見間違いではないだろう。

 彼女は盛大に照れているのだ、そして判断に迷っている。

 生涯をかけて貴方に尽くしたい、などと真っ向から言われてしまってどうしたらいいのかわからなくなってしまっている。


(反則だわ、こんなの。どう応えたらいいというの?)


 彼女に出来る選択肢は二つ……【承認】か【破棄】だ。

 承認を選べばカイトの望みを受け入れたことになり、彼は生涯をかけてクリスティアナの傍でずっと彼女のために尽くすことになる。

 破棄を選べばこの誓約解除は成立せず、腕輪が外れなくなってしまう可能性がある。

 そうなってもこの魔法陣の中ならばカイトに危害が加わることなく、腕輪を壊すことで無理やり解除させることはできるのだが……それでもできるなら、彼女は彼の望みを叶えることでこれまでの彼を労いたかった。


 生きる気力をなくしていた彼を無理やり従者にしたのは、彼女自身なのだから。

 異世界から『おまけ』として喚ばれ、勇者のいらぬ入れ知恵によって捨てられ、そんな彼の絶望につけこんで従者として働かせ、魔術を教え込み、この世界で生きていくための力と知恵を授けた。

 従者として過ごした1年後、彼が望むなら独り立ちできるようにと思ってやったことだったが、彼にとっては迷惑だったかもしれない……本当ならすぐにでも楽になりたかったのかもしれない。

 そんな彼に辛い思いを沢山させてしまった、彼が傷つく元凶なのだとわかっていて勇者とも対面させた、だからこそ彼の働きに応えて願いをかなえてやりたいと思ってはいる、のだが。


「……なんだかまるで、口説かれているみたいだわ」

「…………そう、思っていただいて構いません。これが最後になるかもしれないんだ、どういう結果になろうと俺は貴方を口説きたい。どういう形であろうと、貴方の傍にいたいんです」


 貴方が好きです。

 初めて声に出して告げられたその言葉に、クリスティアナは隠しようもなく首元まで真っ赤に染めて、瞳を潤ませた。


 承認か、破棄か…………その返答を聞く必要は、もはやないほどに。

 その紫紺の瞳は雄弁に、彼への想いを語っていた。





 魔法大国と呼ばれ、一時は周辺他国に恐れられたヴィラージュ王国。

 だが愚かなる王妃とそれを支持する国王他数名の側近という少ない人数の愚行により、長く繁栄を続けてきたこの王国は終焉を迎えた。

 最後の王妃となった女は断頭台で処刑され、王族の墓にも入れてもらえず小高い丘に埋められ。

 その王妃を心から愛したとされる最後の国王もまた、彼自身の望みから王妃の隣に埋められた。

 苦しむ国民達の旗頭となって王城に攻め入った北の辺境伯は、かつて学友から聞かされたことのある民主国家について学びながら、ゆっくりと国を立て直すべく有識者達と共に議論を重ねていった。

 そうしてできた民主国家ヴィラージュ……その初代元首の地位についたかつての辺境伯がとった最初の政策は、最後の国王夫妻によって国交断絶させられていた魔族の国クロイツェルと新たに交易を始めることだったそうだ。


 そのクロイツェルの当代魔王は、今までにない斬新な発想と抜きん出た行動力で魔族のみならず他国からも多くの支持を集め、だがそれに驕ることなく『ただ平穏であれ』をモットーに、長きに渡って国を治め続けた。

 そしてその片腕とも言われる妹姫も、他国との交渉の場に自ら出向いて折衝を行ったり、他国に暮らす魔族をはじめとする他種族の者達と交流したりと、忙しなくあちこち飛び回っていたという。


 その傍らには常に、片時も離れることなくまるで女性のような綺麗な顔立ちの青年がつき従っていたが、それが姫君の従者であるのか伴侶であるのか……その辺りについて詳しいことは当人達も語りたがらなかったため、謎のままである。




最後までお付き合いいただきありがとうございました。

最後の最後、結局関係性は曖昧なままとなりましたが、その辺りはご自由にご想像ください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ