水曜日・過去 25
わたしたちはどちらに行くべきだと思う?智里がその問いを掛けている一方昌獅は大きな溜息を吐いていた。
「おい。」
「……。」
昌獅が声を掛けても友梨は何も答えない。
「………………友梨。」
名前を呼ばれ、友梨は観念したかのように昌獅を見つめる。
「………武器になりそうなものが全くないが?」
「……。」
「つーか、ここは廃ビルにでもなるのかよ。」
「どうなんだろう?」
何もない、本当に何もない廊下に友梨は給湯室やお手洗いなどを見て回るが何もなかった。
「辛うじてゴミ箱はあったがな。」
「でも、持ち運び不便だよね。」
「だよな。」
「……。」
友梨は抱えないと持ち上げられないゴミ箱を一瞥して溜息を零す。
「そんなに溜息ばかり零すと幸せが逃げるぞ。」
「そういう昌獅だって結構溜息を吐いていると思うけど?」
「吐きたくもなるがな。」
「まあね。」
互いに顔を見合わせ二人は苦笑する。
「探していない部屋と言えば、この明らかに認証カードで開きそうな部屋くらいしかないんだがな。」
「うん…、でも、認証カードがないと開きそうもないしね。」
「どうだろうな。」
ポツリと呟かれた昌獅の言葉に友梨は首を傾げた。
「えっ?」
「ここまで何もないという事はそういうシステムもダウンしている可能性があるんじゃないか?」
「あっ。」
「だが……。」
何か考えるように口を噤む昌獅に友梨は不安になる。
「だが…って何?」
「扉を開けたらまた出てるかもな。」
「うっ……。」
先ほどの嫌な事を思い出し友梨は顔を青くさせる。
「あんな思いをしたくないな。」
「……………だな。」
昌獅の脳裏に一瞬、落下する友梨の姿が過り、胸が痛くなった。
「昌獅、胸が痛いの?」
無意識に胸に手を当てていた昌獅はハッとなり、首を横に振った。
「何かあったら言ってね。」
「何かあるのはお前だろうが。」
「えっ?」
「何でもねぇよ、つーか、階段から落ちたお前の方こそ大丈夫なのかよ。」
「あっ、うん、特に痛いところないし、大丈夫だよ。」
「……。」
胡乱な目つきで昌獅は友梨を見つめる。
「な、何よその眼は。」
「……絶対に無理はするなよ。」
「無理なんてしてないよ、というか、昌獅たちに頼りっぱなしで何の役にも立っていないのに。」
苦笑を浮かべている友梨に昌獅は怪訝な顔をする。
「何の役に立っていないだと?」
「うん、そうだよ、さっきだって自爆して昌獅に迷惑かけたし。」
「あれは不意打ちだったし、それに…俺の手だって届かなくて、お前を……。」
「あれは昌獅の所為じゃないって、私の不注意だってば。」
「いや、あれは。」
「私の不注意、はい。これでこの話は終了。」
無理やり話を終らせる友梨に昌獅は不満そうに彼女を睨んでいるが、友梨はそれに気づいていないのか、扉を睨むようにして見る。
「どうせ、開くか、開かないかも分からないし。」
意を決した様子で友梨は扉の取っ手に手を伸ばす。
「お、おい。」
「さっきは明けてくれたでしょ、今度は私が明けるから。」
ニッコリと笑い友梨は躊躇う事無く扉を開ける。
「……何も起こらないね。」
「ああ。」
幸いにも何も起こる事無く扉が開く。
恐る恐る友梨が覗き込めばそこはロッカールームだった。
「うーん……。」
「置き傘か。」
二人は同時に入り口付近にあったそれを見た。
昌獅は何処でも買えるようなビニール傘を突かみそれを振り下ろす。
「無いよりはましだな。」
「そうだね……でも…いいのかな?」
「終われば返せばいい。」
「……。」
友梨は胡乱な目つきで傘と昌獅を交互に見る。
「何か壊しそう。」
「何か言ったか?」
「何でもない……。」
友梨もこれ以上の武器になりそうなものはないのだろうなと、分かっているので渋々透明なビニール傘を掴む。
「ごめんなさい、お借りします。」
友梨が心の底から謝っていると、友梨の携帯が震える。
「えっ?」
友梨は首を傾げ、携帯を見るとメールが一通入っていた。
「智里?」
友梨は首を傾げ、それを開く。
「ナニコレ?」
「どうした?」
「どっちに行けばいい?」
「はぁ?」
友梨の言葉に昌獅はとうとう友梨の頭がおかしくなってしまったのではないかと疑う。
「智里のメール内容。」
「……。」
「あっ、添付ファイルがある。」
友梨はそう言って智里が送って来たメールの添付ファイルを開ける。
そこには二枚の写真があった。
「んー?」
「どんなんだ?」
友梨は写真を見て首を傾げ、昌獅は友梨の手元の携帯を覗き込む。
「何だ?」
「何だろうね。」
二つの字の写真。
「「四」と「肆」か。」
友梨は首を傾げ、メールに返信しようとする。
「どっちでもいいんじゃない、「四」でも「肆」でも……ってあれ?」
メールを打っている最中に友梨は首を傾げる。
「どうした?」
「うん…昌獅、携帯かしてくれる?」
「あ?ああ。」
昌獅はよく分からなかったが友梨に携帯を差し出す。
「うん…やっぱりだ。」
友梨は二つの画面を見ながら一人頷く。
「何がやっぱりなんだ?」
「ほら、メールの返信をしようとした時に、「肆」の方を打とうと思ったんだけど、その時さっき見たのと微妙に違っていたから。」
昌獅は友梨が見せる二つの画面を見比べ納得する。
「確かに右側の字の棒線が一本ないな。」
「でしょ。」
「ならば、「四」って事か。」
「多分ね。」
友梨は昌獅と会話しながら返信を打つ。
「よし、これで終わり。」
「やっぱり、お前は役立たずじゃねぇよ。」
「えっ?」
友梨は昌獅の言葉を聞き取れず、首を傾げる。
昌獅が口を開こうとした瞬間、運が悪いのか携帯が震える。
「えっ?」
「……。」
「ああ、智里がそろそろ合流しろって。」
「どこでだ。」
「今二階だから、二階に来いってさ。」
「そうか。」
「智里の機嫌を損ねないうちに行こうか。」
完全に友梨は次の段階に入ってしまったので、昌獅は溜息を零し頷いた。




