水曜日・過去 12
「行っちゃったか、それにしても、あの子もやるじゃない。」
「…またお前は良からぬことを考えているのか?」
「まさか。」
ナツはクスクスと笑いながら振り返れば見慣れた青年の姿があった。
「……お前のその笑いは何か企んでいるんだろう。」
「どうでしょうね?」
「……。」
げんなりしている青年にナツは弟の恋人候補の少女を思い出しまた笑みを深くする。
「死んでからずっと弟や勇真の事が心配だったんだけど、やっぱり月日が流れるとうまくいくものはうまくいくんだね。」
「ナツ?」
「転生先、決まったよ。」
ナツの言葉に青年が愕然とした。
「なんて言った。」
「だから、転生先決めたって。」
「だが…お前は……。」
ずっと転生する事を拒んでいた彼女から紡がれた言葉に青年は戸惑う事しか出来なかった。
「貴方だって言ったじゃない。」
「言った、言ったが…。」
「唐突過ぎる?」
青年の戸惑う姿が新鮮で虐めたくなったナツだが、そろそろあの弟子たちも帰ってくるので潮時だと思った。
「確かにね、でも、貴方と会ってから考えていたわよ、貴方だって言ったじゃない、『お前はいつか必ず転生しなくてはならない、それが理だ。』待ってもらってありがとう、さっき決心がついた。」
「早くはないか?」
「むしろ遅いくらいよ。」
ナツは自分の胸で生まれ育っている気持ちに蓋をして、ニッコリと微笑む。
「ずっと考えていた、弟がどうなったのか、あの子は優しくて無器用な子、だから、勇真をいつまでも恨んでいるんじゃないかと心配だった。」
「お前の……恋人は心配じゃなかったのか?」
苦いものと渋いものを合わせて食べているかのような顔をする青年にナツは思わず吹き出す。
「ふははは、あー、ごめん、ごめん、そんな不機嫌…いや、この場合拗ねないでよね。」
「……。」
顔を顰めそっぽを向いている青年にナツは容赦なく腹パンを食らわす。
「ぐっ…。」
くの字になる青年にナツは清々しいまでの笑みを浮かべる。
「もう、勝手に勘違いしないでよね、今日、明日ですぐにいなくなりはしないわよ。」
「そう…なのか……。」
痛みで顔を顰めている青年にナツは腕を組み頷く。
「そうよ、転生先は弟とさっきの友梨ちゃんとの間の子ども。」
「だが…。」
「うん、まだくっついていないし、くっつくかも分からない。」
「いや、そう意味ではなく。」
「えっ、もしかして、くっつくのは決まっているのっ!」
喜色を浮かべるナツに青年はたじろぐ。
「いや、これは、その……。」
「ふふふ、そうなのね、んじゃ、きーまり。」
「おい、ナツ。」
「さっきの続きだけど。」
青年の言葉を遮るようにナツは少し真剣みを帯びた声音を出す。
「弟はきっと勇真を恨んで、憎んで、もしかしたらそれで生涯が終わってしまうんじゃないかな、ってすごく不安だったんだ。」
「ナツ。」
「でもね、友梨ちゃんを見て思ったんだ、この子なら昌獅が放っとかないって。」
「ん?」
思っていた言葉と若干違う言葉に青年は首を傾げる。
「そこは救ってくれるとか思わなかったのか?」
「まさか。」
カラカラと笑うナツに青年は溜息を零す。
「思っていないのか?」
「思っているわよ、でも、その為には昌獅が友梨ちゃんに心を開かない事にはどうにもならないわよ。
同じ言葉を同じ人に言われても受け入れられる時と受け入れられない時ってあるし、それに言われた人によっても違う、と思わない?」
「まあ、そうだな。」
「で、うちの弟はそれが顕著な訳で、気の許していない人じゃないと聞いてくれないし、ガードが堅い訳よ。」
「……。」
「で、友梨ちゃんを見てビビっと来た訳、この子なら昌獅も気に入るんじゃないかってね。」
「難儀な奴だな。」
「そうね、でも、昌獅なら友梨ちゃんを守ってあげられるし、きっと、上手くいくような気がするんだよね。」
「そうか。」
「と、言う事で、あの子たちがうまくいくまで引継ぎやらなんやらをしないとね。」
背伸びをするナツに青年は何か言おうとするが、それよりも先にナツは遮る。
「時間は有限、さっさとやらないとっ!」
「おい、ナツ。」
「さーて、まずはあんたの手綱の取り方を伝授しにいかないとね。」
「……。」
「あんた、どうせ、また抜け出してきたんでしょ。」
ジト目のナツに青年はたじろぐ。
「図星。」
「……。」
「やっぱり、伝授しとかないと後々が大変そうね。」
ナツは目的地に向かって踏み出す、止まっていた時間は動き出した、それは彼の少年…いや、もう青年になっているだろう彼と、彼を置いて行ってしまった姉の時間が進みだす。




