1.穏やかな陽気
久しぶりの投稿です。よろしくお願いします。
穏やかな陽気の中、平原地帯を一台の馬車が進んでいた。
「フンフ~ン、フフフフ~ン」
リズミカルで聞き心地の良い鼻歌。
鼻歌を歌うのは、銀髪の少女だった。
整った顔立ちの少女で、年齢は十五歳前後といったところ。
その銀髪の少女の上機嫌な様子に、隣に座る黒髪の若い男はわずかに笑った。
「ははッ。それ、何の歌だ? ノイ」
ノイと呼ばれた銀髪の少女は、軽い調子で応えた。
「うーん、そうだねー。今日は天気が良くて気持ちいいなーって歌」
「いつにも増して適当だな」
「そうだよー、適当だよー。でも楽しいよ、ザングも歌ってみなよ」
ノイはそう言って、また鼻歌を歌い始めた。
「フンフ~ン、フフフフ~ン」
ザングと呼ばれた黒髪の男は少し躊躇うも、ノイに視線を向けられて観念したように息を吐いた。
「フンフ~ン、フフフフ~ン」
「フンフ~ン、フフフフ~ン」
ザングとノイの鼻歌が馬車の上で重なった。
青空の元に響く二人の鼻歌。
気持ちよく鼻歌を歌う二人の様子に、馬の手綱を握る男は笑った。
「ハハハッ。お二人さん、仲がいいんだねえ」
優し気な表情でそう言ったのは、白髪の初老だった。
「そうだよー。わたしとザングは仲良しなんだー。というか、わたしたちは恋人同士なんだから当たり前だよ。ねー? ザング―」
「そうだったかな? それは俺の認識と違うようだが」
「えー、違わないよ」
「意見の食い違いがあるようだ」
「えー」
と言って、ノイは少し頬を膨らませると白髪の初老へ目を向けた。
「ねえー、ロイドさんはどう思うー?」
白髪の初老がちらりと後ろを向くと、ノイから視線を向けられていた。
「わ、儂かい?」
「ロイドさんはどう思う? わたしとザングの関係について」
ロイドと呼ばれた白髪の初老は考える。
「い、いやあ、そんなこと言われても儂にはわからないよ」
「そっかー、わかんないかー」
「あ、ああ……。だけど君たちが仲がいいってのはわかるよ。それに、儂は驚いているよ。傭兵ってのは、もっと荒々しくて近寄りがたい印象があったからね。こういっては何だが、君たちは傭兵らしくないね」
そのロイドの発言に、ザングは言葉を返す。
「まあ、傭兵と言っても色々な奴がいるからな。だが安心していいぞ、ロイド。俺たちの腕は確かだ。大船に乗ったつもりでいろ」
頼もしくはあるが横柄な態度のザング。
その態度にロイドは気にすることなく、優しい笑みを浮かべた。
「それは頼もしい。流石は新進気鋭の傭兵、ザング・アーレント。そこまで言い切ってくれるのなら、君たちに依頼してよかったと心から思うよ」
「任せろ。後悔はさせんさ。ところでロイド、一つ忠告がある」
「なにかな?」
「護衛は付けた方がいい。魔物や野盗、街道は危険が潜んでいるからな。今は俺たちが居るからいいが……次からは付けるべきだ」
「そうだねえ。それはわかっているんだけど、貧乏商人は懐事情がねえ……。それに、この辺りは比較的安全だって言われてるから……」
「でもロイドさん、命はお金じゃ買えないよ。それに、最近は魔物の動きが活発になってきてるし、用心は必要だと思うよ」
「確かにそうだね。うん、わかった。次からはそうしよう」
「うん、それがいいよ」
とロイドが返事をした時だった。
風を切る音が聞こえ、空から何かが飛来した。
それは、鋭い鉤爪を持つ巨大な魔物。
体は獅子。頭部は鷲。
巨大な両翼を使って空から襲来したのは、グリフォンと呼ばれる魔物だった。
グリフォンは砲弾のような勢いで、馬車の荷台に着陸。
グリフォンによって荷台は砕け散った。
荷台に居た二人は当然無事ではすまない。
しかしそれは、二人が並みの存在であればの話だ。
「おいおい、クソ鳥め。いきなり何をしてくれる?」
グリフォンの背後に、怒りの形相を浮かべるザングが立っていた。
背後からの声に、グリフォンは後ろを覗く。
獲物を逃したグリフォンは、鋭い視線をザングに向ける。
そしてザングから少し離れた位置に、ノイは立っていた。
「あーあ。馬がびっくりして逃げちゃった」
そう言ってノイは、抱え上げていたロイドを地面に下ろした。
グリフォンが着弾する瞬間、ノイは一瞬の内にロイドを抱え上げて馬車から離れていた。
ロイドは目を白黒させた。
「お、驚いた……」
ノイは華奢な少女だ。
その少女の腕力と今さっきの動きは、大人の男でも再現不可能だろう。
「ロイドさん、怪我はない?」
「あ、ああ……ないよ。あ、ありがとう、お嬢ちゃん」
「どういたしまして」
「そ、それにしても……あれはまさか、グリフォン? 何であんな強い魔物がここに……? か、彼一人で大丈夫なのかい?」
そのロイドの問いに、ノイはニヤリと笑みを浮かべて答えた。
「大丈夫。見てて、ザングがやってくれるから」




