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90,終焉因子。

 卓の上に一本の蛇酒があるだけの狭い密室で、ヴァレンティンとユグリスに自分が“彼方人”であることを俺は打ち明けた。

 ふたりは腕組みをして立ち、真剣な表情で俺の話に耳を傾けている。

 それから、俺は自身のチートスキルについても打ち明け、アニーとともに第四階級の解放運動を行っていることも話した。


 「では君は事実上、あらゆるスキルが使えるということか?」

 再び険しい表情となって、ヴァレンティンがそう問う。

 「上手くやれば、誰のスキルでも自分のものに出来るとは思います。多少は条件がありますが……」

 「すまないが、信じられんな」

 ヴァレンティンが首を振る。

 「そんなスキルがあったら、国家転覆どころではない。世界がひっくり返ってしまう」

 「お前、まだそんなことを言っているのか?」

 空になったグラスを振りながら、ユグリスが口を挟む。

 「涼殿が様々な商品を造ったのを知っているだろう。それに、フレッシャー商会の裁判のことも知っているはずだ。それらの種々様々な活躍を考えたら、彼がなんらかの優れた能力を持っていることは明らかだ。……それを疑うなど、馬鹿の愚行だ」

 「馬鹿とはなんだ」 

 ヴァレンティンが、顔を紅潮させて言う。まるで、ライオンが怒ったような迫力がある。

 「馬鹿ではないか。自身の常識に囚われ新しい事実を直視できないなど、馬鹿そのものだ」

 「なんだと!?」

 「ちょ、ちょっと待ってください」

 今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうなので、俺が口を挟む。

 「それより、おふたりが”国家転覆“と口にしたのは、どういう意図があるのですか」

 「……そのことについては、私から話そう」

 ユグリスの胸倉を掴んでいた手を離し、ヴァレンティンがこちらに向き直って、そう言う。


 ヴァレンティンやユグリス、セナ、それからヴィクターは、長い時間を掛けてこの国にクーデターを起こそうと画策していたのだという。特に、ヴァレンティンを除く三人は幼馴染で、ごく若い頃からそうした革命の意識を共有していたのだという。そこへ同じ意識を持つヴァレンティンが仲間に加わり、今のような密やかな革命軍が出来上がった。

 四人はそれぞれ力をつける為に、ヴァレンティンは軍隊へ、ユグリスは司法の世界へ、セナは鍛冶職へ、ヴィクターは貴族社会へ、それぞれ分裂し、その世界で上へとのし上がることを目指した。

 

 「とはいえ」と、ヴァレンティンは苦し気に言った。「私は軍部を掌握し、ユグリスは司法の最高権力者となり、セナとヴィクターもそれぞれの世界で成功を収めたが……」

 「上手くはいかなかった」と、ユグリスが口を挟む。「この国の今の腐敗した現状を多くの貴族たちは内心で歓迎している。私たちは賛同者をほとんど得られなかった」

 「やがて私たちにも革命の意識は薄れて来た。歳を重ねるに連れ、現状を受け入れ始め、互いに連絡を取ることも稀となった」

 「……私たちだけでは、この国をひっくり返すような力はとうとう持てなかったのだ」

 「いつも感じていたことだが、私たちにはなにかが欠けていた。パズルの最後のピースのようなものが。……私たちは、君がその”最後のピース“なのではないか、と感じている」


 しばしの沈黙のあと、ヴァレンティンが再び口を開く。


 「しかし、……私はどうしても信じられん。君の言う“分け与える”というスキル。それを目の前で見せてはくれまいか。目の前で実行してくれれば、私も信じよう」 

 一瞬なにか口を挟みかけたが、真剣な表情で、ユグリスも頷く。


 「……良いですよ。では、ヴァレンティンさん、あなたに“配合”というスキルを分け与えます」

 「配合か。確かにそのスキルを、私は持っておらん」


 ヴァレンティンの胸元に掌を翳し、”配合“を彼に贈与する。

 かすかな暖かみが腕を通してヴァレンティンの身体に流れ込み、僅かに発光したあと、ヴァレンティンが”配合“を習得する。


 「……終わりました」

 「……信じられん。確かに、”配合“が自分のものとなっている」

 「奇跡だ。奇跡としか言いようがない」

 ユグリスが、口元に手を当てて息を飲む。


 「私の想像以上だ。……君はどうやら、“終焉因子(しゅうえんいんし)”だ」

 「そうらしいな。……どうやら私たちは、歴史の始まりに遭遇しているらしい」

 「ちょっと待ってください。なんですかその、“終焉因子”というのは」

 「終焉因子とは」と、ヴァレンティンが言う。「世界全体を大きく変革する存在のことだ」

 「もともとは教会の歴史書にも記されているものだが、……現在はその存在は隠蔽されている」

 「そもそも、この世界を今の形に整えたのが、三千年前に現れたひとりの“終焉因子”だと言われている。魔獣が跋扈し、暴力と憎悪の渦巻く世界にひとつの秩序を打ち立てたのが、その最初の“終焉因子”だ」

 「教会は次の“終焉因子”が現れることを恐れている。今の世界がひっくり返りかねないからだ。それで、“終焉因子”に関して記された全書を禁書にした」

 「そこには、“終焉因子”についてどのように書かれているのですか」

 「そこにはこう予言が書かれている」

 ヴァレンティンが言った。



 「ユフリス歴三千十四年、四月三日、新たな“終焉因子”がこの世界に”彼方人“として訪れ、新たな秩序を築く、と」


 二年前の四月三日。


 俺がこの世界にやってきた日だ。


 「その日付に」と、ヴァレンティンが言った。「なにか心当たりがあるようだな」






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