育成 4
「さて、それじゃあそろそろ解散しましょうか」
クララはゆったりと立ち上がる。
アドバイスも終わったし、あまり上司の私がいても休めないだろう。
そう思って食事半ばではあるが、クララはトレイを持つ。するとゾイヒェが「あ、じゃあ、僕も。クララ兵長と一緒にいきます」と立ち上がった。
「え、いや、でも……」
ここは隊が違えど、同期同士でお互いを高め合ってもらった方が。
そう思うけれど、ゾイヒェから爽やかな笑顔で見つめられ、クララは言葉を詰まらせた。
ゾイヒェが他の隊の兵長と一緒にいて不利益を被らないか、心配だけれども。この爽やかな笑顔を見ると、何も言えなくなる。
クララは軽く息を吐いてから「それじゃ」と、食堂を後にした。
食堂を後にしてからも、ゾイヒェはカルガモのようにクララの後をついてきた。いや笑顔でこちらについてくる様はカルガモより、どちらかと言うと……。
「……犬っぽい」
「なにか?」
「いえ」
自室に戻ろうとしていたところだったが、鍛錬場へ行き先を変える。
あそこなら座れる場所がある。かといって静かな場所でもないから、軽く話をしたい時は鍛錬場が一番なのだ。
クララは鍛錬場へ入ると、すぐに振り向いてゾイヒェと向き合う。
「えーと」
けれどいざ話そうとすると、なかなか言葉が出てこない。
ゾイヒェはそんなクララに気付いて、「すみません。ちょっと迷惑ですよね」と先に話始めた。
「実はクララ兵長に憧れていて」
「私に?」
憧れ?
思いがけない言葉を伝えられ、思わず口元が緩んでしまう。
クララは「そ、そっかぁ」となるべく表情を表に出さないようにしつつも、「どうして?」と問いかけた。
「クララ兵長は他国から来たと聞きました。それに婚約破棄もされたって。自分自身がお辛い中、兵長にまでなって、部下を思いやっていらっしゃる」
「えへへへ、まぁね」
「しかも王妃候補だったのもあって、指示も的確ですし」
「いやぁ、それほどでも」
褒めすぎじゃないかな、と思いつつ。やっぱり褒められることは嬉しい。
表情を出さないようにしていたのがどこへやら。クララは「えへへへへ」と頬が緩んでしまうのを抑えられない。
「実はクララ兵長に教えていただきたいことがありまして」
「うん、何でもどうぞ」
「うちの部隊、変なんです」
「変?」
クララが問いかけるとゾイヒェは、しっかりと頷いた。顔はもう笑顔を浮かべていない。
「ハイト兵長の指導の仕方が……僕達を育てているように思えなくて」
「……」
ハイト兵長というと。演習のときに、突っかかってきた人物だ。
前にロイヒテ少尉が言っていた、「自分のお気に入りの部下だけ優遇して、そうでないものには酷い扱いをする」という言葉を思い出す。
あの突っかかり方といい、もしかしたら……。
そう思いつつも「どうして」と尋ねる。
「あまりヴルムに乗せてもらえないんです」
「ゾイヒェ一人だけ?」
「いえ。それが全員なんです」
「……?」
全員? ゾイヒェだけならまだしも? 自分が可愛くて、部下に何も教えたくないタイプなのか?
クララの困惑をよそに、「それに」とゾイヒェは言葉を続ける。
「兵長自体もヴルムに乗っていないんです」
「!?」
「演習はいつもハイト兵長がどこかへ行ってしまって。その後一体何をしているのかも、何も分からなくて」
余計にクララは混乱する。
一日くらい演習時間をもらってもいいだろう、と言っていたし。第四部隊が他より遅れているのでは、と焦っている様子だったし。
ハイト兵長が何を考えているのか。さっぱり分からなくなってしまった。
「だから教えてほしくて。ハイト兵長をこのまま信じていいのか。僕はどうするべきなんでしょう」
「それは……」
すぐには答えられない。こういったことは私の独断では決められない。
「…………」
クララは完全に黙ってしまった。その時。カンカンカンとけたたましい警報音が鳴った。
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