第47話 感情に流されるべからず
今は、レインとヒロでギルド事務所の戸締りをしている。
「ヒロさん、マーテルさんはプロジェクトから外したほうがいいんじゃないですか?
あの人、道具使いとか商売人としてすごいの知ってますが、感じ悪いですよ」
「まぁ、確かにマーテルさんには相手への配慮に欠ける点はありますが…
それでも、彼はこのプロジェクトに必要な人材です」
チームの和を乱す人間は、どこにでもいる。
可能であれば、そういう人間は排除する。それもチームでプロジェクトをうまく進める際に必要なことではある。
が、人的リソースの采配はなかなか難しいものだ。
元の世界のプロジェクトでも、更新対象の既存システムを知っているのはこの人しかいない!となれば嫌な人でもプロジェクトには必要になる。
専門知識、立場、様々な理由でプロジェクトにメンバーとして入れざるを得ないことは多々ある。
レインが反発する。
「もっと、ヒロさんも怒ってくださいよ!
ヒロさんなら、あの人を言い負かすことなんてできるでしょ!?
なんかこう…痛めつけて悔い改めさせたいんです!」
「言い負かすなんて、とんでもないですよ。
思い出してみてみてください。
レインさんが初めに発言した時、マーテルさんが”素人は黙っていてください”と否定しましたよね。
その時、どう思いましたか?」
「あの時は、ショックで、私なんかが話しちゃいけないのかな、もう怖くて話せない。
そんな風に思いましたよ。
まったく、嫌な人です」
「もう話せない、話したくない。そう思っちゃいますよね。
私がマーテルさんを仮に言い負かしたとして、マーテルさんも同じように感じるでしょう。
そうなると、マーテルさんは意見を言わなくなります。
せっかくの、マーテルさんの専門知識が生かせなくなるのです。
そんなことが続いて行けば、レインさんが否定されたようなやりとりがどんどん増えていきます。
いつしか、誰も意見を言わない、殺伐としたチームになってしまいます。
それだけは、プロジェクトマネージャーとして阻止しなければなりません。
正直、私もマーテルさんは好きにはなれませんが、プロジェクトの目的達成のためにはうまくやっていく必要があると思っています」
ヒロがプロジェクトマネージャーとしてふるまう時に最も気にしていること。
プロジェクトマネジメントの極意。感情的にならないことだ。
感情に任せて人に攻撃したり、人を言い負かしたり、貶めたり。
それは、一時自分はスッキリするかもしれない。
だが、プロジェクトチームで目的を達成する上では、全く良い点はない。
ヒロが冷静にマーテルに言葉を返していたのは、その意識が強く働いていたからだ。
レインが驚いたような表情でヒロに話す。
「そんなことまで考えていたんですか。
嫌な人とも、人当たり良く接する…ストレスたまりそうですね。プロジェクトマネージャーって」
「辛いこともないといえば嘘になりますが、私はプロジェクトで目的を達成し、役に立つことが好きなんですよ。
うまく物事が進むって、楽しくないですか?」
「確かに、私もギルドの仕事がうまく進むとうれしいです。
感情的にならない…か。忘れないように、メモしておきますね!
ヒロさんみたいに、もっとうまく進められるようになったらどんな世界に見えるのか、私も見てみたいですから」
さっきまで腹を立てていたのに、どこまでも前向きな娘だなぁ。
ヒロはそう思った。




